【196】 腹を据えろ、日本外交               2010.09.23
   − 試される、民主党政権の覚悟と能力 −


 尖閣諸島(中国名・釣魚島)沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件は、中国漁船船長の逮捕拘留に対して、中国は激しい反発を見せ、即時返還を求める度重なる政府広報官のメッセージ、丹羽中国大使を休日深夜を含む5回呼び出しての抗議、東シナ海のガス田「白樺」の開発交渉の延期通告と中国独自の開発推進、省エネ家電やハイブリッド車(HV)の部品に不可欠なレアアース(希土類)の日本向け輸出の停止通告、その他の報復措置を次々と打ち出している。そして、日本(奈良市)で開催したアジア太平洋経済協力会議(APEC)では張西龍中国家観光局副司長が、また、国連総会では温家宝首相までもが、「日中関係は深刻な問題に直面し、責任はすべて日本側にある。事態の解決は、船長の無条件即時釈放のみ」と国際会議の場で発言し、事件は世界各国が注目する事態となった。
 さらに今日、中国は、河北省石家荘市で日本人4人が同省内の軍事管理区域に侵入し、不法に「軍事目標」をビデオ撮影していたとして、国家安全当局が4人の身柄を拘束し取り調べていると発表した。読売新聞によれば、この取調べは中国人船長の拘置が延長されたことに対する報復の可能性があるという。
 ことここに至っては、日本は腹を決めることだ。これまでも、日本の領海内で起こったことだから、「日本の法律に従って粛々と処理する」態度を貫いてきたが(ただ、先日の仙石由人官房長官の『政府高官級のトップ会談によって解決を』という提案はお粗末に過ぎる)、これからは国家間の戦いを交える覚悟を辞さないことだ。
 戦い…といっても、武力衝突を前面に出して外交交渉を行えというわけではない。講談社+α新書「自衛隊はどこまで強いのか」(田母神俊雄・潮匡人)によると、「今はまだ勝てるけれど、5年後には逆転する」とあるから、今のうちに…というのは冗談としても、大使の召還…といった事態になっても辞さないという覚悟を示して、これからの事態に臨むことが肝要である。中国がこの時期に強硬すぎる態度を崩さないのは、鳩山前政権の迷走で日米関係がギクシャクしていることをチャンスとし、民主党新政権の覚悟と能力を試そうとしているからである。
 今日のテレビで、中国からの団体客が何千人もキャンセルになったというホテルの社長が、「大きな日本の国益のためには、我慢して乗り越えなければならないことでしょう」と語っていたが、まさに今、日本は一体となって、日本の国益と誇りを守る戦いに臨まなければならない。


   
 尖閣列島の領有については、日本政府が尖閣諸島の領有状況を1885年から1895年まで10年をかけて調査し、世界情勢を考慮しつつ、いずれの国にも属していないことを慎重に確認したうえで、1895年1月14日の閣議で決定して沖縄県に編入としている(現在は石垣市に属する)。国際的にも日本の領土と認められ、日本人の入植も行われてきた。 アホウドリの羽毛の採取や海鳥の剥製の製作、そして鰹節の製造などが行われたが、鰹節工場は閉鎖され、1940年に無人島となった。
 無人島になってからも日本の実効支配は継続している。第二次世界大戦後は一時連合国(実質的にはアメリカ合衆国)の管理下に置かれたが1972年に沖縄県の一部として日本に返還されている。
 中国および台湾は、尖閣諸島を実効支配していないものの、1895年4月17日に締結された下関条約(馬関条約)は侵略戦争によって強引に結ばれたものであるなどとして領有権を主張し、台湾省宜蘭県に属するとの立場をとっている。しかし、日本が自国の領土であると主張した時期(1月14日)と下関条約が結ばれた時期(4月17日)は明らかにずれていて、中国および台湾の主張は成立しない。


 中国こそ、周辺地域を無法に侵略してきている。チベット・新疆ウイグル自治区・内モンゴルなどの地区を、国際慣行を無視して理不尽に領土としてきたことを忘れてはならない。例えばチベットは、清朝の時代には同盟国としての対等外交をしていたのに、1950年から1951年にかけて中国人民解放軍は突如としてチベットへ侵入した。中国側はこれを「西蔵(西チベット)和平解放」と呼んで、正当性を持たせようとしている。
 中国の侵攻は、常に要求を小出しにし、相手が強い反発をしなければそれをエスカレートさせ、その要求事項を既成事実化していくやり方だ。国際政治はほとんどがそんなものだといえばそうなのだろうが、お人よしの日本は譲れば相手も理解を示すと今なお思っているのではないか。
 先に書いたように、この問題は躍進する中国が周りの権益を取り込んでいこうとする動きに、日本はどのように対抗していくかと、世界が注視している。特に、尖閣列島と同じような海洋領有権を中国との間に抱えている国々は東南アジアにも多くあって、その国々も日本の対応を熱く見守っている。
 韓国は、東シナ海での中国漁船の取り締まりに厳しい態度で臨んでいて、近年、年間5000人もの中国漁民を領海侵犯・不法漁業で逮捕し、200〜400万円の保釈金を徴収している。韓国海洋保安部は、「これからも断固取り締まる」との態度を崩していない。一貫したその態度に、中国政府は抗議の声もあげていない。法律は韓国の正当性を認めていて、抗議することに何の意味も無いからである。
 しかし、日本は強硬な態度を示せばすぐに折れることを、彼らは今までの経験から知っている。日本固有の領土でありながらロシアに実効支配されている北方4島はロ敗戦以来、そして、竹島も1952年の李承晩(当時の韓国大統領)による一方的な領有宣言以来、彼らによって実質占拠されている。北方4島の返還はすでに65年の間、何の進展もなくロシア領になってしまおうとしているし、竹島は韓国の一方的な領有宣言によって、日本の領土であると言いながらここで操業してきた日本漁船328隻が拿捕され、日本漁民44人が殺傷され、3929人が抑留されてきたのである。
 稚拙な外交は、いかに国民を悲惨な境遇に落とすかを如実に示す実例である。今日までの日本外交は、いたずらに国益を損ね、国と国民の誇りを貶めるものであった。政治家や外交に携わる者たちの能力・覚悟が足らなかったといってしまえばそれまでだが、国民の意識も、屈しない外交を支えるものとは言い難いところがあったことも事実だろう。
 中国は中華思想(中国こそ世界の中心であって、周辺地域は野蛮な属国だとする思想)を何千年も保有し、国家を形成してきた。だから、周辺の国々に対する論理は理不尽である。中国が現在、東南アジアの国々と揉めている南シナ海の西沙・南沙・東沙・中沙諸島の領有権問題も、1992年、突然に大陸棚は自国の領土の延長と一方的に主張し、領有権を宣言したのである。反発したASEAN諸国は抵抗したものの、時には軍艦をも出動させて中国漁船の出漁を守り、今ではそれを既成事実化しようとしている。だから、日本の今回の対応は、ASEAN諸国にとっても他人事ではなく、日本がこの問題を毅然とした態度で処理すれば、西欧列強の勢力を阻止してアジアに希望をもたらした日露戦争以来の快挙として、彼らに勇気を与えることとなる。
 菅内閣は一丸となって日本の正当性を貫かねばならない。(心配は、赤い官房長官と揶揄される仙石由人の腰砕けと、反日の旗を振ったことのある岡崎国家公安委員長だが、岡田・前原・枝野らも育ってきている(と信じたい)から、横路迷路に入ることはないと信じたい。)
 と同時に、国民のみんなにも、今こそ戦後教育の呪縛から脱却して、一致団結して中国の横暴に屈しない日本を形成していく決意を持ってもらいたい。『和を以って貴しと為す』ことは確かに美徳だけれど、理不尽を許すことは不徳であることに気づいて欲しい。中華の横暴を正し、国際政治の秩序を構築し、アジアの国々とともに歩んでいくことこそが、日本のあるべき姿なのだから、その実現に力を尽くしてほしいと思うのである。

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