【181】 「日本の景気は底を打った」…か???             2009.06.05
     −与謝野経済財政担当・財務・金融担当大臣の判断の危うさ−

 
 長期金利の指標となる10年最長期国債利回りが約8カ月ぶりの水準に上昇している。債券市場は売りが優勢で、国債利回りは3日まで3営業日連続で上昇(国債価格は下落)、一時は前日終値比0・01%高い年1・55%を付けた。1月に1・2%台だった長期金利は4月以降、上昇テンポが上がっている。
 転じて株価は、株高・債券安の傾向が続いていて、米ゼネラル・モーターズ(GM)の一時国有化決定で悪材料が出尽くしたとの投資家心理からか、日経平均株価は3日には4営業日連続で今年の最高値を更新した。さすがに4日は7日ぶりに反落したが、前日比−72円71銭と小幅の下げにとどまり、終値は9668円96銭と相変わらずの強含みの推移である。
 

 景気後退の要因となるといわれる長期金利の上昇だが、日銀は景気対策を実行したのに長期金利が上がらなかったらそれこそ問題と、この上昇を楽観的に受け止めている。5月下旬に発表した景気判断でも、輸出や生産に底打ちの動きが出ていることを踏まえ、「大幅に悪化している」から「悪化を続けている」に上方(?)修正…、悪化ペースの鈍化を示す表現に改めた。上方修正は、ゼロ金利政策を解除した06年7月以来、2年10カ月ぶりである。
 与謝野経済関連3閣僚兼務大臣も、1−3月期の実質成長率−15%(年間換算)という過去最大の落ち込みを経て、落ち込み幅が減少するであろう今期の見通しを、「景気は底を打った。これからは回復期に入る」と述べている。
 しかし、本当にそうなのか…?。与謝野大臣は、サブプライムローンに端を発した世界同時金融危機の際にも、「基盤整備の進んでいる日本は大丈夫。蚊に刺された程度のこと」と発言していた。結果はというと、株価は欧米以上の下げ幅を記録し、一時は87円まで上がった円相場の影響や欧米での売り上げ減から、トヨタやシャープなど日本を代表する大企業が軒並み大幅な減収を余儀なくされ、下請けの中小企業は塗炭の苦しみ…、解雇された人々が巷に溢れて大きな社会不安を引き起こしたのである。彼が『政策通』の評判を得ていることから、『与謝野をしても、この程度か。政治はみんなボンクラだ』と思わされた。その後も、何食わぬ顔で3閣僚を兼務し、日本経済の舵取りを淡々と続けているが、『解散と経済のことは、嘘をついてもいいんだ』と、親方(麻生総理)と二人で嘯(うそぶ)くつもりだろうか。
 日銀や与謝野大臣のコメントに乗せられてか、今年の3月19日には一時的に6996円をつけた株価(終値は7054.98円)が、今日は9600円をつけていることも理解に苦しむ。他に行き場のない投機資金が、割安感のある(実際に安い)日本の株式市場に流れ込んでいるのだろうが、切り立った稜線の上で踊りを踊っているようなもので、素人には近寄りがたい不気味さがある。
 長期金利上昇の彼方には株価の暴落が待っている…というのが、金融サイクルの図式だ。現在の長期金利の上昇は、各国が景気対策のために巨額の財政出動に動いた副作用である。日本でも14兆の補正予算を組むために、追加国債の発行を余儀なくされて、発行額が税収を上回ることになりそうである。景気対策の財源として主要国が国債発行を増やせば、需給バランスが崩れて債券安となり、長期金利の上昇がさらに加速しかねない。
 実体経済が壊滅的な打撃を受けている現在、米銀行のドル引き上げなどによって国家財政が揺らいでいる欧州から、今度の金融危機が発生する懸念は重大な要注意事項である。不況の脱出のためにアメリカはこれから大幅な公費投入を行うだろうが、イランや北朝鮮などの問題を抱えて、経済はますます厳しくなることだろう。これでも、日本経済の未来は明るい…とのん気なことを言っていられるのだろうか。
 今年の後半以降に懸念されている、第二次金融危機を乗り越えるためには、政治がしっかりとした見通しを持って、経済を支えていくことが必要である。麻生内閣が発表した経済対策や過去最大の補正予算も、官僚の余生をバラ色にするための天下り機構への資金支給やばら撒き定額給付金などといったその場しのぎの対処策でなく、戦略的な展望を持って予算を投入していく取り組みが必要であった。
 それを実現していくためには、しがらみのない新政権の誕生を待つしかないのだろうか。


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