【176】 小沢民主党代表事務所強制捜査 第一秘書逮捕       2009.03.07
     − あからさまに仕掛けられた 小沢潰し −


 準大手ゼネコン「西松建設」からの企業献金に絡み、民主党の小沢代表の事務所が強制捜査を受け、大久保隆規公設第一秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕された。
 大久保秘書の逮捕容疑は、2006年10月ごろ、実際には西松建設の資金だったのに新政研(西松側の政治団体「新政治問題研究会」、もうひとつは「未来産業研究会(未来研)」)名義で献金100万円を陸山会の口座で受領。これを含め、03−06年の4年間で同社から2100万円の献金を受け取ったのに、政治資金収支報告書には新政研や未来研からの献金だったと虚偽の記載をした疑い。


 この捜査は、政権交代が確実視される衆議院選挙を見据えた、政権与党の意思が働いた国策捜査であることは明らかだ。


 そう考えられる第一の理由は、西松から献金を受けた政治家は(自民党にも)たくさんいるが、なぜ現在、小沢代表の関係だけを標的にして摘発逮捕しなければならないのかという疑問に、明確な答がないことである。その理由を、献金額が突出しているし証拠も確定していると、検察は説明していて、関係者によると、小沢代表の団体側は新政研と未来研が解散する06年までの11年間に総額約1億8000万円を受領、献金額や献金先団体も指定していたとしているが、金額の多寡によって罪が免れられるという性質の問題ではない。
 もしこの事件に着手するのならば、森元総理や二階経済産業大臣をはじめとする自民党議員の面々をも捜査の対象として同時に家宅捜索を行い、容疑が固まれば逮捕拘束するのが当然であろう。



 第二に、証拠隠滅の動きがあるとか海外逃亡の恐れがあるなどの場合を除いて、政治的に影響のある時期には捜査は進行させないというのも、検察の政治的中立を鮮明にするための不文律であった。ところが今回は、もう6ヶ月以内に衆議院選挙が行われることが確実になっているこの時期の、狙い済ました家宅捜索と逮捕である。この捜査が行われて、今、「小沢氏は代表を辞めるべきだと57%の世論が表明」「民主党の政党支持率は−7ポイントで22%(自民党と同率になった)」「民主党の各県連は選挙への影響は必至と憂慮」など、大きな影響が出ている。


 第三に、検察の捜査状況のリークが、あからさまに恣意的であることだ。例えば、「大久保隆規容疑者が、西松建設側へ請求書を送りつけて献金を要求していた」という記事が新聞やテレビで大々的に報じられたことを、皆さんは記憶しているだろう。捜査の過程で判明したと、まさに捜査の当事者しか知りえないことを、検察がマスコミにリークした記事であるが、ところが6日、「請求書を送りつけていたという事実はなかった」と訂正発表したのだ。それを報じたマスコミの扱いは微々たるものだった。ダーティ小沢のイメージを国民に焼付けたあと出された小さな訂正記事は、一度焼き付けられたレッテルをはがす役割は果たしえない。結果は、小沢民主党支持率の大幅ダウンである。
 そもそも政治資金といったものは、紙包みや買い物袋で議員宿舎などに持ち込まれ、領収書は後付でもっともらしく作られるというのが、政界の常識である。それがいいとはいわないが、裏の慣行を表の世界に引きずり出して形を整えようというのが政治資金規正法であり、したがってどこまで公表できるかについては自ずと限界があって、これまた政界の了解事項であった。小沢代表が最初の会見で、「この種のことは今まで司直の手が入ったことはない」といみじくも述べたのも、事実であると共に当然だったのである。
 ところが、死に体の麻生政権は形振り(なりふり)構わない禁じ手使いに踏み出した。ジャーナリストの田中良紹氏はブログ「内憂外患」(http://news.www.infoseek.co.jp/special/j-is/commons0903_004)の中で、麻生首相誕生時に「麻生政権は民主党の小沢代表をターゲットにスキャンダルを暴露する以外に生き延びる術はない」と予言していて、日本の仕組みの現状を「与党と官僚とが微妙な隙間を作りながら複雑に絡まり合い、どこに権力のポイントがあるのかを分からなくする日本の統治構造」といい、その構造を熟知し自由に操れる小沢一郎を潰せば民主党なんて恐るるに足りないというのが利権体制を享受する勢力(政権・与党・官僚・大マスコミ・経済界)の判断だと指摘している。
 

 そして第四に、漆間官房副長官が口を滑らせた「自民党議員には波及しない」という発言は、この捜査が政権と検察との間で仕組まれたものであることを物語っている。官僚トップである官房副長官が、なぜ捜査の進展について言及するのか…。自らが関与した計画であったことを、思わず誇らしげに語ったという証である。
 漆間官房副長官は的場前副長官(大蔵省出身)の後任で、警察庁長官を務めた警察OB。高級官僚の枠には各省庁の占める割合があり、当時の内閣官房では野田健内閣危機管理監と三谷秀史内閣情報官の2人の警察庁出身者がいたので、さらに漆間氏が官房副長官に登用されれば「警察偏重」とのブーイングが沸き起こるであろうことをあえて押し切りっての登用であった。
 麻生内閣が漆間副官房長官の起用を決めたのは、長年北朝鮮による拉致問題を担当していたことが報じられたが、他にも警察OBであることから現役警官から情報が得られ、小沢一郎民主党代表の持病である狭心症の状態や、民主党大物議員のマルチ商法スキャンダルを調査させるという目的であることも報じられている。(一部ウィキペディア(Wikipedia)より抜粋)
 今になってみれば、民主党は小沢代表さえ葬れば恐るるに足りない存在だから、小沢のウイークポイントを探り狙い撃ちするための布陣であったかとの見方もできる。うがった推測のようだが、ごり押しした人事を見ても、案外これが正鵠を射ているのかもしれない。
 内閣と検察が手を組んだ陰謀が明るみに出れば、政権は吹っ飛ぶ。漆間副官房長官の誇らしげな口すべりをぼかすために、自民党議員の何かを摘発するぐらいのフェイントを使うことになるのだろうが、それも読み筋通りだから、内閣も検察も可愛いものである。


 それにしても、内閣と政権与党の権力の悪辣さを見せつけられた思いがした。

 
 上に紹介した田中良紹氏のブログにもあるように、日本の検察は悪いものを捕まえるのでなく、時の政権に邪魔なものを捕まえ排除する機関である。しかも、マスコミが検察発表をそのまま記事にする堕落ぶりでは、権力の向こうにいる本当の「悪」はのさばるばかりである。
 今回の小沢スキャンダルは、小沢一郎主導の国政改革を阻止しようとする、官僚・一部の自民党とマスコミ(あえて旧勢力と呼ぶことにする)の共同作業である。政権交代は仕方がないとしても、政権の本質を知る小沢一郎のいない民主党ならば、今の自民党と同じように、旧勢力にとっては手のひらの上で転がすことができると踏んでいる。しかし、小沢一郎が指揮する国政改革が断行されるならば、権力のあるところを熟知している小沢によって霞ヶ関は解体され、旧勢力の利権体制は崩壊する恐れがある。


 何が真実で、何がウソなのかを、自分の判断で見極めることが大切である。「おかしいな」と思ったら、そこには欺瞞がある。「政権交代がかかった総選挙を控えたこの時期に…おかしいな」と思ったら、そこには陰謀があると疑うことだ。そして、権力と手を結んでいる新聞やテレビだけに頼らずに、自分で情報を集め、照らし合わせて考えてみることである。
 ある民主党議員が言っていた「政権を取ったら、利権構造の中で甘い汁を吸っている3000人ぐらいを逮捕して、この国を掃除する」という言葉が、今回の小沢スキャンダルの裏返しとして現実味を帯びてきた。


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