【日本は今 224】 増税という愚策・無策         2011.12.31
   
− 日本の財政を健全化するには、景気の浮揚 −


 民主党の税制調査会は29日深夜、社会保障と税の一体改革に伴う消費税率の引き上げについて、「2014年4月に8%、2015年10月に10%とする」ことで決着した。
 ただ、検討段階で民主党からは9名の離党者が出ている。採決時には自民党や公明党は反対するだろうし、更なる離党者が出ることも考えられるから、引き上げ法案が可決されるかどうかは極めて難しいと言わねばなるまい。

 

 この消費税引き上げについては、テレビ・新聞も、経済関係の有識者といわれる御仁たちも、おおむね賛成・容認の論調である。ギリシャ化を回避し、壊滅的な財政を健全化するためには、避けて通れない道だというのである。
 しかし、ホントにそうか。何としても税収を上げたい財務省のシナリオに乗っかって、国民を欺き、一時的な回避策を弄しているだけなのではないか。
 そもそも、赤字を生じさせた根本にメスを入れなくては、諸費税を上げても近いまたすぐに赤字を生じ、再度の税率アップを言わねばならなくなる。5%アップすれば健全財政が実現し、黒字予算が組めるという青写真を作成して国民に示すのが先だと思うのだが。

 公務員と議員の定数削減と給与の引き下げは、欠かせない必須条件だろう。国民全体の収入が低下し、生活が困窮しているのに、公務員や議員だけが昨年よりも多いボーナスを受け取っていて、消費税のアップを言い出すなど、国民感情をないがしろにした話である。
 野田首相は、それを承知で、情緒的な議論には目をつむって、子どもたちの世代へツケを回さないためにも、社会保障との一体化を前提とした消費税率アップを、不退転の決意で成し遂げると宣言している。「赤字予算を、俺が止めなきゃ誰が止める」」といった勢いで、だから消費税をアップするんだというのだが、財務省のシナリオに乗せられて走っているという胡散臭さを感じるのは僕だけだろうか。
 増税には、無駄遣いの削減…すなわち議員と公務員の研究・定数削減が必要条件であることは先に記したことだが、もうひとつ、景気浮揚の具体策を提示する必要がある。「景気は良くなるんです。増税分以上に収益を挙げることができるんです」という、説得力のある青写真を提示しなければ、この国に長年にわたって蔓延する閉塞感は払拭されない。


 増税が国家財政を救済する切り札だというのは、財務省的感覚であって、歴史的に見て正しくない。江戸時代の三大改革で景気の上昇につながったものはなく、武士の借金を棒引きにしたり、富を蓄えた町人の奢侈を戒めたりしたが、財政改革に対しては全て失敗であった。
 転じて、行政改革・規制緩和こそが新しい時代を開く道であることを証明しているのは、織田信長の関所通行税の廃止・規制を撤廃した楽市楽座の制である。巨大利権集団であった比叡山を初めとする宗教団体や金座・銀座・油座などの同業者組合といった古い時代の特権を取っ払い、新しい経済体制を構築していったことこそが、信長に天下を取らせた原動力であった。
 野田首相が財政健全化を目指すのならば、景気の浮揚こそが不可欠で、そのためにはこの国の旧体制を打破し改める必要があることに目覚めて欲しい。橋本内閣で消費税が2%引き上げられたことが失速の引き金となり、その後の20年間、日本の経済成長率はほぼ横ばいで、原因は全て政治の無策・愚作である。成長目覚しいアジア諸国は別にしても、欧米諸国ですらこの20年でほぼ2倍の経済成長を達成しているが、日本はせいぜい1.2倍でしかない。もし仮に西欧並みの経済成長が達成されていれば、現在の経済規模は2倍となっていて税収も40〜50兆円は増えているのだから、借金を重ねることもなく、今頃は世界に冠たる健全財政の国であったことだろう。政治家や官僚が愚かだと取り返しのつかない事態を招いてしまう。
 今更愚痴っても仕方のないことだが、日本の1000兆円に膨れ上がった財政再建には、消費税のアップなど焼け石に水である。税率を1%上げて歳入は2兆5千億円増収になると試算されている。実際には景気の冷え込みがあるからもっと少なくなるだろうが、仮に2兆5千億円としても現在の歳入欠陥は毎年約40〜50兆円である。消費税のアップで解決を図ろうとするならば20%以上の高税率をかけねばならないことになり、日本経済を瓦解せしめることになる。財政の健全化には、10兆円20兆円の規模で無駄を省くことと、産業の活性化を図り税収の増加を図ることが、何としても不可欠であることが理解されよう。
 しかし、電力会社体制の改変すらできない野田首相に、時代の変革者を期待することは無理なのだろう。ならば、消費税のアップはあきらめて、民主党政権の幕引きを準備することだ。それが、野田首相が国のために果たすことのできる、最善の策であろう。


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