16日に召集された特別国会の首班指名選挙において、衆院327票、参院124票と、両院で過半数の票を獲得して、鳩山内閣総理大臣が誕生した。第93代、60人目の首相である。
 待望の政権交代が実現して、新しくスタートした鳩山民主党政権は、1955年以来55年間続いた自民党長期政権の間に、日本に溜まりに溜まった塵・埃(ちり・ほこり)を吹き払い、政官業馴れ合いの因習に楔(くさび)を打ち込んで、まずはこの国の風通しを良くしてくれるものと期待している。
 しばらくは、慣れない国政の舵を取る民主党のお手並みを拝見し、大筋での方向が合致していれば、枝葉末節はいろいろな問題があろうとも、原則的に支援するということで見守っていかねばなるまい。今までと異なる政治手法をとるのだから、やってみなくてはわからないところも多いだろうし、旧勢力の抵抗も考えられる。それらを乗り越えて、鳩山民主党の存在をしっかりと示して欲しい。

 
 鳩山政権を評価するひとつの節目として、来年(2010年)の参議院選挙が大きな意味を持つことは論を待たない。鳩山民社国連立政権にとっては、初めての審判となる選挙である。この選挙に負ければ、今回の政権交代は単なる風…有権者の気まぐれに過ぎないということになり、勝利してこそ鳩山政権は国民に認知されたということになるのだから、まずはそれまで、マニフェストに掲げた重要政策を一つ一つ実現して、国民の信頼を獲得していくことが肝要である。
 民主党小沢幹事長は、民主党単独で過半数の122議席を占め、かつ院内会派で安定多数の129議席を目標にすることに意欲を見せ、積極的に議席の独占を狙って定数2以上の選挙区で複数人の候補者を擁立する方針を示している。
 参議院の現在の勢力図は、民主党(108)・新緑風会(4)・国民新(5)・日本(1) ・社民(5)で与党が123議席。日本共産党 が7議席。対する野党は、自民党(81)・改革クラブ(4)・公明党(21)で106議席。各派に属しない議員4(議長及び副議長を含む)、欠員2で、定数の242議席である。民主党が14議席を伸ばせば単独過半数に届き、連立を組む社民・国民新党の存在感は薄くなる。両党にとっては選挙協力を積極的に行うかどうか、悩ましい問題である。


 さて、鳩山民主党内閣としては、政権を担当する以上、それぞれの政策に手法や財源など具体的な裏づけを示さなければならないし、日米安保を含めた外交安全策にも現実的な継続策を模索していかねばならない。
 まずは巷間、民主党の政策には財源の裏づけが無いと指摘されていることに対して、早速に答えなくてはならない。政権を取った今は、マニフェストに掲げた項目のそれぞれを着実にこなし、「民主党はやるじゃないか」「国民との約束を守るね」と言わさねばならない。そのために、無駄の排除、予算の見直し、埋蔵金の発掘など、あらゆるところから資金を捻出しようと務めることだろう。そして、第1年度は曲がりなりにも資金を調達して、マニフェストの目玉項目をきちんと実施すると思われる。
 ただ、この場合にも、赤字国債の発行は余儀なくされる。自民党政権下において90兆円ほどの予算に40兆円前後の国債を発行してきたのだから、いかに政権交代が行われたからと言って、国債発行をせずに予算が組めるわけがない。当面は従来に近い国債発行はやむを得まい。
 しかし、来年…再来年…と経つにつれて、財政的に行き詰まることは目に見えている。埋蔵金は、2年3年と彫り続けることができるものではないし、新たな財源を求めずに、民主党の諸政策を実現していくことは不可能である。
 とすれば、来年の参院選以降3年間は選挙が無いのだから、ここで腰を落ち着けて、徹底的に無駄を省いたことを目に見える形で示したのち、社会保障制度を確定させるための財源として消費税を引き上げる必要性を説き、安全保障を維持していくためにアメリカとどう向き合うのかなどといった議論を尽くすことが必要だろう。国政改革を進め、産業構造を立て直して経済を強化するなど、鳩山民主党内閣の実績を国民が評価すれば、政策に協力しようという機運は醸成されるはずである。


 ここでもうひとつの問題が…。民主党には自民党旧田中派から旧社会党、市民運動家など、さまざまなイデオロギーが寄り集まっているという問題である。さらに社民党との連立は安全保障に影を落とし、亀井国民新党とのそれは旧式の利益誘導型政治に陥るのではないかという心配がある。
 当面、不明年金の洗い出しやダム建設の凍結など、前政権の汚点を洗い出し訂正していくうちは一丸となって突き進めるだろうけれど、拠るべき国家観をどう定めるか、経済はどのように建て直していくのか、公務員改革は連合に依存する民主党で出来るのかなど、大きな政策になると必ずや足並みが乱れることになるだろう。
 自民党経世会出身の鳩山・小沢・岡田と社会党出身の横路・仙谷・赤松・輿石は、将来的に一枚岩でありうるのか。草の根市民派を自称する菅直人は、どんな役回りを演じるのか。前原・長妻・野田・原口ら、民主党内で育ってきた若手もスタンスは一様ではない。政権という強力な磁力でもって、テンデンバラバラの方向を向いているこれらの議員を、鳩山執行部は取りまとめていくことが出来るのだろうか。
 来年の参議院選の後には、基本的な政策を徹底的に議論し尽くして、鳩山民主党の目指す将来を明らかにし、禍根を無くするべきであろう。「民主党をぶっ潰せ」というのは現実的ではないが、一部は政界再編を行っても安定政権を確立して、真の二大政党政治の実現に邁進してもらいたいと願うものである。


(自民党に対する要望も記さないと論議は完成しないのだが、ここでは保守本流の軸を立て直し、人材の育成に腐心することを提案しておきたい。自民党の敗因は、長期政権のぬるま湯の中で、人材が枯渇したことに尽きるのだから)


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【185】 鳩山内閣スタート −民主党政治はいずれ行き詰まる… その時−  2009.09.18