【113】 消費税10%は国民を欺く大増税               2006.08.02
     ― 日本は本当に財政危機なのか、本当に増税は必要なのか ― 


 ポスト小泉の動きがあわただしくなり、その政策論争がかまびすしい。それらの議論の中に「消費税を10%に」という主張が、実施時期をいつにするかぐらいの違いはあっても、おしなべて掲げられている。
 谷垣財務相の「来年にも2%、後は段階的に…」という具体的な主張は、現在、欺瞞だらけの財政政策を推進する財務省のトップとして、責任を取ろうという自爆的発言と理解するとその趣旨がよく解る。次期政権を担うであろう安倍晋三内閣官房長官すら、消費税の引き上げはやむなしとしている。
 民主党も引き上げに異議はないし、マスメディアや経済評論家までが、反対するどころか、連日のように「日本は財政危機だ」「増税しかない」と報じている。そのため多くの国民はすっかりマインドコントロールにかけられ、「財政赤字をなくすためには、増税は当然」と思っているようである。


 世界中のどこを探しても、日本が経済危機を迎えているという議論は全くない。日本の大借金…経済危機…は、増税のための日本政府のデマであり、国民は騙されているのである。
 信用できない政府の経済数値であるが、2005年6月末で日本には795兆円の債務(租負債と呼ぶ)がある。この数字は本物だ。国民負担率といわれる、債務を名目GDPで割った数字は、この租債務795兆円を分子にして計算すると150%を越えていて、これだけを見ると先進主要国の中では突出して高く、財政は危機的な状況である。政府やマスコミが取り上げる数字はこれだ。
 しかし、同じく2005年6月末、わが国は推計480兆円の金融資産を保有している。以前、世界の格付け会社が日本国債を一斉に格下げしたとき、いみじくも財務省が反論したように、「日本は世界最大の貯蓄超過国であり、国債はほとんど国内で、極めて低い金利で安定的に消化されている。また、世界最大の経常収支黒字国であり、世界最大の外貨準備国」であるのだ。
 つまり、795兆円―480兆円=315兆円が、日本の負債(租負債に対して、純負債と呼ぶ)であり、財務省の反論のように、世界の財政状況を見るには、この純負債を使うのが常識である。純負債で国民負担率をみてみると65〜75%程度と、他の先進主要国並みで問題はない。ただ、1995年当時の負担率が、16.9%と超優良国であったことを思うと、政治・財政のあり方を厳しく問い直す必要があるだろう。
 デフレ期に緊縮財政を採った小泉内閣の経済政策が正当だったかどうかは、別に議論することとして、今、財政危機をいたずらに叫び、増税を実施しなければならない状況は全くない。財政危機=増税(消費税10%)は、財政当局の陰謀でしかない。増税しなくても、正当な政策を実施していけば、財政の健全化は十分に可能だからである。


 財政再建に際して声を大にして言っておかなければならないことは、財政支出の無駄と不正をなくせということだ。
 ばら撒きの地方交付税、まだまだ多い無駄な公共事業、特殊法人の整理・民営化などの問題は、いずれも税金の無駄遣い、無駄な歳出の削減に直結している。総額21兆円もの税金が地方に交付され、これを頼りに地方では不必要とも思われる大庁舎、大ホール、空港建設などの公共事業が行われていることは周知の通りである。
 公務員の定員削減と給与の見直しも、喫緊の課題であろう。いずれも、民間企業並みの水準に整備することだ。長年のお役所仕事が簡単に民間レベルの効率にレベルアップするわけがないと諦めてはいけない、中期・短期・毎年度の数値目標を定めて一歩一歩確実に目標を達成していくことである。
 中央も地方も、職員のレベルを上げていくことを考えなければなるまい。専門知識の蓄積とともに官吏としての倫理観も確立させることだ。
 例えば、5年前に新聞紙面を賑わせた「外務省機密費」…、外務省には使途を特定せず領収書も要らない公金が潤沢に用意されているという疑惑だ。自民党外交関係合同会議は、「関係者に調査した結果、疑惑なし」という報告書を了承している。自民党平沢勝栄衆議院議員は、「私は三年間大使館勤務を経験しているが、在外大使館でも東京でも、外務省の機密費が無駄に使われていることは常識だ。こんなウソの報告を信用してはダメ」と言う。外務省の出先機関である在外大使館が、日本からやってきた国会議員、有名人、課長以上の役人を超豪華に接待していることは誰でも知っている。大使館員の中には、うまい酒が飲めると嬉々として接待の場を設営しているものもいることも事実だ。(平沢勝栄のホームページより)
 今も続々と不正の事実が出てくる社会保険庁、地方では4億余円もの裏金をつくり、処理に困って一部を捨てたり焼却していたという岐阜県…など、公務員の不祥事はあとを絶たない。これで、国民に消費税を10%に上げろと言うのは言語道断であろう。
 さらにもうひとつ、法律を整備・制定して、公務員の責任体制を明確にすることが、国民の信頼を得るためにはぜひとも必要だ。不正・不祥事が見つかったら、ことの顛末を明らかにして、損害の補填や刑事責任の追及を含めた責任者の処分を明確に行ない、国民・住民に報告することだ。住民の意識も向上し、監視体制が形成されるだろう。


 消費税の増税など、税率アップによる財政安定策は、江戸時代に享保の改革において徳川吉宗が行なった年貢徴収方法の変更(定免法から有毛検見法へ)に見られるように、基本的に市場の活性を促すものでなく、変化していく社会に適応した方策であるとは言い難い。
 ただ、純負債ではないとはいうものの、租負債795兆円は、わが国にのしかかる重い足かせである。諸政策を成功させて日本経済に活力をもたらし、景気の上昇によって税収の増加を図っていくことこそ、日本の明日に課せられた大きな課題であろう。安倍新政権も、野党各党も、マスコミも、経済学者も…、増税などといった詐術を掲げるのでなく、日本再生によって歳入を増やす、足腰の強い国家経済を確立する方向で、方策を掲げてほしいものである。



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