【日本は今、212】 厚顔無恥な民主党の主張     2011.07.26


 NHKの日曜討論で民主党の五十嵐文彦(財務副大臣)は、『「赤字国債発行法案」が成立しなければ日本経済・復興支援…、さらには国民生活に重大な影響が出る』と主張し、不成立の場合には野党は責任を問われるといった論調であった。
 これに対して、自由民主党の鴨下一郎(政務調査会長代理)、公明党の石井啓一(政務調査会長)は、「更なる無駄の削減が必要」と条件を述べている。
 この議論は野党側に理がある。赤字国債を発行するには、政治・行政の無駄を徹底的に省く努力を見せることが先決であり、自民党時代よりもむしろ改革を後退させている民主党が、復興のため・国民生活のため…といくら声高に叫んでも、新たな赤字国債(借金)の何割かはまた無駄に消えていくことになるのだから。
 2006年、安倍晋三内閣は「戦後レジゥム」からの脱却という大改革を実行しようとすると、官僚システムの組み替え=公務員改革を断行しなくては、何も進まないとして、渡辺喜美行政改革担当大臣を任命して天下り禁止を打ち出した国家公務員法の改正を皮切りに、官僚と真っ向から対峙する姿勢を鮮明にした。これに対する官僚側の反発は尋常でなく、消えた年金のリークやサボタージュなどの抵抗を受け、安倍総理の体調不良も相俟って、政権は崩壊する。
 後を受けた福田康夫総理は改革に消極的で、纏め上げられた「国家公務員制度改革基本法」の案を渡辺嘉美大臣から渡されたとき、その受け取りを一旦は拒否したというほどだ。それでも、渡辺大臣の情熱と周囲の悲壮感の漂う努力はマスコミと国民に支持され、与党(自民党)の守旧派の反対を受けながらも、野党(民主党)の賛成を受けて、2008年6月6日、衆議院内閣委員会で成立した。そのとき渡辺大臣が流したが、成立への道がいかに難しかったかを物語っている。
 が、その直後の8月1日の内閣改造で、渡辺喜美は行革大臣を退任させられる。後任の茂木俊充大臣は、官僚の意向を受けて改革反対を唱える自民党の大勢を背景に、積極的な姿勢は示さない。当時は改革を叫んでいた民主党も、支持母体である労働組合が真っ向から改革反対を唱え始めると、とたんにトーンダウンしていった。
 続く麻生太郎総理は、思考停止かと思うほど全く関心がない。行革の必要性すらわかっていないようであった。このときの行革担当大臣は甘利 明。基本法に定められた人事に関する機能をすべて内閣に集める「内閣人事局」の制定をめぐって、官僚に洗脳された鳩山邦夫総務大臣と戦わねばならなかったし、推進本部の会議に呼ばれた谷公士(まさひと)人事院総裁が会議をボイコットするという事件を起こしたのもこのときである。


 総理が本部長、各省大臣が出席して公務員改革について議論し、
 政策を決定する「国家公務員制度改革本部」の会議をボイコットした
                 谷公士(まさひと)人事院総裁 →

 人事院の査定権限を内閣人事局に移管しようとした甘利大臣に対して、
 内閣の会議をボイコットして官僚の権益を守ろうとした谷公士という
 この名前と顔を、日本の民主化を志すものは、決して忘れてはなるまい。



 このとき麻生内閣は末期的症状を呈していて、国民の支持率が下がったら致命的だという判断から、官僚寄りの守旧派議員の抵抗もそこまでとなり、人事権は人事院から内閣人事局へと移管されることとなった。
 2009年9月16日、民主党政権が誕生した。鳩山新政権は日本の改造を行う勢いで公務員改革にも取り組むものと期待されていて、行政刷新大臣に仙石由人が就任する。当初、改革を積極的に口にしていた仙石だったが、自民党政権下で決定していた予算案を白紙に戻し、民主党政権下で12月までに組みなおすこととしたために、財務省の協力が不可欠で、官僚と対決する姿勢は腰砕けとなった。
 鳩山政権が国会に提出した案には、人事院や総務省から組織や定員についての権限を内閣官房に移そうという、甘利大臣が谷人事院総裁と大バトルを繰り広げた案件がすっぽりと抜け落ちていたのである。もと大蔵次官の斉藤次郎が日本郵政の社長に、元財務官僚の坂篤郎が副社長に就任したのも、この時期である。
 2010年6月、国家公務員の「退職管理基本方針」が発表され、鳩山の後を受けた菅内閣が、この基本方針を閣議決定した。
 この基本方針は、安倍政権下で成立した、天下りを全面的に禁じる「改正国家公務員法」に対して、そこで禁じられているのは定年前の勧奨退職による天下りであって、中高年の現職公務員が、公務員の身分のままで出向したり派遣されるのは、これに当たらないとしたのである。しかし、天下りはOBだろうが現職だろうが、天下り先との不透明な癒着を生むから禁止されたのであり、むしろ現職のままであれば、より便宜を図りやすいということになる。現職であれば、給与も官庁にいたときの額を保障しなければならない。高齢のキャリア官僚ならば、受け入れる側としては千数百万円の年収を用意することになる。よほどおいしい仕事を持ってきてもらわないと、採算が合わないということになろう。
 日本の国の根幹を正す「公務員改革」は、民主党によって骨抜きにされたのである。
 

 冒頭に書いたように、民主党は、赤字公債特例法案を成立させないと、国政に重大な影響が出ると言っている。しかし、日本の改革を阻害し後退させて、無駄金を流出させ続けているのは、民主党自身なのだ。
 天下り、渡り、無駄な独立法人…などなど、政府の無駄は今まで再三に渡り指摘されてきた。政権を取る前の民主党は、その無駄をなくせば16兆円の資金が浮いて、子ども手当を初めとする民主党マニフェストの実現の資金にすると意気込んでいたはずだ。
 その民主党の最大の矛盾がマニフェストにあるというのも、自家撞着である。民主党のマニフェストでは、公務員の天下りを全面的に禁止し、定年まで働けるようにするといっている。当然、職員数は増え、人件費も増大する。ところがマニフェストは一方で、総人権費の2割削減も謳っている。この両方を実現するためには、公務員給与の大幅カットしかない。民主党の有力支持母体が官公庁の労働組合であることを考えれば、これも実現不可能な詐欺公約である。
 むしろ自民党時代よりも後退した公務員改革…、行政の無駄を省けと口では言いながら何一つとして実現できず、天下りを復活させている民主党が、復興費用を人質にとって、「成立させないと国民生活に重大な影響が出る」なんて言う資格があるのか。
 厚顔無恥という言葉は、自分たちの既得権益は後生大事に守りながら、いずれ近々、増税を口にするであろう民主党の面々のためにあるのだろう。


 日本経済・震災復興…さらには国民生活に重大な影響が出るのは、菅政権・民主党政権が続くことが一番の原因であることを、理解していないなぁ!



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