【121】日本人が知らない「中国人の本性」  (黄 文雄、徳間文庫)  2006.05.30


 黄河文明の昔から、易姓革命思想(儒教の政治思想の基本的観念の一つ。天子は天命により天下を治めているのであるから、天子の家(姓)に不徳の者が出れば、天命によって王朝は交代するというもの)によって支配者の交代に正当性を与えてきた中国では、天下を取った新王朝が前王朝の歴史を、自分たちに都合の良いところを採り悪いところは抹殺して歴史を編纂してきた(正史史観)。
 5000年来、天下は簒奪したもののものだという歴史を繰り返してきた中国では、「騙したものが勝ちで、騙されたものが悪い」というDNAが、人々の体の中に組み込まれている。だから、中国社会には詐欺とニセモノが罪悪感なく横行し、汚職や不正体質は直らない。役人による汚職は中国の伝統文化であり、賄賂は朝貢であって、賄賂も貰えないものは大物とは認められないというわけだ。収賄してこそ、一人前なのである。
 共産党の一党独裁支配の中国では、法律や倫理はあってないもので、党幹部や委員の判断ひとつで世の中が動く。独立した司法と自由な言論機関がないから、権力にかかわるものは中央から地方の党役員や行政官までが悪事のやり放題である。だから、中国で商売するには、賄賂は必要経費なのである。
 10億人の人口の0.1%、131万人の共産党幹部の私財は3兆7千億元…、全中国の財富の70%を所有し、8億数千万人の農民の多くは年収わずか500元(7500円)という貧困に喘いでいる。
 「世界の工場」といわれる現代中国は、タダのような人民の労働を搾取することによって成り立っている。また、世界は中国10億人の市場を魅力的だというが、消費物を購入することのできる層は、せいぜい2億人いるかどうかである。
 「万民平等」が不可能ならば不平等を是認するしかない。中国は「先富起来」(金持ちになれるものから先に富む)を容認し、共産主義の基本理念を捨て去った。相互扶助の精神は失われ、国を挙げて中国民の才能である利益の追求に奔走しているのが現状である。
 日本人は自らに「アジア諸国への優越感」や「中韓への差別意識」を抱いていることを自省し、そこから「過去にこれら諸国に迷惑をかけた」という贖罪意識を持っているところがあるが、中華思想の原点である中国人の差別思想はその比ではない。古来から周辺諸国は「東夷・西戎・北胡・南蛮」と呼んで全て野蛮国であり、今も国内の少数民族は禽獣としか思っていなくて、平気で弾圧・殺戮する。
 現代の中国国内でも「10大階級」の分類があり、「@国家・党幹部、A国家企業幹部、B私企業経営者、C技術取得者、D事務職労働者、E商店経営者、F商業労働者、G工員労働者、H無資格労働者、I都市農村流民」のうち、FGHIの下層階級に属するものは81.1%の多くである。
 いびつな社会構造を維持するために、中国では極端な情報操作を行っている。中国共産党の中央機関誌「人民日報」でさえ、平気でウソを書く。「同誌の記述で真実なのは『人民日報』というタイトルだけ。発行年月日さえウソがある」といわれ、真実など公開したら、たちまち国家は崩壊することだろう。


 中国が行ってきた自力更生の試みは、全て失敗してきた。洋務運動・戊戌維新・辛亥革命・五四運動・社会主義革命・文化大革命…といった一連の運動は、全て中国伝統文化や中華の価値観を完全否定する変革運動であった。
 中国が、中華思想と排他的体質を捨て去って、世界への窓を開放しない限り、この中国の発展はないだろう。このまま行けば、虐げられ見捨てられ続けてきた中国人民の不満が爆発するのは、それほど遠い将来ではない。
 私見であることを断って、インターネットや携帯電話が浸透し始めている中国の地方都市の状況と、徐々にではあるが市場社会に組み込まれつつある農村の変貌ぶりをみれば、10年から…遅くとも20年以内には、中国大爆発といわれる、国家体制の大変革が行われることだろう。それが、歴史が語る、時代の必然というものである。



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