【102】 官公庁の責任を問う体制を整えずに、再発防止はできない    2005.12.29
     − 耐震強度偽装問題に思う −


 姉歯秀次元建築士が行った、耐震強度偽装設計に端を発した問題は、建設会社・コンサルティング会社などに司直の捜査が入り、責任の所在の究明と再発防止策の制定へ向けて動き出した。しかし、まさか自分の住んでいるマンションやビジネスを託したホテルが、偽装設計の建物であったとは夢にも思わなかったであろう住民や経営者・従業員は、年末年始を暗澹たる思いで迎えていることだろう。
 また、懸念されるのは、これまでに発覚しているものだけでなく、姉歯元建築士や木村建設設計が関係した全てのビルを調べてみる必要があるのは当然だが、コストの削減を要請されるビル建設業界だから、これからも設計偽装や手抜き工事による、耐震強度が不足したビルが次々と見つかるであろうことだ。武部自民党幹事長が思わずもらしたように、これを追求していったら、日本経済が震え上がるほどの大問題なのである。
 検査機関が全く機能していない、現在の建設業界の現状では、万全のビルを建てろというほうが無理な要求なのだろう。ある指定確認検査機関の代表は「現在の体制・法整備のもとでは、完全な検査は不可能」と、堂々と述べている。ならば、指定確認検査機関などは存在意味はない。これからのビル工事発注は、注文どおりのものが建っていなかったら瑕疵担保責任を明記した契約書を締結することだろうし、マンション購入時や入居時にも、当然、パンフレット・仕様書通りのものでなければ、これを保障する旨の契約書を整備することを義務付けなければならない。


 さて、この問題…、誰が一番悪いのか。建設会社を経営する友人は「姉歯建築士。どんなに強要されても、資格を持つものは屈してはいけない」と言い、宝石商は「検査を民間にさせるのが間違っている」と言う。一番悪いのは、偽装を指示したものだろう。犯罪は教唆したものが一番悪いのである。
 だが、だから「コスト削減を要求した木村建設の支店長が悪い」「いや、その手口を教えたコンサルティング会社の会長はもっと悪い」と言っているのは、まだまだ甘い。彼らの罪を問うて明らかにし罪を科したとしても、この問題に巣食う病根は削除されない… 事件の再発を防止することはできないからである。


 監督官庁の責任を明らかにしてこそ、はじめて問題が解明され、再発防止策が具体的に講じられることになる。担当者を処罰…、時には法廷で裁く必要があるだろう。該当期の国務大臣は国会議員の職を辞し、次の選挙で選挙民の信託を問うてのちに復帰するべきだろう。
 薬害エイズ問題における厚労省の担当は法廷に立たねばならないし、学力低下を引き起こした文科省の担当者は引責辞任をするべきだろう。監督官庁の担当者の責任を明らかにせずして、諸問題の解決と再発防止を図ることはできない。
 耐震強度偽装問題の場合、建築許可という明らかな国交省の責任がある。うっかりと許可を出してしまったのならば、担当部署の担当者と指定確認検査機関の責任は免れない。現在の法律では責任が問えないというのならば、法整備を怠ったものの責任が問われる。
 現実に日本経済を揺るがす問題を引き起こしているのだから、責任があるのは明らかだろう。設計偽装だから… 手抜き工事だから…と言い訳したところで結果は重大であって、当然、設計偽装や手抜き工事を起こさせない手立てを講じておく責任があったはずだ。


 社会基盤に「誰が見ていなくても、神が見ている」とするキリスト教的倫理観のある西欧と違って、日本的民主主義は談合社会である。その正義は、仲間内の利益や権利を守ることが正義であって、社会的な正義ではないのである。
 社会の広汎な正義を守るためには、為政者や行政担当者の倫理観にゆだねるのは到底無理なのだから、法的な整備を行い、その責任を問うことだ。そこから始めてこそ、責任を自分たちに及ぼさないためにも、彼らは真剣に問題に取り組み、社会全体がそれに向けて機能し始めることだろう。



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