【39】 健全な国へ 政権交代を                    2002.4.15


 ひとつの政権が長い年月にわたって続くと、そこにはどうしても歪みや澱みが生じる。生まれながらにして欲と業を背負った人間の宿命なのであろうか、権力の座に就いたものはおしなべて名誉と富を求める。手にした権力を私のために使うとすれば、たちどころにその政権や人は卑俗なものとなる。アメリカの大統領が三選を禁じられているのは、この趣旨によることはよく知られた事例である。

 日本の昨今のかたちを見ると、長すぎる自民党政権の弊害が顕著に見られてならない。まず第一の弊害は、政権運営に対するおごりであろう。野党やマスコミなどの批判勢力が健全に育っていないこともあって、少々の間違ったことはごり押しで通ると、政治を私物化することに慣れてしまっていて、自らを律する心を失っている。内部告発によって出納帳の一部が明らかにされた、内閣官房機密費の存在を頑として認めない態度などは、その顕著な例であろう。福田官房長などはまだ、「あれは加藤紘一幹事長(当時)の私的なメモ」と言っているが、私的に支出された項目も多い官邸機密費を『存在しない』と否定してきた面々は、秘書費用流用疑惑を否定した辻本議員の“嘘以上のものではないのか。
 旧態依然の政治を繰り返していれば少なくとも政権維持は安泰といった、責任感も緊張感もない政権からは、進取の精神も意欲ある国づくりのビジョンも見えてはこない。小泉改革は、そんな自民党政治に対して国民が抱いた最後の期待であったのだが、コブシを振りかざした当初の改革への意欲は、現実との妥協に粉砕されて、特殊法人は名前と機構を変えただけで予算も人員も削減の実はあがらず、外務省改革をはじめとする中央省庁の改革さえも何らの進展も見せてはいない。不得意な経済問題…不良債権の処理、産業構造の改変などは、今に至ってもまだ出口の見えない迷走のままだし、第一に政界の浄化さえも進んではいない。結果を急ぐわけではないが、国民に対して進行しているという状況を明確に説明できないことが、改革の進んでいないことを物語っている。

また、長すぎる自民党政権は、政官業の癒着を産んだ。政権にすりより支えることによって、保護と安定を求めた産業界は、輸入された世界の先端技術を、勤勉さと高い教育によって築かれた国民性によって、世界に冠たる経済大国を築き上げたけれども、常に自らの創意工夫と努力を注いで新しい道を切り開くことをしなかった結果として、より大きな規模を持つグローバルな世界経済と台頭する新興国との競争になすすべもなく右往左往している。例えば全国で25万社といわれる多すぎる土建会社は、自民党の集票マシンとして大きな力を振るい、公共事業という利益を分かち合ってきたわけであるが、もはや、癒着という旧体質では解決できないところまできている。独自のビジョンを持って自らの技術を磨き、真の競争に勝ち抜く覚悟と努力を持つしか、生き残る道はないことを知るべきであろう。

世界に誇る優秀な…と形容された官僚組織についても、自民党の方しか見ない価値観の偏ったものになってしまっている。彼らの最大の価値は、自民党にとって都合のよいものとイコールになってしまっていて、自民党の権益を守る政策を実現していれば、自組織の権益も保護されるという図式が出来上がっている。政権が移ることがあれば、官僚組織も一党の利便ばかりを図ることはなく、その判断も政策実現への努力も、中立公平なものとならざるを得ない。いっとき、村山社会党政権が出来上がったことがあったけれど、社会党は政権担当の組織も能力もなく、むしろ官僚が統制する傀儡政権であった。健全な政権を担当できる野党の育成が急がれる。

 こうした政治の停滞は、国民のあきらめと政治不信につながる。健全な野党やマスコミが育たなければ、人々は政治に対する情熱を失う。今、国会ではその成立に多くの議論のあるべき「有事立法や個人情報法」が、国民の意識と離れたところで成立しようとしている。憲法の改正を含めて、日本の戦後体制の整備は確実に行われなければならないが、この「有事立法や個人情報法」については自由主義や市民生活について多くの問題を含んでいる。国民の間にほとんど議論がないのが、国民の政治に関する無関心さを象徴しているようで不気味である。
 「有事立法」はシビリアンコントロールが確立されているかどうかの検証を尽くすべきだと思われるし、「個人情報法」については人権保護と情報公開やニュースの取材についての兼ね合いが詰められるべきだろう。この法律が成立したら、内部告発文書は証拠としての効力を持たず、公表したものは罪に問われるということになったりしたら、日本は再び大きな闇の部分を持つことになる。もっと議論を積み重ねなければならないのではないだろうか。
 情報を政権が支配する仕組みであってはなるまい。永遠に与党としての立場や考え方から、仕組みをつくろうとするのは、独善でありおごりである。政権が交代する可能性を持たせれば、情報を操作される側に立ったときをも考えての仕組みづくりを心がけるであろう。

戦後の日本の復興において自民党政権が果たしてきた役割は評価されるし、日本の国民各層を代表する政党としての存在であることも確かなのだろうけれど、今日の政官業の癒着と不祥事、それに対応する自民党幹部の言動と対応、国民の間のあきらめと政治不信などを見ると、この状況を招いた自民党政権の責任は大きいし、わが国の政治の歪みや澱みを是正してこの国のかたちを正すために、健全な野党の育成と政権の交代が望まれる。



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