【208】 菅内閣 不信任案 否決        2011.06.02
  

 衆院本会議は、自民、公明、たちあがれ日本の3党が提出した菅内閣の不信任決議案を、賛成152票、反対293票で否決した。
 鳩山・小沢が不信任案賛成を表明して、前夜までは不信任案可決必至とみられていたが、今日午前中に行われた菅・鳩山会談で、『大震災と原発事故の解決に一定の目処がついた段階で、菅直人は首相を辞任する』ということで合意が成立し、これを前提に鳩山は今回の不信任案に反対するとして、確認文書を作成した。
 午後に行われた民主党の両院議員総会で、「しかるべき時期に私は辞任する」と菅首相が述べ、続いて立った鳩山が「お辞めいただくということで、党の分裂につながるような事態は避けさせていただきたい」と、気味の悪い敬語だらけの話をすると、集団でならば辞任は当然と大騒ぎしていたのに、ひとりひとりは腹の据わっていない民主党議員たちは前夜の勢いはどこへやら、ほとんどが不信任反対へと転じてしまった。前総務相の原口一博など、前日までは「私たちが野党の不信任案に1票投じるというのは断腸の思いです。しかし、100年の悔いを残さないためには、これが今の取りうる最善の手だ」と不信任案賛成の思いを熱く述べていたのに、反対票を投じた後は「もともと、野党の不信任案に乗るなんていうのは、邪道なんですね。もうその手はなくなりました」とイケシャァシャァと語っている。


 国民は、いったい何を見せられたのか?


 あきれ果てた平成田舎芝居の見どころの第一は、鳩山由紀夫という思いつき政治家の場当たり的な言動と、それに付け込んだ菅・岡田執行部の戦略である。「鳩山の不信任案賛成は、政治的信条からの判断でなく、いつもの上滑りだ。首を振れる条件を示せば、自分が作った党を割りたくないというのが本当のところだ」と、読まれてしまっていた。ホントに、日本の現状打開のためには菅直人ではダメだと考えていたのであるのなら、採決当日の朝にのこのこと首相官邸に出かけていくわけがない。
 鳩山のこの行動を見せられては、さすが豪腕の小沢一郎もなす術がなく、「辞めるという言葉を引き出したのだから、あとは自主投票でいいんじゃないか」と言わざるを得なかった。
 第二は、民主党議員たちの信念の無さだ。昨夜まで、みんなで「菅首相は辞任するべき」とこぶしを振り上げていた連中は約70人…。それが、自主投票と聞くと一斉に反対に転向してしまった。彼らは、『菅直人には日本の舵取りは任せておけない』という判断から、不信任案賛成に一票を投じようとしていたのではないのか。
 民主党を追い出されてはこれからの政治人生の展望が描けないからと思っているのなら、こんな民主党にしがみついていても先は無い。また、ここで解散したら未来永劫民主党政権はないから、今の菅に解散ができるわけがない。さらに、このまま次の選挙を迎えたら、民主党公認候補はみんな討ち死にだろう。
 第三は、谷垣自民党の詰めの甘さだ。菅政権から人心は離れていることをしっかりと認識させ、民主党に明日は無い、菅政権には今日も無い…と、民主党議員の切り崩しをなぜ図らなかったのか。一昔前の自民党ならば、他政党の懐にも手を突っ込んでかき回すぐらいのことを平気でやる連中がいたのに、今の政治家は口先ばかりでスマートすぎる。
 戦後、内閣不信任案は4回可決されている。昭和23年の内閣不信任案の可決はやらせである。これは衆議院の解散ができるのは憲法69条の場合に限られるという解釈を前提に、事前に与野党が協議して不信任案を可決させ、吉田内閣が衆議院解散を行った(馴れ合い解散)のである。
 昭和28年は、与党である自由党鳩山派が分党して内閣不信任案に賛成したために可決され、吉田首相は衆議院を解散した(バカヤロー解散)。
 昭和55年の大平内閣の際は、自民党反主流派の福田派(現・町村派)・三木派(現・高村派)らの議員が本会議を「欠席」して内閣不信任案が可決…。大平首相は衆議院を解散し、衆参同日選挙となったが、首相は選挙期間中に死亡…、選挙は自民党が大勝した。不信任案を提出した社会党はまさか可決されるとも思っておらず、与野党ともに「ハプニング」による選挙だったので、「ハプニング解散」と呼ばれている。
 平成5年の宮沢内閣の場合は、当時自民党最大派閥の竹下派の分裂が主たる原因であった。羽田派の議員らが内閣不信任案に賛成し、13年ぶりに内閣不信任案が可決。その後の選挙で自民党は過半数割れ、非自民非共産8党派連立の細川内閣が成立し、1955年以来続いた自民党政権が終焉を告げたのである。
 そして今日の不信任案であるが、今回は成立の可能性が高かった。民主党の小沢系議員への働きかけと、鳩山の軽挙妄動さえ封じておけば、可決したのである。それだけに、152票VS293票という大敗振りとともに、谷垣自民党の無策振りも糾弾されるところであり、今後の谷垣執行部に対する批判も避けられないところだろう。


 いつとは明示していない(岡田幹事長談)とのたまう菅首相の辞任の日まで、日本の危機がさらに続くことになった。能天気な鳩山は「東日本大震災復興基本法案を成立させ、平成23年度第2次補正予算案編成にめどをつける6月末」なんていっているが、言下に「そんなことは合意文書には書いてない。来年までかかる」と岡田に否定され、「ウソはいけません」と駄々をこねている(苦笑)。
 今年末までを視野に今国会を大幅に会期延長する考えを示している菅首相が、2次補正成立までその座にとどまるならばまだ半年以上ある。大震災の復興や原発事故解決の目処など、向こう5年10年のスパンで考えなければならない問題である。
 大震災に限らず、菅政権の無策無能ぶりは目を覆うばかりである。中国・韓国・アメリカなどの他国がリーマンショックからの立ち直りを示しているというのに一向に上を向かない日本の経済、一に雇用・二に雇用と叫んだ菅首相なのに依然として失業率は高く新卒者の就職内定率も厳しい数字を示してる。子ども手当て・農家の所得保障など、目玉の公約は何一つ実現しない政治不信を招き、今日発表された「社会保障改革に関する集中検討会議」(議長・菅首相)の報告書には、2015年度までに消費税率の10%への段階的な引き上げが必要だと明記している。今月20日には高速道路の上限や無料化が撤廃されるなど、確実な高負担社会への移行が始まっている。
 国際社会には評価されず、政治不信を増幅するばかりで、経済の浮揚や公務員改革などの国内問題には何らの手も打てず、国民に負担ばかりを押し付けて、震災後3ヶ月が過ぎようというのに復興も原発事故も遅々として対応が進まない。
 こんな政権を、まだ担いでいこうというのか。不信任決議案は慣例上、一国会に一回しか採決できない。首相が「自発的に辞任」するまで、あと半年、あと1年、…、もしかすると任期いっぱいまで、国政を担当する能力の無い首相を戴いて、死に体内閣が率いる日本は迷走を続けなければならない。


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