【ゴルフ61】 アプローチ応援団  −子猫たちのエール− 


 我が家の庭に、5匹の野良猫が住んでいる。住んでいたら野良猫じゃあないだろうと言われそうだが、どこからともなくやって来た茶色と黒のブチの雌猫に、母上がキャットフードを食べさせていたところ、週に2〜3度 顔を見せるようになった。
 我が家の界隈には、7〜10匹の野良猫がいる。これは、うちの母上と、向かいのミドリちゃんと、西の角の瓦屋のおじさんが、それぞれに家の前や庭にエサを置いているから、『あそこへ行けば食いはぐれはない』という情報をキャッチしたこれらの猫が、3軒を渡り歩いているわけである。
 母上たち3人は、ノラの動向をよく知っていて、「あれは新顔だ」とか、「茶色のトラが、近頃顔を見せない」とか言い合っている。捕まえては片っ端から獣医さんのところへ担ぎ込み、メスには避妊手術を施す。費用も馬鹿にはならんだろうと心配する向きには、母上、「市から補助が出ますから」と澄ましたものである。
 が、野良猫の用心深さと素早さは卓越していて、なかなかおじさん・おばさんでは捕まえられない。えさは食べにきても、さすがにノラで、家人に心を許してはいない。庭に置いてあるエサの皿に首を突っ込んでいる最中でも、掃きだしのガラス戸を少しでも明けると、一目散に縁の下へと姿を隠す。母上が口の大きいタモを振りかざして、猫を追いかけている姿も、なかなかの見ものである。
 捕まえ切れなかった一匹が、4匹の子を産んだ。この母子5匹が、母上が物置の前の箱の上に置いた、お下がりの座布団で暮らしている。夜などは寒いので、5匹が身体を寄せ合い、重なり合って寝ている。それでも、そっと近づいたりすると気配を察して、脱兎以上の速さで、全員いなくなる。





 僕は、ここ数週間、たくさんの原稿を抱えていて、締め切りを守らないものだから、印刷会社の担当くんに追い立てられ、家に缶詰状態にされている。そこで、運動不足を補うことと、苦手なアプローチを克服することとを目指して、庭でボールを転がし始めたわけだ。
 最初の日、15mほどの距離のアプローチをコツンコツンと打っていたら、4匹の子猫のうち、一番好奇心が旺盛な茶と黒のブチが見に来て、少し離れたところでチョコンと座って見ている。
 ポンと上がって、落ちてからはコロコロと転がるボールを、1球1球、止まるまで目で追っている。面白かったので、ブチの足元近くへ打ってやると、モジモジと足踏みをするような、なんとも落ち着かない仕草をする。
 5〜6球を足元へ転がしたら、もう辛抱できなくなって 前足で押さえにかかった。一度動き出した身体は、もう止まらない。次々と転がってくるボールを追いかけ、飛び掛って押さえている。子猫応援団2
 やがて…、僕がアドレスに入ると、ブチもじっと構えて、ポンと打つとボールに向かってダッシュ…。コロコロと転がるボールを押さえると、ブチの勝ち!
 当てないように、でも、できるだけ足元近くに運んで、押さえやすいボールを打つように集中したから、僕のアプローチもかなり上手になったのではないだろうか。


← 「早く打って来い」と身構えるブチ 
  ブチは茶黒ミックスだから、うしろのちょっと
  黒ずんだ生垣の柱に、溶け込んでいる。



 翌日、コツンコツンと打ち出すと、またブチがやって来て、ジッと見ている。誘い水を足元へコロコロと転がすと、釣れたー。前を転がっていくポールに、手が飛び出してしまったのだ。
 ブチがボールを追いかけていると、シロ1号が様子を見に出てきた。4匹の子猫のうち、茶黒のブチが1匹で、あとの3匹が全部シロなのである。その3匹の区別はつかないのだが、シロのうちの2・3号はちょっと慎重な性格で、僕のアプローチに付き合う気はない。
 シロ1号も警戒心旺盛で、なかなか近づいてこようとはしなかったのだが、子猫の好奇心は、往々にして警戒心を上回るようである。近くへ来たボールに、つい手が出てしまった。
 この日から、ブチとシロ1号の2匹で、僕のアプローチの品定めをすることとなった。すなわち、近くへ転がしたボールは追うけれども、ダフって彼らの(彼女かもしれない)足元まで届かなかった子猫応援団1ものや、1mほど逸れたものなどは、ジッと見てはいても、追いかけようとはしない。僕としては、遊んでもらうためには、その守備範囲内へ、適当な速さで転がるボールを打たねばならない。


        「こいつの腕は信用ならん」と
         警戒心丸出しのシロ1号   →




 大事件が起こった。僕が打ったボールがちょっとトップ気味で、ブチの腹へボコンと当たってしまったのだ。「いけねー」と僕は一瞬凍りついたのだが、当てられたブチは一向に応えた様子もなく、「次、早く打って来い」と身構えている。
 ブチの根性に感激した僕は、満身創痍で付き合ってくれる彼に応えるためにも、アプローチ上手にならなければと心に決めて、今日もサンドウエッジを握り締めている。。

子猫応援団3
← 「こんなところまで打ってきて、危ないニャア〜。
  ガラス、割れるとこやったわ。」
  「こいつのアプローチは、信用ならんニャア〜」


 昨日は、猫たち一家の姿を見なかった。寒かったから、どこか暖かいところへ引っ越したのだろうかと思っていたのだが、今日、打ち出したら、縁の下からブチが顔を出した。


 ゴルフのページ トップへ