【10】「花のあと」 (藤沢周平 文春文庫 268p. \448)
(9.29)
全9編からなる時代物短編集である。藤沢周平のものは今までほとんど読んでいない。以前に池波正太郎を読んだときハマッてしまって、「剣客商売」のシリーズを初めとして新潮文庫の氏の作品にとりついて、半年間ほど他のものを読めなかったことがある。藤沢周平にハマってしまうのを恐れていたわけである。
「花のあと」には、弱い存在だけれどもしたたかに可愛く生きる江戸の女の姿が描かれている。全編に、市井の人のあたたかさとたくましさと、ほのかに漂うペーソスがある。そして、
『水面にかぶさるようにのびているたっぷりとした花に、傾いた日射しがさしかけている。その花を、水面にくだける反射光が裏側からも照らしているので、花は光の渦にもまれるように、まぶしく照りかがやいていた。』
といった描写の巧みさを見せられると、藤沢文学にハマり込まないように…というのが無理というものだろう。
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