【119】 「核」についての議論を封じる愚                2006.10.22


 北朝鮮の核実験に、世界が沸いている。北部山中に横穴をくりぬいて、1Kd未満のウラン型爆弾を爆発させたといわれている。国連は北朝鮮制裁を安保理で決議し、ライス米国務長官は日・韓・中の3国を訪問して対応策を協議するなど、各国の動きがあわただしい。日本は、いち早く北朝鮮籍の船と人の来航・入国を禁止、この核実験を断固容認しない姿勢を示した。
 北朝鮮の核は外交カードであって、直接的な脅威はない。ノドンに搭載して日本に向けて撃つ訳はなく、仮にそのような動きが具体的になったら、その時点で北朝鮮は内部崩壊か、外部からの圧力・攻撃によって、壊滅する。
 安倍政権にとっては、神風ともいえる政権発足へのプレゼントである。北朝鮮への経済制裁の可否を問うた世論調査では、80%の支持を得て、日本の国内世論は統一されている。国論統一の手段として外敵を作るのは政治の有効な手段とされ、中国や韓国は反日をスローガンにして政権維持の手段にしているぐらいだ。安倍政権にとっては、努力するまでもなく、国内をまとめあげる材料が転がり込んで来てくれたのだから、棚からボタモチみたいなものだろう。
 北朝鮮の核はこのあと6カ国がガタガタッとした動きを見せながら膠着状態…、早晩、金正日政権の崩壊が始まると思われるが、今、その時期を予想することは難しい。


 むしろ、日本国内において、「核についての議論をするのはケシカラン」という発言が気にかかる。
 自民党の中川昭一政調会長が「核をめぐる議論は必要だ」と発言したことを受け、与野党から批判が噴き出したのだ。衆院テロ防止特別委員会だけでも、「核保有を議論するとはけしからん話だ」(民主・中川正春)、「非常に不謹慎。北朝鮮に核実験をさせた責任の一端が日本の国会に」(民主・長妻昭氏)、「わが国の見識が問われる」(社民・阿部知子氏)などの批判が相次ぎ、鳩山民主党幹事長は今日の街頭演説で、「議論することが、とんでもない話」との発言している。
 自民党からは、おなじみ山崎拓元副総裁と加藤紘一元幹事長が「今の雰囲気の中、『核装備すると言ってはいけない』との国際感覚をもつべきだ」などと言い、久間章生防衛庁長官は自らの立場を鑑みたのだろう、「議論自体が他国に間違ったメッセージを出すのではないか」と発言している。
 いずれも、日本人の核アレルギーを背景とした発言だろうが、北朝鮮の核保有という現実に直面して、日本人の核意識も、中川昭政調会長の言う「日本が核を持たずに北朝鮮にどういう対抗措置ができるのか真剣に議論しなければならない。議論することと非核三原則を守ることは矛盾しない」という主張に、正当性を見出している。国民の国防意識は、いつまでもアメリカの傘の中での安全という依存一辺倒でよいのかと、やっと国際的レベルにさしかかろうとしていて、北朝鮮の核保有も契機に、自主防衛に向かって変化しつつある。
 「日本は世界で唯一の被爆国なのだ」と国際社会で主張すると、「だから何なのだ」と言われてそれっきりだというのが、世界の現実なのである。いつまでも非核神話の呪縛にとらわれ、「核保有について議論することもはばかられる」などといった敗戦アレルギーを金科玉条として政策を決めているようでは、それこそ時代に取り残されてしまうことに気づくべきだろう。


   「日本は、今」 トップページへ