【164】 NHK とことん話そう税金のこと()  9月6日の放送を見て


 9月6日(土)の放送当日は所用でテレビを見られなかったのだが、ビデオに録って昨日拝見した。感想を結論から言えば、番組に意見を書いて送ったものとして多少厳しい見方をしていることとは思うが、出席者の主張の羅列に終始し、何の方向性も納得も見出せない3時間半であった。出席者それぞれの発言はテーマから逸脱しているし、言いっぱなしで広がらないレベルの低さであった。ゲストの伊吹文明財政相、竹中平蔵慶応大教授(歳出削減・構造改革)、森永卓郎独協大教授(減税・景気浮揚)、土井丈朗慶応大准教授(増税・国庫安定)の話へも、突っ込み不足で議論が深まらない。こんなので受信料がいただけるか、「しっかりしろ、NHK」というところだ。


 番組を、放映された順に見ていこう。
  ( ●は、番組の中での発言とそれに直接関係する記述。その他は僕の感想 )


 @ 次の何を優先すべきか。 (数字は、視聴者からのアンケート)
  1.減税・景気対策 25%、 2.歳出削減・改革 65%、 3.増税・安定 10%


 圧倒的に「歳出削減・構造改革」が支持されたというのは、年金問題、遅々として進まない公務員改革に対する、国民の怒りの表れであろう。国のムダ遣いは明々白々、それに頬かむりして税金云々なんて、議論するのもアホくさいといったところか。


 今日、興味深い数字を見たので参考までに…。 「08年度公益法人白書


・ 日本の公益法人は、明治29年の民法制定とともに始まりました(第34条)が、新しい制度が平成20年12月1日から施行されます。

・ 公益法人の数 … 昨年 3049法人、→ 今年 3054法人 (+5) 増えている!
・ 天下り理事の人数 … 去年 8054人、→ 今年 7584人 (470人減)

   国土交通省 2230人(昨年より−2人)、厚生労働省 1325人(+121人)

・ 天下り常勤役員の年間報酬
  400万〜 800万円  578法人、   800万〜1200万円  483法人
 1200万〜1600万円  448法人、  1600万〜2000万円  198法人
 2000万円以上       10法人、  報酬総額は 明らかにできないとしている。
・ 補助金の総額 3524億円


・ 事業発注・補助金交付 12兆6047億円(06年度)  【日本の財団法人一覧】 


 これら3000超の公益法人の全てがムダとは言わないけれど、ほとんどはなくても困らない。あったほうがいいというところが多いのかもしれないが、あったほうがいいということは なくても困らないということである。後期高齢者の医療費に自己負担の増額をお願いしなければならない状況の中で、無理して残さなければならないところはまずない。




 A 消費税率を上げることについてどう思いますか。
  1.やむをえない  35%     2.反 対  65%

 
 ● この中の議論で、息吹文明財政相は、「現在、歳出は社会福祉費に21兆円を使っていますが、消費税は総額で12.5兆円。その中から地方へ渡す金額など5.5兆円が支出されるので、国は消費税から7兆円しか使っていない。だから、『消費税は福祉関係に使うと言ったんじゃないか。なのに使われていない』という議論はあたらない」と言っている。
 ン?、息吹財政相自身が上の発言の中で、『地方などへも渡している』と言っている。そう説明しておいて、『だから、使われていないという議論はあたらない』と言い切る論理構造はどうなっているのか。混乱・自己矛盾以外の何ものでもない。


 ● また、大企業に多額の消費税の還付金が払われているという指摘にも、「企業は原材料に、仕入れの消費税分を上乗せしたものを仕入れて使っているのだから、消費税分が還付されて当然。大企業であろうと中小企業であろうと、公平に還付される」と説明している。
 私が先の回答書のQ5で指摘した問題である。輸出した商品には消費税は取れず、仕入れ分の還付だけが行われて、国庫を圧迫する結果になっている。輸出関連企業に対してのみ適用される税制で、決して公正なものではない。国の財布から言えば、売ってもらわないほうがいいわけで、税制を改定しなければならない問題だろう。


 ● 定番のように、「国の借金が財政を苦しめていて、日本の財政は青息吐息…。だから消費税率のアップを…」といった危機をあおる議論が相変わらず堂々と述べられている。でも、Q4−1に記したように、世界のどこを探しても、日本が財政危機だという議論はない。早く国の借金を返さないと日本は破滅だというのは、増税を実現を目的とするウソである。


 私としては、回答書のQ1に書いたように、近代国家として福祉を充実させることは責務であると思う。そのための財源として(消費税18%程度)の増税はやむをえないと思う。




 B 法人税は、昭和61年には43.3%だったのが、平成11年に30%に引き下げられ、以降そのままである。
 また、高額所得者の所得税は、昭和61年には88%だったのが、平成11年に50%に引き下げられ、法人税同様その後は変わっていない。
 この、引き下げられたままの法人税・高額所得者の所得税をどう思いますか。


 タバコ、酒などの税率引き上げ、配偶者控除控除の廃止、定率減税の廃止など、庶民の財布からは絞り上げるばかりである一方、法人税や高額所得者の所得税は引き下げられたままである。景気は低迷し、生活が苦しくなっていると答えた世帯が57%に及ぶ現今、法人税や高額所得者の所得税が引き下げられたままであるのは、納得しがたいことであろう。
 しかし、後進国の追い上げ、市場の拡大、国際的競争の激化など、クローバーリズムの波の押し寄せる中で、企業競争力の強化は至上命令である。回答書Q4−2に書いたように、税収のアップは好調な企業活動による収益をベースにするべきであって、それには景気回復を図り、企業の活動を支援していくことが必要である。もちろん何が何でも企業を助けろというわけではないが、現状の法人税30%は安すぎるからもっと引き上げろということにはならないと思う。
 日本市場の低迷は、諸規制の多い日本を外国企業が嫌ったこともあるが、法人税30%が高すぎるとして外国へ移ったということも多いに関係している。香港の法人税は18%、多くの企業が東京から逃げ出し香港へと逃げ出していて、東京株式市場の低迷と香港市場の活況は鮮やかな対比を描いている。




 C 高齢者が社会保障費を負担することは、どう思いますか。
  1.やむをえない 56%、   2.反対 44% 


 今のお年寄りたちは、戦前戦後の日本を支え、焼け跡からの復興を遂げて、私たちが暮らす今日の繁栄を築き上げるためにひとかたならぬ努力を積み重ねていただいた方々である。また、その資産は、現役の頃には一生懸命に働き、貯蓄に励み、また当時には相応の税金を払って来られたのである。
 その世代の方々を若者が支えるのは、当然の話であろう。が、政治家がだらしなかったからだとしても、苦しい国の台所事情に、少子高齢化社会を迎える日本の現状を見ると、暮らしに余裕のあるお年寄りに、社会保障費負担のお手伝いをお願いすることは、許されるのではないだろうか。
 

 ● 息吹財政相が、「公平という言葉は人によってみんな違う。簡単に「公平」という言葉を使わないようにしたい」と意図の解らない発言を繰り返していた。世の中の共通項を集約していくのが政治というものであり、その政治家が「公平」を口にするなと言う真意が解らない。自分たちの政治が公平でなかったということ証か。今の政策を進めていくと、公平感が著しく損なわれるから、公平という言葉を使うことを牽制したのか。


 ● 最後に、「政治が悪いと言ってしまったら、何も解決しない」と言った息吹財政相と、竹中氏が、「政治の結果は、民主主義という体制のもと、政治家を選んだ国民の責任」と言っていた。それも確かなのだろうが、これまた 何も解決しない言葉ではないか。
 それとも、近々に予定されている総選挙で、「道路を造れ」と叫び続けるなど族議員と呼ばれ、一部団体の利益を代表している、古賀とか二階とかいった議員を選ぶなと言っていたのだろうか。


 3時間30分の番組を見終わった感想は、あとに何も残こらないという疲労感だけであった。不特定多数からアトランダムに(多分)人員を集めてスタジオに招き、自由に議論させるのだから、まとまりのある話をしろと言うほうが無理なのかもしれないが、それにしてもテンデンバラバラでやかましいだけという印象であった。
 そんな中からも、消費税を含めて、増税には強い嫌悪感を持つ人が多いことがうかがえた。高福祉社会を実現しようとするのに、もう少し理解があるかと思っていたけれど、やり放題の公務員の姿を見せられて、税金のムダ遣いに怒っている国民は、おいそれと増税を許しはしないということだ。
 景気浮揚、財政再建、高福祉高負担社会の構築を目指さねばならないこれからの政治は、よほどの覚悟で公務員改革を初めとする、目に見えるムダの排除に取り組まなければ、国民の納得と協力は得られないということを見せられた…ということか。


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