【95】 2バッグ割り増しは時代の見えない愚策    2010.06.17


 友人のキンジロウくんが入会したので、Hゴルフクラブへ一緒に行ってきた。章くんも、昨年、このクラブに入会して、回り易い簡単なレイアウトに、これから年をとってからのゴルフにいいかなと考え、キンジロウくんに薦めたのだ。入会面接とかで、クラブからの呼び出しがあったというので、今日、出かけたものである。
 突然の訪問だったので、クラブのほうも書類などの準備があったのか、応接室で10分ほど待たされたのち、K渉外部長なる方が応対してくれた。
 キンジロウくん、「ゴルフ暦は35年、他にもメンバークラブがある」と言うと、エチケットやエントリーの方法などの話は割愛…。一段落したところで、章くんが。「ここは2バック割り増しを取っているが、やめたらどう?」と水を向けると、「ゴルフは4人そろえて来てください」と言う。


 ゴルフは、これから必ずコスト減の時代に入る。長年続く日本経済の停滞は、日本社会をデフレ体質にしてしまった。日本の景気は、近々の内に上昇することはないだろう。だとすれば、レジャーであるゴルフは、コストを切り詰めて低価格を実現し、顧客数の維持を図らねばならない。
 もとより、ゴルフは元来がスポーツであって、青少年が手軽に楽しむことの出来るものでなくてはならなかった。欧米の…特にスコットランドやアイルランドなど、長いゴルフの歴史を持つ地域のゴルフクラブは、地元の子どもたちには無料でコースや施設をを開放しているところも多い。子どもたちは学校が終わると、クラブを一本持ってゴルフ場へやってきて、ドライビングレンジでボールを打ったり、アプローチ練習場でボール遊びに興じたりしている。中には、500円程度かあるいは無料のコースラウンドへと連れ立って出て行く子どもたちもいる。それでこそゴルフの裾野は広がり、ゴルフ人口は増加し、ゴルフ産業は隆盛に向かうというものである。
 それを、金儲けの手段にして、金のかかる仕組みにしてしまった関係者の責任は大きい。加えて、高額な会員権を販売しながら、安易に会社を倒産させて、別の経営者に売り払えば、預かり金の払い戻しの責任からも免れるという日本社会の仕組みにも納得がいかない。小利口な錬金術師の前には、社会的規範とか道義的責任はないというのが日本の法律なのか。


 もともと、スコットランドのリンクスで、羊飼いたちの石を売って穴に入れる遊びから始まったというゴルフは、イギリスでスポーツとして発達した。
 それが日本へは、社交の手段として伝わった。日本でゴルフを楽しむ人たちは、プレーの合間に歓談し食事をも楽しむスタイルが、ごく当然のものとして定着してきた。アルコールを飲むのも、当然という状況である。
 どこの世界に、プレー中にアルコールを飲むスポーツがあるのか。日本では、ゴルフはスポーツでなく、社交や遊びの一種となったのである。(ならば、日本のゴルフは「6インチ・プレース、OBは前進4打、酒は飲み放題、下着・ステテコ・草履履きでフレーし、大声で笑い合っていてよいとするべきだろう。ゴルフは紳士のスポーツだなんて言う資格は、すでにない、)
 バブルの時代、ゴルフ場はミドリの社交場と呼ばれて、接待ゴルフなる言葉が横行した。客の好奇心をくすぐる、豪華なクラブハウスがもてはやされ、ゴルフは金のかかるものになっていった。しかし、アイルランドのゴルフクラブなんか、世界的に名前の知られているラヒンチGCやバリーバニオンGCでも、クラブハウスは掘っ立て小屋に毛の生えた程度の造りである。
 また、欧米では、プレーは2サム(2人組)が圧倒的に多い。中に3サムも見かけるが、1人で回っている人も結構いる。もちろん、電動カートを借りても、2バッグ・3バッグ割り増しなどない。4人組は、探すのが難しいぐらいで、子どもたちを交えた家族連れがいたりする程度だ。
 今日、マージャンでも4人をそろえるのは難しくて、3人打ちがはやっている時代だというのに、ゴルフに4人をそろえて来いなどというのは、時代を見透かすことの出来ない、バブルのころから思考が停止している時代遅れの思考である。


 日本のゴルフは、よりコストカット・低料金化の時代を迎える。1992年に章くんがアメリカを訪れたときに、すでにカリフォルニアのゴルフは低コストのスタイルであった。クラブハウスの受付はおばさんがひとりとか、プロショップのレジの女の子がやっているとかだったし、コースメンテナンスもごく少人数が芝刈り機に乗ったり、散水作業をしていた。
 章くんは、何度もゴルフの低料金化とプレースタイルの適正化を訴え、それが青少年の育生による裾野の拡大とゴルフ人口の増加につながり、その向こうにゴルフ隆盛の時代が来るのだと言ってきたが、ゴルフ業界の関係者に先見性はなかったということか。
 それでも、日本のゴルフ業界が客数の減少にあえぐなか、章くんのホームコースだった鈴鹿カンツリーは、プレーのセルフ化・料金の低減を実現し、2・3バッグの割り増しなしを打ち出すなどして、「ひとりがち」といわれるほどの驚異的な業績の向上を果たした。
 日本のゴルフの隆盛のためには、ゴルフ人口を増やし、プレーの楽しさを人々に味わってもらうことがひつようだろう。それには、ゴルフ関係者が、日本のゴルフの特異性に気づき、より人々に愛してもらうスポーツにするよう努力しなくてはならない。ゴルフ場の部長が、「4人そろえて来てください」とこともなげに繰り返して、2・3バッグ割り増しは当然だなんて感覚でいては、時代に取り残されてしまうというものである。


  ゴルフのページ トップへ