【168】 麻生新首相の代表質問と小沢次期首相の所信表明演説    2008.10.02


 崖っぷちに追い詰められた自民党とひたひたと攻め寄せる民主党…、麻生新内閣が発足したことを受けての臨時国会の様相は、まさに今の与野党の有り様をそのまま写し取ったかのような様相であった。すなわち、政権与党の王道を忘れてタダをこねイチャモンをつける麻生首相…、受けて立とうじゃないかとこれに応じる小沢民主党代表…、主客転倒の感のある国会論戦であった。
 まず、新内閣を発足させての国会だから、新首相が自らの信じる方策を述べる所信表明演説を行い、それに対して翌日には与野党の代表が質疑を行うというのが粗筋(あらすじ)である。ところが、1日の麻生首相の演説は民主党への注文と質問に大方の時間を割き、自らの所信はほんのさわりのみ…『元気で明るい日本』を築きます…と述べただけであった。いかにも麻生太郎らしい漫画チックさと言うか、新機軸だと自ら信じているであろうところが、また彼の軽さである。
 民主党に振り回されて挫折した福田前首相を目の当たりにしてきて、「俺はあの轍は踏まないぞ」との思いが強すぎたのか、審議拒否して足元をすくおうとする民主党…、場当たり的な政策をばら撒く民主党…、政権交代選挙へひた走る民主党…に対して、『国会審議に応じる気はあるのか民主党、それぞれの財源を示せ民主党、解散総選挙を決めるのは俺だぞ民主党』と、その国会対策と諸政策を問いただすばかりであった。
 

 所信表明演説では述べなかった麻生新首相の所信を、今日までの彼の言動や著書から拾って整理しておこう。
 彼の日本観は著書の『とてつもない日本』に、『日本はまことに不思議な国だ。戦後、平和と安定を維持し、世界史上でもまれに見る経済的繁栄を実現した。ところが今日、やれ格差社会だ、少子化だ、教育崩壊だ…と騒ぎ、テレビでは識者と称する人が「なぜ日本はこんなにおかしくなったのか」と言っている。… しかし、本当に日本はそんなにダメな国なのか。私はそうは思わない、むしろ日本は諸外国と比べても経済的水準は相当高いし、国際的プレゼンスも高い。日本は諸外国から期待され評価されているし、実際に大きな底力を持っているのである』と書いている。だから、日本はとてつもない国なのだと…。
 また、彼の世界観を知るうえで、平成18年の外務大臣当時に国際問題研究所で行った「自由と繁栄の孤」と題する講演が大きな手がかりとなると思われるので紐解いてみると、『日本外交の基本が日米同盟を基軸として、中国・韓国・ロシアなど近隣諸国との関係強化にあることは、今さら繰り返すまでもありませんが、これからの外交を考えるうえで、新しく付け加えるならば、民主主義・自由・人権・法的支配・市場経済といった「普遍的価値」を重視していきたいと考えています。また、ユーラシア大陸の外周に成長してきました新興の民主主義国をつなぎ合わせて「自由と繁栄の孤」を作り上げねばと思っています。具体的には、東南アジアのカンボジア・ラオス・ベトナム、そして中央アジアやコーカサス地方(グルジア・アゼルバイジャンなど)の国々は、人的・資源的に大切な国であります』と述べている。彼の視点が、東南アジアから、中央アジア、そして中東へと伸びていることが伺われる。
 諸政策を、言動、著書、自民党政策から拾い出してみると、
 「緊急課題」
 @ 経済対策 … 日本の経済は全治3年。 定額減税の実施。
 A 暮らしの不安を解消する … 年金・医療制度を立て直す。 消費者庁を創設。
 B テロとの戦い … インド洋上給油の継続。 
 「政策」
 @ 経済 … 政策減税・規制改革・先端技術開発・財政再建路線・歳出削減・税制改革
 A 社会保障 … 年金財源の確保、介護保険制度の確立。
 B 教育改革 … 学校再生。家庭の負担軽減。学校選択の自由化(校区の廃止)。
 C 地域再生 … 農業改革。食料自給率の引き上げ。建設業の新分野開拓転換支援。
 D 外交 … 日米同盟の強化。拉致問題の解決。新しい連携・秩序の構築。
 E 環境 … 環境・エネルギー新技術。それによる新しい需要・雇用。
 「政治改革」
 @ 政府の簡素化 … 国の出先機関を地方へ移し、二重行政を廃止。
 A 地方分権 … 権限と出先機関を地方へ移譲・移管。 道州制。
 B 国会改革 … 与野党間協議を促進して、国会審議を効率化。
 C 自民党改革 … 内閣を党が支える機能を高める。 党本部と地方組織の連携。
といったことを挙げているが、どれをどのように行っていくかは、所信表明しなかったので判らない。
 それにしても、麻生新首相の物言いは、品位がない。言葉も単語の羅列で、良く言えば単純明快だけれど、中学校の生徒会の質疑応答じゃないのだから、「総理、官僚が野党から求められた資料を提供するのに、自民党の事前了解を取るなんてことはやめると明言してください」と言う民主党議員の質疑に、理由も何も言わず、タダ一言「その気持ちはありません」なんて、そんなので良いのだろうか。なぜ、そうする必要はないのか…、少なくとも説明して、だからそうすることはしないというのが、論理というものだろう。総理の品格に、論理・説明・納得を得る…といった項目はないのだろうか。


 昨日の麻生新首相の質問(笑)を受けた、本日の小沢民主党代表の答弁(笑)を見てみよう。小沢代表は、あえて「麻生首相の質問にお答えして、わたくしの所信(笑)を申し述べます」と言っていた。
 小沢一郎が述べた、民主党の政策とは、
 @ 「天下り」や「税のムダ遣い」をなくし、予算を組み替え、2012年度には20兆5千
  億円の財源を生み出す。
 A 「消えた年金」は国が全額支払う。 国民健康保険の将来的な一元化。医師の5割増。
 B 1人当たり2万6千円の子ども手当てを中学卒業まで支給。公立高校の授業料を無料化。
 C パート、契約社員と正社員を均等待遇に。 最低賃金の全国平均を時給1000円に。
 D 農林漁業の所得保障制度を創設。 中小企業の法人税を原則半減。
と言う。
 これが、今度の総選挙の民主党公約の根幹となることだろうが、なかなかに解り易くて良いのではないか。一般会計に特別会計をあわせて220兆円を俎板(まないた)の上に乗せるべきであるし、そこから20兆円をひねり出すのはわけもなく容易なことだ。政権交代の成果なのだろう。
 個々の政策が具体的に示されていないから、景気浮揚はどうするのか、公務員改革はどのように、農林水産業の振興策は…など、しっかりと聞いていかなくてはならない点は多々あるが、まだ野党なのだから、所信表明はオマケだったということか。


 いずれにしても、新首相が質問を連発し、野党党首が答弁する国会の幕開けは、いよいよ政権交代への足踏みである。
 民主党も、オマケを本番に据え直して、政権担当への本気を国民にしっかりと示さなければならない。これならば、政権を預けても大丈夫と、国民が納得する政権構想を作り上げ、劇的に国民に示して、選挙戦を迎えることだ。



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