【82】日本人3人のイラク人質事件について          4/15  【政治82】


 イラクで8日、日本人3人が武装グループによって拉致された。カタールの衛星テレビアルジャジーラは同日、人質3人の様子を映したビデオテープを放映、「3日以内に自衛隊がイラクから撤退しなければ、3人を殺害する」とのグループの要求を伝えた。グループは「戦士旅団」と名乗っているとされるが、実態や背後関係は何も明らかにされていない。
 人質となったのは、フォトジャーナリスト郡山総一郎さん(32)、フリーライター今井紀明さん(18)、ボランティア高遠菜穂子さんで、3人はヨルダンのアンマンからイラクの首都バグダッドに陸路移動中に拉致されたとみられる。
 政府は、対策本部を設置して関係閣僚は東京都内で待機、逢沢一郎副外務大臣を現地に派遣し、救出に向けての懸命の努力を続けている。
 3人の苦難と家族の心配は、たいへんなものであろうと察するに余りある。一時、24時間以内の解放が伝えられたものの、今日現在まだ実現に至ってはいない。一刻も早い救出・身柄の確保が望まれるが、ただ、3人の救出が、武装グループの要求する自衛隊の撤退と同次元で論じられるのは、正しい論議とはいえまい。
 イラクに遠征している自衛隊は、イラクの復興とイラクの人々の生活支援という重い使命を帯びて赴いている。その役割を放棄して、3人の人質の安全と交換に引き上げて来いというのは、あまりに情緒に流された議論であるといわねばならない。
 政府は再三にわたって、イラクへの渡航自粛を呼びかけ、危険について繰り返し警告してきた。民間人を含めて、たくさんの外国人が拘束され殺害されていることを知らないわけではあるまい。
 テログループに破壊された石油パイプラインの復旧などに要請され、業務命令を受けてイラク入りした人たちもいるが、これらの人たちの安全は、派遣を要請した立場のものは何としても守り通さねばならない。拉致されたり殺害されたりしたら、責任を問われることだろうし、補償も謝罪もしなければならない。
 しかし、今回拉致された3人は危険を承知で、自ら望んでイラクに入ったのである。それでも、解放に向けてできる限りの努力を尽くすことが、国民の生命財産を守る政府の責務なのだろうし、今回の小泉首相をはじめとする関係者の対応は、的確で納得のいくものであった。それに対して、家族の姿勢は、肉親を思う心情は理解できるところであるけれども、あまりに自分たちの主張だけを繰り返したものではなかったか。
 家族としては、「3人は、危険を承知でイラクに赴いたものであります。今回のような事態も十分に覚悟していたものと思いますが、イラクの人々のために微力を尽くしたいという思いのもと、いても立ってもいられぬ気持ちで出かけたものであります。どうか救出に対して、はなはだ勝手なお願いでありますが、お力をお貸しいただきたくお願いしたい」というのが、あるべき姿ではないか。
 「今この時にも、本人たちは苦しんでいるのです」と救出要求は当然の権利のように言い、「自衛隊を帰還させてほしい」と言うにいたっては、動転する心情を慮っても、不快感を覚えたのは私だけだろうか。自己主張だけを繰り返し、自分の置かれた状況とか周囲に対して配慮のできない、昨今の日本人の情けなさが凝縮しているような気がした。

 ここまで書いてきたとき、3人の解放のニュースが飛び込んだ。イタリア人人質が殺害されたとの報もあり、万一の場合を心配したが、解放されたと聞き安堵の胸を撫で下ろしている。
 郡山総一郎さんの父君が、「帰ってきたら、きちんと皆様に謝らせます」と語っていた言葉を聞いて、少し救われた気持ちになった。


さらに、イラク問題について一言。
 ●アメリカの占領統治をやめろという主張があるが、今、アメリカが撤退して、イラクの秩序が保たれるわけがない。アルカイダなどに代表される無法武装勢力に蹂躙され、イラクは第2のアフガニスタンとなることは目に見えている。
 アメリカではなく国連主導で復興をという声もあるが、実現不可能な絵空事である。国連の出張所が爆破されて、数人が死亡、責任者の一等書記官が負傷したとき、国連は「人命の安全が確保できない」と、即座に現地事務所をたたんで引き上げてしまった。国連は、命を的にして復興事業に取り組むことはできないのである。
 銃弾の飛び交う中をかいくぐれるのは、国益と名誉を賭けて、命令のもと戦うことのできる軍隊だけであって、寄せ集めの国連軍が編成されたとしても、500人にも及ぶ戦死者を出してもなお維持できるなどと考えるのは、よほどの能天気である。
 現時点で、イラクの復興を支援できるのは、権益を賭けてイラク統治の主導権を保持しようとするアメリカだけである。誇り高きイラクの人々の半数以上は、アメリカ軍の助けを借りて国を立て直すことを歓迎していることも、先般の世論調査の結果に見られる通り事実である。

 ●イスラムの宗教指導者を、聖職者として崇めるのは間違いであることに気づかねばならない。彼らは、麻薬のごとき宗教を手段にして、迷える人々をそそのかし、誤った道へと導く戦争指導者である。彼らは宗教の名のもとに、今まで多くの無知で純粋な人々を戦いに駆り立て、自爆テロを神の道にかなうものと子供たちをも含めて洗脳し、幾多の一般市民を巻き込んで殺戮を繰り返してきている。
 イラクの反米指導者サドル師とは、フセインの残党を集め、アメリカ統治に不満を抱く旧体制の残党を糾合した、武装グループの親玉に他ならない。彼の言動のどこに、宗教の教義から発する真理や、社会の浄化への営みがあるというのか。
 中世ヨーロッパの例を引くまでもなく、宗教は空気みたいなものであるときは人畜無害であるけれども、いったん正義をかざすと、狂気へと人々を駆り立てる。イスラエル軍に殺害された、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの精神的指導者ヤシン師を含めて、彼らはまぎれもなく武装テログループの親玉である。


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