◆ 「年金改革関連法」、与党の強行採決で可決・成立     2004/6/6 【政治86】


     − ドタバタ迷走成立劇は、民主党再生の鍵になりうるか −


 福田官房長官・菅民主党代表の辞任を引き起こし、迷走した「年金改革関連法」は、5日午前、参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決・成立した。民主党など野党が採決阻止に向け、牛歩戦術や長時間演説など激しい抵抗を繰り返したため、本会議は4日夜に休憩に入り、5日未明に再開、徹夜の攻防が続いた。
 倉田参院議長の不信任案審議に伴い、議長席に着いた民主党出身の本岡昭次副議長が「散会」を宣言して、野党議員は一斉に議場を後にしたが、再入場した倉田議長は「散会は無効」として、民主、社民両党議員は欠席、共産党議員は出席して反対する中、自民・公明党の賛成で可決・成立した。4日午後1時に始まった参院本会議は断続的に開会し、可決までに20時間以上を要した。


 成立した「改正 年金法」の内容は、国家100年の基本整備とは程遠い、劣悪にして誰をも納得させられないお粗末極まりないものである。こんな法案を上程する関連閣僚と、作成した厚生労働省の官僚や社会保険庁の職員は、無能を通り越して厚顔無恥というべきだろう。
 この法案の、最大の誤謬は、「保険料の上限18.5%、給付額は50%以上」であろう。もう今では、厚生労働省も「それは無理」と明言(?)するかも知れないが、5年前の99年に改正したときには「60%給付を約束します」と言っていたし、今改正では、衆議院を通過するまでは、「給付額は50%以上」と言ってきたのだ。
 何が誤謬であるかというと、
 (1) 成立した「改正年金法」では、下限と位置付けられた「給付水準50%以上」を確保できるのは、妻が40年間専業主婦というモデル世帯だけで、ほかのタイプでは全て50%を下回ること。
 (2) 厚労省は、「少子化」を理由に挙げて、「被扶養者が増えて、扶養する世代が減少するのだから、保険料を上げるのは当然」と主張するが、実は今後20年間、現行の給付を行うには保険料を上げなくても対応できるのである。
 (3) 年金改正には、根本的な改革が必要である。
  @イギリスの権威ある学術誌「フューチャー」によると、「2050年に日本の平均寿命
   は90歳を越えて、65歳以上の人口と労働階層人口は4対5になる」という。45年
   後のこの事態は、今回の改正年金法では対処できず、破綻は目に見えている。
    2050年に対応するためには、今回のような年金政策の失敗・厚労省の無能ぶりの
   糊塗・社会保険庁のデタラメ・不良債権化した年金積み立て隠し…を目的とした誤魔化
   しではない、根本改正が必要である。
  A年金一元化を根本に据えなくては、年金法の抱える問題は解決しない。特権的な議員年
   金、有利な公務員共済など、作る側に有利な体質を持つ年金法では、国民を納得させら
   れる内容になるわけがない。
  B年金運用にかかわる厚労省・社会保険庁の、今までの見直しと不正・不適当部分にかか
   わる関係者の処分、そして組織の改革を断行すべきであろう。グリーンピアや巨額な株
   投資損などに象徴されるデタラメ運用、飲食・慶弔・交際費など自分たちのための経費
   として使う倫理観の無さ…。年金法が国民の支持を得るためには、厚労省・社会保険庁
   そして財務省など、年金にかかわる省庁と職員の組織・意識の改革を行うことが先決で
   あろう。


 詳しい年金改正に対する考察は近日また行うとして、ここでは、今回の年金法改正は、ゴタゴタが続いて迷走した民主党の支持率回復に、絶好の材料となるであろうことを指摘しておきたい。
 この法案は、国民の71%が反対している、ごまかしバレバレのものである。こんな法案を無理矢理通した政府与党の驕りと焦りは、国民の信頼を裏切り、怒りを買っていることは確かである。
 この国民の怒りを政治的パワーに結集できないことが、現今の野党勢力の稚拙さであり、力のつかないところである。小沢一郎代表代行は、「長時間演説・牛歩戦術はわが党の断固とした反対の姿勢を示したもので、国民の支持を得て、来る参院選にプラスに働く」と語ったが、長時間演説や牛歩戦術だけで、民主党のパワーを信用するほど国民は甘くない。可決・成立と自民党にしてやられた脇の甘さをマイナスして、損得勘定はむしろ若干の赤字ではないか。
 国民は『(小沢氏の言う)断固とした反対の姿勢』は見せたもらった。この姿勢に説得力をつけて、参議院選に勝利する政治的パワーへと結びつけることができるかどうか。
 参院選は再来週24日に告示される。国民がNOと言い、産業界もマスコミも反対している年金改正…「負担増・給付減・制度維持不可能の改正年金法の強行採決」という絶好の好材料を戴いて、新生岡田民主党は、政権交代の引き金となる歴史的勝利を勝ち取ることができるだろうか。
 民主党は、頭でっかちで足腰が弱い、口は達者だけれども戦闘力がない、言うばかりでイザとなったらなすすべを知らない…と言われ続けてきた。筋金入りの戦後政治の生き残りである藤井幹事長を得て、国民に『改正年金法のまやかし、年金行政のデタラメ、将来の不透明さ』を解りやすく説明し、『明確な対案と将来像』を示して、政権担当のできる政党であることを証明する、絶好の機会であろう。
 新生岡田民主党の真価が問われる。



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