【20】狂牛病によって露呈された「狂官病」              2001.10.15


 いったい日本の官庁はどうなってしまったのだろうか。9月
10日、千葉県で発見された一頭の狂牛は、またまたわが国の官庁の無為無策ぶりを暴き出した。狂牛発見から1週間を経てやっと飼料の肉骨紛の流通を規制し、この間にも汚染の疑いのある食肉は市場に出回ってしまっている。人への感染の確率は低いと言われても、市民は気味悪がって牛肉売り場に近づかず、学校給食にも牛肉の使用を見合すという事態に陥っている。
 「狂牛病、発見」の第一報を受けて、当然やらなくてはならないことは、原因の解明・特定と感性拡大の防止である。ところが農水省の対応は、22日になっても北海道の農場で肉骨粉入りの飼料を約千頭の牛に与えていたことや、山形県でも類似の事例が相次いで発覚したり、「焼却した」と発表した問題の乳牛が、実際には肉骨粉として徳島県と愛媛県で飼料用に加工・流通していたことが後で分かるといったように、失態続出である。
 「大豆かすや魚粉だけをえさにしていては、家畜の健康に影響が出る」(木下良智飼料課長)と農水省はこの期に及んで、まだ肉骨粉入り飼料のメリットを唱えて、その流通をストップさせる何の手立ても打とうとしない。人より牛やブタ・トリの健康の方が大事なのだろうかとあきれる。対策の不備をつかれた農水省の職員は、「マニュアルに違反していない」と答える始末。ここには、日本の農林水産業を支え、国民の食料と生命を守るという決意も責任感もない。

 英国で狂牛病が流行したのは安価なタンパク質として牛の飼料に配合されていた「肉骨粉」が原因…とする指摘は、ずいぶん以前からなされていた。肉骨粉は病死した牛の肉などのくず肉から作られ、この中に狂牛病の病原菌「プリオン」が紛れ込んで流行が広がったとされる。
 英国では、すでに1988年に牛の飼料として肉骨粉を使うことを禁止。しかし、日本には、英国で人が狂牛病に感染して騒ぎになった96年まで、多い年には年間100トン以上が英国から輸入されていた。ほかの欧州諸国からの肉骨粉の輸入は、その後も続いている。
 「日本で狂牛病発症」とのニュースが流れるや、オーストラリア政府は日本からの牛肉の輸入を禁止すると発表。この素早い決断と対応があってこそ、オーストラリアは狂牛病の汚染も発生の危険もない1級の認定を受けている国なのである。ちなみに、日本の国際等級は、発生の恐れのある国…3級であって、今回の発生を受けて、現在発生中の英国や欧州の国と同じく4級となることだろう。

 狂牛病問題についてやらなければならないことは、
@ 汚染源とされる肉骨紛飼料の全面使用禁止と破棄・焼却、
A 牛の全頭検査、
B 検査前に出荷した全ての牛肉の回収と破棄・焼却、
C 混乱と汚染を招いた関係者の処分
そして、安全宣言である。

 検査前に出荷した全ての牛肉の回収と破棄は、大きな損失が懸念されると考えられるが、英国ではすでに数百万頭の牛を処分しているし、懸念されている羊への感染が確認されれば4千万頭の羊を処分する方針であるという。わが国も、今の段階であればまだ軽微な損失で済む。業者の中には大きな損失をこうむるものも出るだろうが、国が資金提供などの補填をする問題ではない。思いもかけない不幸であったとしても、天変地異による被害とは全く違うもの…失政・怠慢・人災であると考えねばなるまい。
 狂牛病疑惑の牛を焼却せずにブタ飼料の肉骨粉に…とか、まだ言っている農水省の不手際は目に余る。しかも前述のように責任の自覚もない。学校給食に牛肉を使っても良いかと問う地方自治体の教育委員回の質問に対して、文科省は「農水省と厚労省の資料を参考に慎重な対応を」と繰り返すばかりであったり、とにかく中央省庁の対応はお粗末の限りである。
 護送船団方式を守って、担当官や担当部署の判断を軽んじ、個々の責任をないがしろにしてきた、日本式体制のお粗末さがここにも露呈されている。政治においても、行政においても、担当者や担当部署が適切な判断を為し、結果責任を明確にして事にあたっていかねば、世界の中でに生き残ることもできないし、ますます必要性の増す危機管理体制も確立されない。


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