【71】 第2次小泉内閣 スタート                 (2003.10.01)

総裁選分析
 自民党総裁選は、小泉純一郎首相が、議員票と党員票の合計657票のうち6割を超える399票(議員票194票/356票、党員票205票/300票)を得て再選された。議員票が200票台に届かなかったのは、「議員のバランス感覚」「あまり圧勝させるといい気になる」といった意識から、高村氏に票が流れたといったところだろう。党員票では計300票の68%に当たる205票を獲得、世論の高い支持率が反映された格好だ。
 藤井氏の議員票50票は橋本派の分裂を如実に表現しているが、もうひとつ注目したいことは、氏が獲得した党員票が15票で、地元の岐阜県で7票を押さえたほかは、8票しか上積みされていない。党員票の争奪で大きな力を振るう、郵政、建設関係など業界ごとに作られる「職域団体」は70万〜80万票の党員票を有しており、従来、橋本派などの影響力が強いとされてきたが、藤井氏や亀井氏の陣営がこれをつかみきれなかったことは、選挙基盤の変化・派閥政治の崩壊を象徴する現象であると思われる。

人 事
 安部新幹事長の登用は、大方の度肝を抜いた人事であった。若さと拉致問題に示した強硬軸とで、大きな人気を得ている安部氏の抜擢は、山崎 拓氏の処遇を落ち着かせ、今回の人事が小泉主導であることを納得させる効果を挙げた。
 安部氏の力量については、はなはだ心もとない。人気のもとである拉致問題にしても、強硬路線一辺倒で、事態を進展させる有効な手立ては示しえない。北朝鮮側の国内事情を考えればいずれ相手方から動くことになるのだろうが、こちらからの手段を持たないところが安部氏の現在だ。また、その「喋り」も説得力を欠く。
 川口外相の留任は、官邸主導の外交を示したもの、谷垣財務相は、省内意見をどれだけ抑えて、日本の財務体質を変えることができるか期待することにしよう。坂口厚労相は世代交代の波を加速させたくない公明党の党内事情、石破防衛庁長官は実績の評価とイラク法案を見越して。石原国交相だが、その二代目的な線の細さが目立つ。藤井道路公団総裁のクビを取れるかどうかが、その試金石だろう。
 竹中平蔵金融経済財政政策担当の留任は、改革への決意と意地を内外に示したものだ。金融相を代わるのではないかという予想が一般的であったが、ここは小泉流を貫いて、構造改革への不退転の姿勢を示す象徴とした。
 教育にかかわりの深い私としては、党の文教委員を務めたことはあるが、もともと教育に経験もゆかりもない河村健夫文部科学相は、歴代内閣と同じように、文部科学行政を軽視した起用であり、派閥年功人事の一旦が垣間見られて残念である。

課 題
 構造改革を目に見えるかたちで進めることに尽きる。歳入が42兆円程度なのに、80兆円の予算を組む我が国の現実は、不気味な不安感を根底に秘めている。毎年30数兆円の赤字国債を発行して借金を増やしていく現在は、誰もが異常であると思っている。今、700兆円あるこの国の負債は、毎年10兆円ずつ返済しても70年間かかる計算だが、現実は来年も30数兆円増えることになり、この負債が日本の格付けを西側先進国中の最低「A2」にしている(200212月)。
 余談になるが、最上位の「Aaa(米・英・独・仏・豪・NZ・スイス・スエーデンなど)」より5ランク低く、ハンガリー、チリ、チェコおよびボツワナが1ランク上の「A1」、日本と同等のA2は南アフリカ、イスラエル、ポーランドで、日本が政府開発援助(ODA)を供与しているボツワナより下位にいる。

日本の回復には、経済の活性化により税収を増やすと同時に、歳出の無駄を省くことが必要であることは繰り返すまでもない。では、経済活性化のために何をすればよいか…。それこそ、今までに何度も提言してきたが、政官業癒着の構造を打破し、自助努力・自己責任を国民の意識の上と社会体制の中に確立して、個人・企業・地域の工夫や特長を生かした産業を育てていくことだろう。
 いまどき政府をあてにして公共事業に景気の回復を期待している企業は時代に捨てられる。自分のことは自分でするという覚悟がないと生き残りはおぼつかない。その例が日本の金融機関で、企業の計画や将来に対して評価し融資する能力はなく、旧態依然の担保主義で新時代の経済形態に対応していけず、経済の血液としての役割を果たしうる資格も覚悟もない。最近になって、担保や保証人を取らない融資をという掛け声が聞こえてきているが、担保・保証という金科玉条にすがって企業を正当に評価できる眼力を養ってこなかった銀行に、そんな融資をさせたらすぐに自分が倒産するのは目に見えている。人を育てるには時間がかかる。頭の痛いことだ。
 日本再生への切り札は何なのだろうか。世の中の仕組みを変えることである。政治は、薩長土肥の藩閥政冶を始点として、明治以来培われてきた体制内利益を至上のものとする仕組みを変えなければならない。官界も、経済も、教育も、医療も…、内向きの馴れ合いに終始してきた日本的談合体質を捨て、外に開かれた効率的な責任ある体制を構築することだ。
 もうひとつ、大切なことは意識を改革することである。日本人の沈黙・腹芸・話し合い至上主義は、競争原理を鈍らせるとともに、世の中の不合理を糾弾し排除していくことを妨げてきている。戦え、日本人。構造改革とは、意識改革なのである。


 新政権のスタートは、世論の高い支持率をもとに、各方面に受け入れられているようである。自民党内の反主流派からも露骨な反発はなく、国会中継を見ていても民主党の菅・枝野・原口氏らの質問は、選挙を意識してのことだろうが、自党の対案を示しながらひとつひとつの相違点を丁寧に質していて、なかなか微笑ましい(?)光景であった。日本の民主主義は、新しい段階を迎えつつあるのだろうか。



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