【物見遊山 第6ページ】

【42】 誰と歩こう 春の宵 「京都 花灯路」     (3.14)
京都 花灯路 パンフレット

 東山に夜の帳(とばり)が下りる頃、清水寺から高台寺・八坂神社・円山公園・知恩院そして青蓮院に至るおよそ2qの散策路に、2000余の明かりが灯る。桜の季節を控え、冬冷えにしばし人枯れする京都の街に観光客を呼ぼうと、今年から企画された「新京都風物詩」である。
 道端に和花の一輪挿しと路地行灯が点々と続く。行灯は、北山杉・清水焼・京銘竹であつらえられていて、ほのかな明かりが道行く人の足元を照らし出す。周囲の店も夜間営業を続け、軒先に提灯を吊るして明かりを灯す。期間中、各社寺はライトアップし、清水寺・高台寺・圓徳院は夜間拝観を行っている。
 高台寺の駐車場へ車を停めて、夜間拝観の寺内へ入ってみた。路順に沿って、行灯の明かりが続く。お堂や木々がライトアップされて、暮れなずむ東山を背高台寺の夜間拝観景に、幻想的な姿を浮かべていた。
 高台寺は、別名「ねねの寺」とも称され、豊臣秀吉の没後、その菩提を弔うため北政所ねね(出家して高台院湖月尼)が開創した寺である。中門を入って右側に臥龍池が広がる。風もない今宵は、鏡のように静かなその水面に、秀吉とねねのお霊を祀る霊屋(おたまや)と周りの木々が見事に映り、吸い込まれるような光景であった。

ゆば料理の羽柴
 高台寺を出て、急な石段を下り、ふもとの旧高台寺道(清水から丸山へ通じる小路)沿いにある「羽柴」へ寄ってみた。羽柴はゆば料理一筋、女将は「自信持ってます」と胸を張る。大豆のふくよかな味わいとはんなりしたかおりを漂わせるゆば料理は、良質の蛋白質やビタミン類を豊富に含むヘルシーメニューだ。
 羽柴自慢の二本立ては、生ゆばを豆乳につけて青物を添えて煮立てるゆば鍋と、生ゆばをあんかけ風にご飯にかけたゆばご飯。それに、ゴマ豆腐の先付け、煮物・焼き物・田楽などの詰められた大鉢、季節の和え物の小鉢、肉饅頭の御浸し、汁椀と並べての「ゆば鍋御膳」は、湯葉を食べた〜っと、大満足できる逸品である。


 円山公園へ下る道を、人ごみに混じって歩く。昼間の気温も高かった今宵は、風もなくて暖かく、たいへんな人出である。八坂さんからあとは、知恩院への道を上るか、それとも祇園へ…。




【41】 異臭を放つ肉 どうした松阪肉ブランド           (3.12) 


 松阪での仕事が一段落した午後3時、昼食をまだ摂っていないことを思い出し、電柱の看板に誘われて「牛銀」を訪ねてみた。ここ10年来はなぜか和田金・三松といった店に行くことが多く、牛銀を訪ねるのは10数年ぶりである。すき焼や網焼きはちょっと重過ぎる感じであったが、椅子席の洋食店ができたということを聞いていて、訪ねてみようと思ったのである。
 この辺だったかな…と、松阪特有の狭い道をくねくねと入っていくと、大きな衝立の置かれた古い玄関が見え、その横に「洋食牛銀」のドアがあった。2階の窓際の椅子席に着いて、ここでもシェフおすすめとある「特選牛フィレ肉 サラダ・ご飯つき」を頼んだ。
 待つこと10分たらず。運ばれてきた焼きフィレ肉から、饐(す)えた匂いが漂う。ちょっとおかしいなと思いつつ、食べれば美味かと一切れを口に運び、グイと噛み切ると口いっぱいに広がる肉汁の…となるはずだったのだが、肉の柔らかさは確かとはいうものの、やはり饐えたような味がする。
 3500円だから残してはもったいない、もっと食べろと友人もガンバルのだが、4切れのうち2枚を残してしまった。ガンバッた友人も1枚を残して、「松阪肉の名前にすがって、こんな肉を出していては、老舗の看板が泣くよな」と不満をもらす。
 肉は腐りかけが美味い…と俗に言うが、それは一般家庭で少し色の変わった肉を気味悪がるのをたしなめる言葉で、まさか老舗の肉の専門店で、その言葉のままに腐りかけて臭いの変わった肉をわざわざ出すなどということはあるまい。だとすれば、管理の悪い肉か古い肉で、異臭を放ち始めていたということなのだろう。
 狂牛病騒動以来、肉の消費が低迷した時期を跳ねのけて、生産管理をしっかり示す松阪肉ブランドの人気は、その美味なる味と相まって揺るがずに来ている。しかし生産管理をしっかりしても、品質管理がおろそかで、臭いを放つ肉を客に出していては、ブランドを守る人々の努力を台無しにしているといわねばならない。


 今、考えてみると、その場でシェフを呼んで「この肉の臭いはおかしくないか」ときちんと言うべきであった。先年、四日市都ホテルのレストランで、油の臭いがプンとしたのでコースの肉を半分ほど残したら、ギャルソンがやって来て「何か不首尾でも…」と聞いてきた。「いや、ちょっと油が合わないようだけど、それは僕の個人的な好みの問題だから」と次の料理を出してもらったのだが、「作り直します」と言うので、「そんなに食べられないと」笑ったら、「料金を引かせていただきます」と処理してくれた。アルバイトみたいな接客の女の子にそこまでの配慮を求めるのは無理なのだろうが、きちんと言えば、牛銀も「お口に合わず申し訳ありません」と対応してくれたかも知れない。



【40】 山のあなたの桃源郷 「多羅尾の湯」            (3.10)

峠から 上野盆地を望む
 いつどこでも温泉に入れるように、着替えとお風呂セットを車に積んでいる。何とか温泉という看板を見つけると、飛び込むわけである。
 今日は、伊賀上野での仕事が午後3時に終わったので、かねてから噂に聞いている「多羅尾の湯」へ行ってみた。
 名阪大内インターから北へ、西高倉の三叉路を左へとって多羅尾を目指す。途中の山道は九十九折で、さっき登ってきた道が眼下に見える。峠に高浜虚子の句碑「切通し 玄関 タヌキが出迎えてくれる多羅尾 寒風 押し通る」。なるほど、今日も冷たい風が吹きぬけていく。
 峠が県境で、滋賀県へ越えるとすぐに、タラオカントリークラブの案内板が見えた。矢印に従って右折し、しばらく行くと、突然目の前に36ホールのパノラマが広がる。「多羅尾の湯」は、タラオビューホテルに泊まってゴルフをする客も利用する、リゾート施設の一環である。
 信楽焼きの狸が出迎えてくれる玄関を入ると受け付けカウンターがあり、入泉料1000円を支払うとタオルをくれる。バスタオル・シュンプーなどは全て備え付けで、客は手ぶらで入っていけばよい。風呂の縁先には雪が残っている
 単純アルカリ泉、湧出湯温41℃。室内の湯船3つには湯があふれ、露天の檜風呂、岩風呂も豊かな湯量に恵まれている。湯殿も、露天も、休憩室も新しく、整髪室もキレイで気持ちよい。サウナ室完備、洗い場も一人分ずつがセパレートされていて、隣を気にすることもない。カランの湯も温泉のため、チョットぬるぬるするが、湯の量は十分な豊かさだ。
 露天風呂のすこしぬるい目の湯温もよい。縁へタオルを置いて枕にし、ゆっくりと浸かってきた。あたりの山の北側斜面や風呂場の縁側には雪が残っていて、吹きぬける風は肌を冷やしていく。湯の中にある体はゆったりと温かく、湯から出ている肩先から顔はひんやりと冷たい。
 30分ほどもでたり入ったりしながら、風呂場にいた。カラスの行水と評される身としては、ずいぶんの長湯である。フラフラになって上がってきて、バスタオルに包まり籐椅子でのんびりと休む。ぽかぽかと体の芯から暖かい。


 レストランへ回って、メニューにシェフお勧めと書かれたロシアンレストランのロシアンディナー・ディナーを頼んだ。宿泊の客のためにセットされた席がほとんどで、片隅しか空いてなかったが、それを割り引いても、まま美味しいスープ・ピロシキ・ボルシチ・サラダ、デザートのハーフディナーであった。チョット申し訳なかったが、ピロシキは揚げた油の臭いが鼻について、半分残してしまった。




【39】生け簀のガシに舌つづみ「浜辺屋」              (2.7)

民宿「浜辺屋」の玄関 右が居酒屋の入り口
 伊勢での仕事を終えて、午後6時、鳥羽市小浜の「浜辺屋」をのぞいてみた。浜に揚がった新鮮な魚を使った料理が並ぶ居酒屋、地元の常連客も多い。
 マグロのつくり・てっさ…イマイチ! ちょっとスベッタかなと思いながらガシの煮つけを頼むと、生け簀に泳ぐ1尾をすくって、「これでよろしいですか」と言う。僕は生け簀というものをあまり信用していないのだが、このガシは身が締まっていた。続く赤貝の造りも、コリコリと美味しかった。
 番付に「ふかのたれ」というメニューを見つけて、「これ、何…?」と聞くと、「ふかの干物です。こちらでは干物のことをタレと言うんです」とのこと。地の物はとにかく食べろということで、「じゃぁ、それ」と頼んだところ、これが美味しい。柔らかくあぶられたふかの身に、ほんのりした塩味がつけられていて、噛めば噛むほど味が出る。最後に頼んだふぐ雑炊に微妙に馴染んで、絶妙の味わいであった。



【38】豊潤な伊賀肉の味わい「名阪茶屋」の陶板焼き         (2.4)


 分厚いフィレ肉2枚とロース2枚。甘辛い味付けでさっぱりと仕上げた陶板焼きである。グイと噛りつくと豊潤な肉汁が口中に広がり、やがて喉から腹の中にゆっくりと落ちていく。深い味わいを乗せる厚手の陶板は伊賀焼きで、店主の小澤仁善氏の手慰みによる作品である。
 ご主人の小澤氏は、陶芸30年の作暦を誇り、店先にも氏の作品が並ぶ。大皿・板皿・銚子・グイ呑みや抹茶茶碗など、何でも作る。そのひとつひとつが、伊賀焼きの素朴で深い味わいをかもしている。
 この陶板焼きのほか、すき焼・鉄板焼きなど伊賀肉の豊かさを存分に味わわせる料理が並ぶ。さらに、お刺身定食とか和食の品揃えも豊富だ。
 座敷からの庭がまた良い。大小の錦鯉が泳ぐ池の周りに、とりどりの石や木々・灯篭を配し、四季折々の花を添える。このたたずまいを愛でながら料理を賞味するという趣向、何とも落ち着く。
 小澤氏との付き合いは今から30年ほど前にさかのぼる。滋賀県の信楽カントリークラブで催されたゴルフダイジェスト社の合宿研修に参加したときが、最初のめぐり合いであった。
 この庭の趣きは、「もうちょっと暖かなったら、ゴルフ、勝負しまひょか」と、今日も挑戦的なこのオッサンのセンスなんだろうか。




【37】伊勢 川崎町 「虎丸」 ー新鮮な食材を 伊賀焼きの器でー   (2.1)

伊勢「虎丸」
 伊勢市川崎町は、勢田川に面して町並みが広がり、江戸時代から水運を利用しての問屋が軒を並べる。格子戸をめぐらせて、何層もの蔵を持った大きな店が続き、重厚な家々のつくりは昔の豪商の面影を伝えている。
 この一帯には、その蔵をそのまま生かして店にした飲食店が見られる。その日に市場へ揚がった食材だけを並べる「虎丸」も、土蔵を改造した店のひとつだ。
 今日のお勧めは、300kgのまぐろ。中トロと赤味の造り、トロ炙り、マグロ茶漬けとまぐろを食べつくしてきた。養殖や冷凍ものは一切使っていませんと言うだけあって、造りは切り身の角がピンと立っていて歯応えがいい。中トロは口に入れるとフッととろけてワサビの香りと溶け合い、赤味はサクッとした味わいがある。
 食材の新鮮さが何よりのこの店は、開店の午後5時を少し回るとすぐに満席になる。一回転した頃の7時前後にはポツポツと空き席ができるが、この頃には品切れのネタが続出して、壁に貼られた「本日のお料理」のお品書きに、次々と墨線が引かれていく。
 この日のマグロの300分の1に加えて、白子のホイル焼き、カレイの煮付けまで食べて、またまたお腹ポンポン!




【36】名古屋「韓楽街」 ー韓国料理の名前を勉強してお出かけ下さいー (1.27)


 劇団四季がミュージカル劇場を仮設していた土地の裏手の空き地に、テントを張って韓国料理を食べさせる屋台ができていて、2月一杯までの営業だという。屋台ではちょっと寒いかと思い、アノラックのズボンをはき、ダウンジャケットを着込んで出かけたところ、隙間なく囲んだテントの中にはガンガンと炭火が焚かれていて暖かかった。ダウンは脱いだのだがズボンを脱ぐわけにもいかず、ムレムレでトウガラシの利いた料理をパクつくことになった。
 ところが、鍋料理や焼肉などは全て2人前からだという。それでは一品で満腹になってしまう。そこで、棚に並んでいるアラカルトを少しずつ皿に取ってきてパクついた。その中の「イカキムチ」が絶品! 少量を取って舐めるように味わうのも乙なものであるが、チヂミに乗せたりして食べるとピリッと辛味が舌先を刺すけれど、二噛み三噛みしていくと、かすかな甘味とともに味わいが口の中に広がる。
 店の中に料理の名前を書いた短冊がたくさん貼られていた。ところが全て韓国語でカタカナ書きである。料理の名前を知らないので、実物の前に行って、「これくれー」と叫んで食べてきた。鍋・焼肉を食べられなかったのは残念だったが、総じて味は韓国らしくきっぱりと美味しかった。カルビクッパなど、真ッ赤ッ赤で火を吹く辛さだ。




【35】IMANAS亭(FLEX店)と池田公園?            (1.24)


 地上24階からの夜景を見ながら焼肉をパクつこうと思って、名古屋の雲竜ビルにある「IMANAS亭」に出かけた。数ある焼肉店の中からこの店にしたのは、3ヶ月に1回ほど割引券を送ってくれることが決定要因だったのだが、往きの車の中で探してみたら持ったはずの券がない。「まぁ仕方ないか」と途中で予約を入れてそのまま走り、7時過ぎに24階に着いた。今日は天気が良かったせいか、眼下に広がる夜景がいつもに増して鮮やかであった。
 この店のお勧めは「上カルビ1800円」。特上カルビ2800円や極上3800円、さらにはサーロイン9500円などもあり、一度は食べてみるのも良いが、上カルビ1800円の味わいに結局は帰ってくる。風味の違いは確かにあるが、「焼肉食べた−ッ。美味かった−ッ!」という実感がこみ上げるのは上カルビ1800円である。この日は、これを2人前と名古屋コーチン、テールスープ、キムチの盛り合わせ、玉子クッパを平らげて大満足!
 この店のもうひとつのお勧めは「トイレ」。足元までガラス張りの個室に入ると、周囲の景色が眼下に一望される。女の人ならば、便器に腰掛けて夜景に浸ることが出来る。女子大小路公園?の電飾
 満腹の腹を抱えて女子大小路をぶらついた。空港通りに出る手前に公園があった。何という名前の公園かわからないのだが、隅っこにある交番の名前が「池田交番」だから、池田公園じゃないだろうか。この公園の木々に、ド派手なイルミネーションが施されている。赤やピンク、緑、青などの色が多彩に使われていて、妖艶なおもむきの電飾である。
 この一帯は韓国料理の店が並ぶ。美味しそうな香りが周辺に漂っているが、さすがに今夜はパス!!




【34】雪の金閣寺異聞?  −竜安寺石庭は、味覚的理解を−     (1.15)


 7時前に目覚めた。まだ明け切らない庭の景色が、妙に明るい。窓を開けてのぞくと、どんよりした空から雪がチラチラと舞い散り、庭木がうっすらと白化粧している。昨夜の天気予報は晴れと言っていたから、程なく止むものと思っていたら、9時に郵便局へ出かけるときには、数センチの積雪となった。
 郵便局で書留を1通出して、本日の業務は終了。近くのゴルフ練習場へ出かけて50球ほど打っていると、急に雲が晴れて太陽の光が降り注ぎ出した。「じゃあ、雪の京都もいいかな」と思って、伊勢自動車道に乗った。鈴鹿峠にかかる頃、山を覆う雲はまた厚く間断なく雪が舞う。帰り道の心配をしつつ、今日帰ってこなければならないこともないからと、車を走らせた。
 折からの雪に、国道1号線はあちこちで渋滞。水口から右折して名神竜王ICへ向かう。雪はなおも降り続き、山間の道は見る見る白く色づいておぼつかない。前を行くトラックのわだちを外さないように従い、インターへ着いた。名神高速は交通量も多く、周囲の山や路肩は雪景色であったが、路面は問題ない。しかし、慎重な車が多く、いつもよりは時間がかかった。
 12時過ぎに着いた京都も、小雪がちらつく。「雪の北山を借景にまばゆく輝く金箔…やっぱり金閣寺か」と、一路西大路を北上する。金閣寺前の交差点を左へ曲がると、直ぐに入り口が見える。15年ぶりぐらいの訪問にちょっと胸を高ぶらせながら駐車場へ入ると、整理のおじさんが「屋根を修理中で覆いが掛けられていますので、金閣寺は見られませんがよろしいですか」と言う。「???…。ここまで来たのだから」と拝観料400円を払って庭園を巡ってきた。
雪の金閣寺(絵ハガキから)

 受付で、雪の金閣寺の絵葉書をくれた→
 このような絶景が眼前に広がると勇躍して来たのだが 保護布にスッポリと覆われて屋根葺き工事中の鹿苑寺 ↓


 4・5人の学生風の一行が、「透明のビニールで覆えばいいのに」「遠いところから、来てるんだから」と言いながら通り過ぎて行った。


 金閣寺のあと、少し足を伸ばして竜安寺へ向かった。エッ、こんなに大きな寺だったかと改めて思わされるぐらい、この寺も広い。山門を入ると左手に大小の島を浮かべる鏡容池が広がり、そのほとりを巡って方丈へと向かう。
 石庭の趣きは今もって解らない。パンフには「禅的・哲学的に、見る人の思想信条によって多岐に解されている」とあるが、「家にあったら、庭木を植えてしまうなぁ」というのが感想なのだから、石庭とは何かからして解っていない。
 境内の西源院にある茶庭で、遅い昼食を取った。底冷えの京都のこの日、湯豆腐がはらわたに滲みた。禅的・哲学的には解らないけれど、寒い日には湯豆腐…と味覚的な理解はなんとかできるよう。


 夜おそくなってしまったので、京都で泊まることにした。雪まじりのミゾレがちらついていて、夜の鈴鹿峠を下るのは凍結が心配だったからである。ホテルのテレビを点けたら、「今日の京都はこの冬一番の冷え込みで、チラホラと咲きかけた北野天満宮の梅もびっくり…」と、紅梅に積もった雪を映し出していた。明日は、北野の梅林に寄っていこう。




【33】 宗右衛門町 午前5時   −眠らない町の黎明−       (1.11)


 宗右衛門町で格好の店を見つけた。冬の定番のふぐと蟹やホッケなどの北海道物を扱う割烹「新いそふく」、午前5時までやっている。
 正月中に2度ほど名古屋へ出かけたのだが、いつもの居酒屋と中華料理店を回っただけで、特に面白いこともなく帰ってきた。ここに報告するほどのこともない夜が続いたのだが、6日の夜、栄のロイヤルホストでコーヒーを飲んでいたとき、ちょっと風体の良くないおじさんが、頼んだものが遅いと怒って、出されたコーヒーの代金だけを投げつけて帰っていった。事実、「待たせすぎだぜ」と私も思ったぐらい、注文した品が出てくるのが遅い。私の場合、手の込んだ品を注文したわけでなく、ジェラーコーンアホガードというアイスクリームにエスプレッソコーヒーをかけて摘まむ、これ以上簡単なものはないという品で15分ほどかかっていた。おじさんはセットの料理を頼んだのだろうが、先にと言ったコーヒーだけ出てきてあとの料理が出て来ない。コーヒーをみんな飲んでしまっても、出て来ない。だから怒ったのだ。
 近頃は、腹が立ったといってストレートに怒る人は珍しい。理不尽感があればきちんと抗議するのが当たり前で、最近の日本人は言いたいことも…言わねばならないことも…言えずに、口の中でもごもごするだけである。このおじさんの怒るのは当然だ。店のおばさんも、「お金を投げないでくださいねッ」と抵抗していた。新いそふく
 ちょっと話が長くなってしまったが、大阪は町そのものが何か面白い。宗右衛門町もこのところ風俗店が目立つが、名古屋の風俗店は外見はオフィスの入り口みたいで、看板があるからそれとわかる程度である。しかし大阪のそれは、ブラとパンツの女の子の大写真がデカデカと貼りまくってあり、客を挑発している。尻だけ大アップの写真もあった。
 「新いそふく」は、堺町筋を宗右衛門町へ入ってすぐにある「磯ふく」の兄弟店。あいだに3軒ほどの店を挟んで並びにある。「磯ふく」は純粋にふぐだけを扱う専門店で押し通している(夏ははも)が、「新いそふく」はふぐと北海道直送の蟹や魚を出す。両店とも、ふぐコースは9500円。天然ものというと2万5千円ぐらいだろう、聞いたわけではないので定かではない。近くの創業250年というふぐ割烹「とんぼ」は、コース1万円で、天然ものと名指せば2万5千円。でも、10時に閉店するのが致命的だ。
 「磯ふく」は広い座敷に上がってそれぞれのテーブルで食べるが、「新いそふく」は店を入るとカウンターと椅子席が4卓、それに小部屋が5室ほどある。奥の小部屋は道頓堀川に面していて、「磯ふくとは裏で続いてるの?」と聞いたら、プクッとした仲居さんが「川、泳いでったら行けまっせ」と言って、ニヤリと笑った。
 外へでて時計を見ると午前4時半。心斎橋筋や法善寺横町の店はさすがに閉まっていた。先日の火事で焼けた界隈も、6月復興を目指して建築中。十日戎の笹飾りが、人通りの絶えた町を吹き抜ける風に揺れていた。
 しかし、ここ宗右衛門町は眠らない町だ。むしろその本当の姿を見せはじめるのは、風俗の女の子たちが帰路に就く、これからである。



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