物見遊山のページ 9

【61】 もみじ『永観堂』祇園『丸山』             (11/10)

祇園 丸山 
 数寄屋造りの格子戸をくぐり、玄関を入ると、古伊万里の鉢に植えられた梅もどきが迎えてくれる。今日のお昼は、祇園「丸山」。ご主人の丸山嘉桜さん、季節の移ろいを味におりこみ、観・音・香に心を配るという。目にも鮮やかな金箔光琳盛り、紅葉の京を愛でる心が込められている。
祇園「丸山」のお昼 明日、ここで京都商工会議所の集まりがあって、ご主人、『京料理におけるスローフードとファーストフード』と題する講演をするとか。料理に対する研究心と真剣さは、万人の認めるところだ。この店に立ち寄るようになって10年が経つが、料理とともに、店の隅々まで行き届いたもてなしにはいつも感心させられる。
 お昼は15000円。しかし、この店を訪ねるにはやはり腰を落ち着けて夜の料理をいただきたい。会席25000円も結構な品々だが、ご主人の心づくしを堪能するにはおまかせ(35000円〜)を頼むとよい。おいしい料理は世の中にままあるが、料理がおいしいとはどういうことかを知らしめてくれる一品に出会うことができるだろう。


 10年ぶりの規模となる一大特別展と銘打って、東寺の宝物殿が公開されているのでのぞいてみた。「金銅密教法具」(国宝)、「真言七祖像」(国宝)など、空海が唐より持ち帰った経典、絵画、法具類の中から6点を抜粋して展示していた。
 時計を見ると午後4時を少し回っている。嵐山界隈を訪ねるには少し遅い。京都駅の伊勢丹へ寄って買い物をし、コーヒーを飲んでから、永観堂へ向かった。
 この時期、もみじの永観堂はライトアップし、あわせライトアップの永観堂方丈て寺宝の公開も行っている。秋の日の暮れるのは早い。伊勢丹を出たときは、かすかに明かりが残っていた東の空も、いつの間にかとっぷりと暮れて、山の端もかすかに望めるだけ。無明暗夜の闇の中にたたずむこの寺の正式な名前は、聖衆来迎山 無量寿院禅林寺。第七世法主永観律師にちなみ永観堂と呼ばれているライトアップの永観堂 これで4分とか。
永観堂という名前から、お堂ともみじのこじんまりした古刹かと思っていたところ、総門、中門の奥には鶴寿台・方丈・釈迦堂・瑞紫殿・御影堂・阿弥陀堂・開山堂などの伽藍を重ね、「阿弥陀如来像」「紙本着色融通念佛縁起」などの寺宝を擁する大寺院であった。
 寺内、数百本を数えるもみじは、いま4分。それでも、ライトアップに映える様は見事であった。
 また11月中の末に、もう一度訪ねてみようと思う。そのころには、全山は燃えるような紅葉で埋め尽くされていることだろう。



【60】「唐招提寺 宝蔵開扉」と「大和郡山のフレンチ ル・ベンケイ
(10.30)
唐招提寺 山門
 鑑真和上ゆかりの古刹「唐招提寺」の宝蔵が、34年ぶりに公開された。金堂が解体修理中で、ジュラルミンの館にすっぽり入って化粧直しされていて、平成21年に新装なった姿を見せる。金堂の柱は修理中なので、堀辰雄のいうエンタシスのふくらみを、南大門の柱に見ようと目を細めてみた。上にいくほど少し細くなっている古びた柱に、シルクロードを越えてきた天平のギリシャ様式を見た思いであった。
 境内に入ってすぐ右に折れて、宝蔵・経蔵に向かう。ともに天平期の校倉造り、特に右側の経蔵は唐招提寺創建(唐招提寺 校倉造の経蔵759)以前の遺構で、東大寺の正倉院よりも古いという。
 今回の開扉は宝蔵で、懐中電灯を貸してもらって特設の階段を上がり蔵内に入ると、暗さに目が慣れるまで何も見えない。やっと目が慣れてくると、ガラスケースの中に収められた、経典やそれを収納する文庫などが見えてきた。それでも薄暗い蔵内の隅に置かれたケースの中の展示だから、目を凝らしても書かれた文字などは読めない。電池が乏しくて光りが赤い懐中電灯のありがたさが理解できコスモス咲く大和路た。
 右奥のケースの上段に無造作に置かれた鉄のお椀に目を奪われた。鑑真和上ご愛用の托鉢碗である。細かい模様の施された鉄製のこの容器を抱えて、和上は大和の路を歩まれたのであろうか。
 日本仏教に戒壇を整えられ、位階・制度の礎を築かれた和上の御恩は計り知れず、五度に及ぶ遭難…失明を乗り越えて東征された御心を思えば、今日の日本仏教のみならず、わが国にとって大恩ある御方と言わねばならない。
 その和上の愛用された托鉢碗を前に、えもいえないありがたさを感じた。何で奈良まで茶碗を見に行くのや…と言われそうだが、古い鉄の茶碗が語る世界を見に行ったのである。

ル・ベンケイ 石畳の玄関 夕方、食事をしようと思い、去年ある会合で立ち寄ったフランス料理店ル・ベンケイが近くにあることを思い出した。
 前回は70名ほどの大勢だったからか、味も概ね大味で、子牛の肉の味が馴染んでいなくてしかも冷たくなっていたり、サラダももう一手抜けているような大きな切り菜の盛り合わせであった。
 さらに、問題はサービスで、厨房の入り口でこちらから見えるところに立っていたメートルやギャルソンたちは、ついぞこちらの手招きに気づかなかった。ダイニングから完全に姿を消すこともあって、客が立ってギャルソンを呼びに行くという、およそフランス料理店としては考えられないサービス体制だった。
 門を入るとヨ−ロッパ風の石畳の庭。玄関のドアを開けると大理石のフロアが続き、その奥がレストランダイニングだ。
 今夜は、15000円のパリコースを頼んだ。アミューズ2皿、前菜2皿、魚料理、グラニテ、肉料理、デザート、お茶。食材にこだわり、フランスから取り寄せるほか、野菜は契約農家でつくらせたり、自家農園でも栽培しているという。
 魚料理がおいしく、海老のクネルも新鮮な車エビを使っているからだろう、自然の甘みが豊かだった。薄造りの平目とシャキッとしたクレソンを合わせた一皿は新鮮だった。それだけに、肉料理の味の単調さが惜しい。素材に自信があって、手を加えないところが工夫なのかもしれないが、なおフレンチらしいおいしさの引き出し方があってもよいのではないかと思った。デザートが丁寧に作られており、これなどパティシエの仕事として高く評価できる。
 お酒の飲めない僕は、人生の楽しみの大半を損している。これで酒まで飲んだら、生かしておくわけにはいかん…と言われているのだから、下戸で幸せなのかもしれないが、ワインの講釈ができないのと、酒に馴染む食材の味を極められないのが残念である。



【59】 100万ドルの夜景  神戸 マヤ・テラス       (10.9)

神戸の夜景と十四夜の月
 夕焼け色を残した東の空に、大きな白い月が昇った。明日10日が旧暦9月15日だから、今宵は十四夜の月である。中秋の名月を芋名月というのに対し、九月十三夜の月を豆名月あるいは栗名月という。それぞれの時期に収穫期を迎える作物の名前で呼んでいるのだが、旧暦8月の芋名月は十五夜の月なのに、何で九月の豆栗名月は十三夜の月なのだろう。
 あまりに空が澄み渡ってキレイなので、百万ドルの夜景の上に浮かぶ月を見てみたいなと思って、神戸へ出かけた。
 阪神高速を魚崎で降りて、国道43号から六甲ドライブウエイに入る。右へ左へと折れ曲がる、急峻な坂道を登り切り、左折して麻耶牧場の外周を回って、麻耶山の南斜面に出たところが麻耶山ロープウェイの山頂駅、別名「星の駅」。その駅舎の2階レストランが、神戸第一の夜景スポット「マヤ・テラス」だ。
 途中の車から電話で頼んでおいた窓際席に掛けて、眼下に広がる神戸の町と港の灯かりにひたる。先ほど走ってきた高速道路や鉄道に光が走り、港を行き交う船の灯かりが揺れる。その遥か遠くには大阪港から、大阪湾を隔てて対岸の堺・岸和田・和泉佐野、そして和歌山へと光りが続く。
 見上げる空に、十四夜の月が明るく輝いていた。見下ろせば秋の冷気に洗われたように済みきった町の光が広がり、麻耶山の山頂を渡る風は爽やかにススキの穂を揺らしていく。
マヤ・テラスからの夜景


































  キャンドルのほのかな光に浮かぶテーブルに運ばれてくる品々は、フランスや全国各地から仕入れた素材を使うフレンチベースの創作料理。仏産うずらのグリエ、帆立貝と北奇貝のマリネ和風だしゼリー添え、牛フィレのトリュフソース、そして本日の鮮魚は甘鯛の白子と切り身のオマールエビソース仕立て。神戸はなぜかパンもおいしくて、むっちゃお腹いっぱい!

 もう動きたくない…、今夜は神戸泊まり…というところで、啓ちゃんから電話。「明日、伊勢高原GC、10時25分スタートということで…」。午前3時15分、帰宅!



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