【155】 日本の最重要課題  公務員改革             2008.06.01
 − 基本法は今後5年間の制度改革のプログラム。必要な粘り強い監視 −


 成立が危ぶまれていた「国家公務員制度改革基本法」が、一転して自民・公明と民主党が共同修正に合意し、今国会で成立の運びとなった。
 自民党のなかの霞ヶ関の利益を代弁する勢力からは伊吹幹事長、身内の内閣にあっては改革に
最も中心的な役割を果たさなければならないはずの町村官房長官という、政策決定に大きな役割
を果たすべき面々から根強い抵抗を受け、四面楚歌の中で何とか成立に漕ぎ着けた渡辺行革相の
が、苦難続きであった改革の道筋を物語っていた。
 自ら民主党にも足を運んで調整を行なったという渡辺大臣には、さまざまな課題は残しながらも大きな一歩を踏み出したことに、心からの評価を捧げたい。これこそが、今日の日本の最重要課題であるのだから。


 今回成立する改革案の一番の眼目は、官僚の最大の関心事ともいえる省庁人事について、内閣官房に「内閣人事局」を創設して一元化するとしたことだろう。
 「省益あって国益なし」いわれてきた官僚政治(各官庁の部内利益誘導政治)を排除し、国家全体のために働くという本来の公務員の姿に、制度の面から変えていこうという狙いだ。政治が主導する国政への、重要な変更を意味している。
 現在の官僚機構は縦割り組織と仲間内人事で、強固な利益共同体になっている。自分の官庁の利権確保と自分個人の人事しか考えていない。隙あらば理屈をつけて規制を強化し、権限と予算を手にして、国民に不便と手間をかけさせることを、何とも思っていない。その結果、国家財政に大いなる無駄を生じさせ、自分たちの利益を守る省内功労人事と身分保障、時には大臣をも欺く情報の操作・非公開や歪曲が慣例化している。
 今回の改革案は、全ての官庁間にまたがっての人事を、首相と官房長官・各閣僚が協議して行うことで、縦割り行政の排除を狙っているが、さて、どうやって職員を評価し人事原案を作成していくか…。公明正大で、各省庁や官僚の機能・実力を発揮させ、改革の本義を達成するための方法については、これから詰めなければならない点が多いことも事実である。


 また、この法案が成立したことの評価として、人事を担当する役所は、政府案では人事庁となっていたのを、「肥大化させず簡素な組織にすべき」という民主の意向を汲んで、「人事局」に縮小されたと聞いているが、このように、今回の改革案が自公と民主党の協議で生まれたことにも、
政権交代可能な二大政党下における政治のあり方の一歩として、大きな意味を見出すことができると思うのである。


 これまで、給与・スト権など、公務員の労働者としての権利は、人事院勧告制度などによって代替することもあって制限されてきた。今後、総務省や人事院などが担ってきた人事行政の機能は、ほとんど内閣官房に移ることになるから、労働条件を当局との交渉で決めることができる「団体協約締結権」も、どのように付与していくかを考えなければならない。今回は対象の範囲を拡大する方向性は明確にしたけれど、中身の具体化はこれからだ。
 民主党の支持団体でもある連合からは、「団体協約締結権が認められなければ改革案に賛成できない」という注文もついたが、公益を優先しなければならない公務員の勤務に対しては、一定の歯止めはあってしかるべきであろう。基本案は、「全体像を国民に示し、開かれた自立的な労使関係制度にする」という抽象的な内容で、これもこれから具体的な検討がなされていくことになる。


 そして、公務員改革のひとつの目玉であった「天下り禁止(再就職あっせんの禁止)」について、ほとんど触れられていないのは拍子抜けだ。
 高級官僚たちが独法や特法を渡り歩き、高額の退職金を手にしていく図式は、国民の納得を得られるものではない。基本法案に天下り規制が盛り込まれていないとの民主党の批判を踏まえ、渡辺大臣は「定年の引き上げや幹部人事の一元管理による各省割拠主義の打破によって、天下りの背景になっている構造的問題を解決する」と説明している。この点もまた、今後の課題というところだ。
 政官の馴れ合いや政治家が業界の利益を図るなどと指摘されている、政治家と官僚の接触
「制限せず」とし、職員が議員と接した場合は記録を作成して、情報公開を徹底することになった。政治家自身が、疑惑を招かないよう襟を正すのが先決ということか。しかし、今さら政治家を信用しろというのは無理で無謀で無効な話…、これも今後、実効性を伴う厳密なルールをつくらなければならない。


 そして何よりの心配は、今後、基本法に基づいて、それぞれの府や省から権限を移す際「骨抜き」にされることだ。実際、総務省幹部は「制度設計の段階でいくらでも骨抜きにできる」と、とんでもないことを言っているとか。
 政治主導とは耳障りのよい言葉だが、今日までいかに政治が官僚によって貶められ、翻弄されてきたかを考えれば、政治家の無能さは今さら言うまでもない。
 基本法は、今後5年間の公務員制度改革の指標・行程を示したにすぎない。これだけで「霞が関の改革」がトントン拍子に進むわけはない。改革を具体化していくためには、個別法で一つ一つを規定して縛っていくと同時に、政治家任せにしないで、国民も改革の行方を厳しく監視していかねばならない。
 成立に意欲を燃やす担当大臣の身内である自民党と内閣から総スカンを食い、国民の声援と民主党の妥協によって誕生した、いわば鬼子とも言うべき法案である。国民が飽くことなく粘り強く改革の行方を見守らなければ、渡辺大臣の涙も、この国の将来も、蜃気楼のようにはかなく消え去ってしまうことだろう。


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