◆ 小泉首相、北朝鮮 再訪について           2004/5/22  【政治85】


 小泉首相は平成14年9月以来、1年8ヶ月ぶりに北朝鮮を訪問して、金正日総書記と平壌市郊外の大同江迎賓館で約1時間半会談し、拉致被害者家族8人のうち、池村・蓮池さんの子どもたち5人を伴って帰国した。5人は22日夜、政府専用機予備機で羽田空港に到着、1年7カ月ぶりに両親と再会を果たした。
 曽我ひとみさんの夫で元米兵のジェンキンスさんは、米軍の脱走兵のため、来日した場合に米国へ身柄を移送され、軍法会議にかけられる懸念があって同行に難色を示し、娘2人とともに早期に北京で曽我さんと再会することになった。
 金総書記は安否不明者10人の本格的な再調査の早期実施を約束、調査には日本側も参加する。
 小泉首相は首脳会談で、拉致被害者家族の帰国など一定の進展が図られたとして、人道的見地から国際機関を通じ、25万トンの食糧支援、1千万ドル相当の医薬品支援を今後1〜2カ月をめどに実施することを表明し、国交正常化交渉再開に向け事務当局間で協議することで一致した。

 この訪朝の成果についてはさまざまな見方があって、評価も大きく分かれているが、行き詰った両国の関係に道を開いたことは、大きな行動と見なくてはなるまい。「総理大臣が行って、この結果では物足りない」という向きもあるが、今までの歴代総理や打開に動くべき立場にあった者が、何もせずに放置してきた状態を切り開いたことは、前進であることは間違いない。
 安否不明の10名の消息について、調査委員会の設置を約束しただけで、何らの具体的な材料も持ち帰れなかったことを、子どもの使いと切り捨てた拉致家族もいたが、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」と言い続けてきたことを考えてみれば、この問題が両国の間に厳然と存在することを確認させたことは、意味深いことである。今後の正常化交渉での重要な課題として、俎上に乗ることは約束されたということである。
 家族の心痛は察するに余りあるし、拉致被害者の救出が全てであると言う気持ちも解らないことはないが、国家というものは個人にとって冷厳なものである。「人の命は地球より重い」などというのは、国家によって平和と安全が守られている国の中だけで通用することであって、国際社会では「地球のほうが重い」というのが常識であることを前提として認めるべきであろう。ましてや、相手は自国民に対しても個人の尊厳とか人権とかには全く配慮をしない前近代的な国なのだから、正義とか道義とか国際ルールを説いても、何の解決も得られない。平沼赳夫(前通産相)拉致議連会長が、「私が行っても、これぐらいの成果は得られる」と批判したが、平沼氏では何の成果も得られまい。会ってももらえない。
 米25万トンは、流通価格で約500億円だとか。医療支援1千万ドルは、10億円余。今回の結果に対して高すぎる対価だという指摘もあるが、今回の訪朝の土産として何かを用意する必要もあったろうし、金額としても国交正常化の過程で検討される対朝保証金は、何桁も違う額を考えねばならないことだろう。拉致問題がなければ国際協調の中で行わねばならない援助であったのだから、5名の帰国の代償とことさら言う必要もないだろう。
 「ピョンヤン宣言を履行する限り、経済的制裁は行わない」と言及したことも、ピョンヤン宣言に反すれば即実行するということなのだから、抑止力としての効果を期待できるだろう。ピョンヤン宣言の履行とは、即ち北朝鮮を民主的近代国家へと生まれ変わらせることなのだ。
 核問題の解決が進展していないという指摘については、噴飯ものである。訪問前に、「核放棄を約束させたら、小泉首相は今年のノーベル平和賞」と言っていたコメンテーターがいた。ホントにニュースのコメントで飯を食っているのかと疑ってしまった。ピョンヤン宣言に謳った項目だから、小泉首相が核に言及することは当然としても、それに対して金総書記が、「わかりました。核を放棄しましょう…」などとは、未確認拉致被害者400人を出してくる以上に、言うことはないだろう。

 このように、小泉再訪朝は確実にひとつの成果を挙げた。総理が出かけた割には…という評価には、日本の国がその程度なのだということなのだろう。時期として、もう少し事前交渉に時間をかけ、準備をしてから出かけたほうが良かったのかもしれない。参議院選をにらんだこの時期を選んだことは、ちょっと魂胆が見透かされるところだが、慎重にといって何もせずに来た今までの轍を踏まず、遅きに失するよりは何倍も好ましい。
 何よりも、得体の知れない国へ、とにかく出かけようという決意を評価するべきだろう。一国の総理は軽々に動くべきではないという議論は、この国の改革を阻害し、既得権益を温存させて、社会を歪んだものにしている元凶であることに気づくべきである。



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