【読書38】 「沈 黙」   (遠藤周作著 新潮文庫)         (10.6)


 切支丹禁制のあくまでも厳しい日本に、3人のポルトガルの若い司祭が潜入する。その一人ロドリゴには、彼の恩師であり、「稀に見る神学的才能」と「不屈の信念」を持つフィレイラが、この国で激しい拷問を受けて棄教したということが信じられなかった。
 潜入を果たした日本の状況は、あまりに暗い。潜伏、貧苦、裏切り…、捕らわれてのち受ける迫害、拷問、犠牲…。人間としての体力、気力の限界を超えた苦難にもかかわらず、ついに神の救いはあらわれない。彼の必死の祈りと問いかけにもかかわらず、神はかたくなに「沈黙」を守ったままである。自分の祈りは、神に届いているのか。いや、神は本当に存在するのか。


 暗い牢獄の底で、穴吊りにかけられた信者たちのうめき声を聞いて、なすすべもなく信仰を捨てるロドリゴの心のうつろいは、信仰心の薄い私たちにとっても、魂を削られる不安な悲しみが迫る。
 転向の証として「踏み絵」を踏むロドリゴの足の下で、キリストはこれを赦していたという逆説は、神の「沈黙」に対する答ではない。けれども、岡田三右衛門として生きるロドリゴに向ける、絵の中のキリストの眼差しは、諭すように彼に語りかける。「安心して行きなさい」と…。


 何処へ? なお、答は沈黙の彼方である。



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