【物見遊山79】 名古屋 栄の大観覧車と 明治村         2005.03.19-20


 名古屋栄のど真中に、観覧車つきのビルがオープンした。「サン栄のビル街に出現した大観覧車シャイン栄」という。
 何はともあれ、観覧車に乗ってみなくては…と出かけた。乗り込んでから気づいた、僕は高所恐怖症だったのだ。
 ゆっくりと上がっていくゴンドラからは、上下左右…360度の眺望を楽しむことができる。いつもは見上げているコカ・コーラの赤いネオンが真横にあるし、車の列ははるか足元だ。
 登っていくときに進行方向へ向かって腰掛けていた僕は、最上点を過ぎて下りにかかったところで、眺望を確保するために席を向かい側へ替わらねばならないことに気づいた。向かい側の席へは2mほど…、しかし高所恐怖症にとって地上数十メートルにおけるその移動は、地上で地球を一周するに等しい。手すりをしっかり握って、ソロリソロリと体を入れかえる。向こう側の席に座ったときには、体中がコチコチだった。
 やっと席替え完了と思ったら、移動に時間がかかりすぎて間もなく下車地点である。一周は約10分ほどだが、折からの夕闇迫る名古屋の街は、さまざまな色のネオンが瞬いて綺麗であった。http://www.s-sa.jp/index.html
 夕食に雲竜ビルの「月の宴」へと向かう。先日、優待券が届いたので、行ってみようと思い立ったものだ。今日が初めての訪問である。
 全国各地の清酒と焼酎が取り揃えてあるというのがウリであるが、下戸の僕には何の意味もない。料理は…、刺身の種類の少ないのが難点である。刺身盛り合わせ、手羽先のいかだ串、明太いわし、黒豚の和風ポトフ、長崎皿うどん、海苔茶漬け。食べすぎ!
 帰る気にもなれず、国際ホテルに部屋を取った。
岐阜城

 20日、岐阜の金華山に行ってみようと、名岐バイパスを岐阜へと走る。金華山は、高校の遠足で訪れたことがあるのだが、そのときには山の上へは登らなかった。下から、頂上に聳える岐阜城を見上げて、織田信長が天下布武を宣したこの城へ、いつか登ってみたいと思ったものである。
 あれから40年、やっとたどり着いた頂上はふもとの駅からケーブルカーで3分…。流れた歳月に比べて、あっけないほど簡単に着いた。
 場内には、武具や用品、文書などが展示されている。それらを見ながら天守閣へと登った。眼下には長良の流れが蛇行し、濃尾平野がかすんでいる。それにしてもこの城の登り道の険しいことはどうだろう。ふもとから歩いて40分というが、往時の武士(もののふ)たちは毎日この道を往来していたということか。


 明治村の蒸気機関車お昼を岐阜市内のうどん屋で済ませ、午後からは「明治村」へ向かった。「明治村」は文字通り明治の建築物が展示されていて、進取の精神に燃える明治の気概と、和洋の織りなすノスタルジアを漂わせた、不思議な魅力のある村で、僕のお気に入りの場所のひとつである。
 北駐車場へ車を止め、北門から入ると、すぐに蒸気機関車の「とうきゃうえき(東京駅)」があって、ここから汽車に乗って正門付近の1丁目へと向かう。


 先ずは明治12年竣工、昭和39年に明治村へ移築された三重県庁舎へ上がり、もう何度目かになるが、各部屋を見て回った。実は僕は、この三重県庁舎が三重県津市の吉田山に建っていた当時の姿を知っている。たしか正門は黒い鉄格子の門で、その門を入ってすぐ正面に、玄関があったと思う。まだ幼稚園へ上がるかどうかといった頃の記憶だが…。名張市から移築された「蔵持小学校校舎」も、わがふるさと三重県の建物である。聖ヨハネ教会
 その奥に建つ「聖ヨハネ教会」は、僕の好きな建物のひとつだ。元は京都の川原町五条にあったという教会だが、小じんまりしたレンガ色の外観がシックである。1階は集会所、2階に礼拝所があって、僕は今日も「ゴルフのニギリに勝ちますように」と祈ってきた。(他に祈ることはないのか、情けない!)

 他に好きな建物は、明治23年(1890年)から1年あまりを森鴎外が、明治36年から39年までを夏目漱石がここに住んで、漱石はここで「吾輩は猫である」を発表したという「森鴎外・夏目漱石住宅」。書斎には、陶器製の猫が居る。

旧 帝国ホテル玄関 そして、明治の建物ではないけれども明治村にとてもよくお似合いの「帝国ホテル正面玄関」も、僕の大のお気に入りだ。大正12年9月1日、奇しくも竣工披露宴が関東大震災の当日であり、多くの建物が被害をこうむった中で、この帝国ホテルだけがガラス1枚すら割れなかったという。
 2階の喫茶室で、コーヒーを飲んだ。酸味の利いた、少しすっぱい味がした。当時の内閣総理大臣は山本権兵衛。時代が軍国日本へと傾斜する中で、芥川龍之介や中原中也など若き文学青年たちも、このすっぱいコーヒーをすすりながら、この窓から移り行く風景を見つめていたのだろうか。


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