【123】 レックス・ムンディ ― ダビンチ・コードを読み解く鍵 ―  2006.06.24
                          (荒俣 宏、集英社、475ページ)


 「ダビンチ・コード」、本を読む時間がないままに映画を見た。
 映画は、深夜のルーブル美術館…。凶器を手に持った男から逃れる一人の老人…ソニエール館長の足音から始まる。
 あらすじ…『 ルーブル美術館のソニエール館長が異様な死体で発見された。死体はグランド・ギャラリーに、ダ・ヴィンチの最も有名な素描<ウィトルウィウス的人体図>を模した形で横たわっていた。殺害当夜、館長と会う約束をしていたハーヴァード大学教授ラングドン(トム・ハンクス)は、警察より捜査協力を求められる。現場に駆けつけた館長の孫娘で暗号解読官であるソフィー(オトレィ・トトウ)は、一目で祖父が自分にしか分からない暗号を残していることに気付く。
 そのメッセージには、ラングドンの名前が含まれていた。彼は真っ先に疑われるが、彼が犯人ではないと確信するソフィーの機知により警察の手を逃れ、二人は館長の残した暗号の解読に取りかかる。フィボナッチ数列、黄金比、アナグラム…数々の象徴の群れに紛れたメッセージを、追っ手を振り払いながら解き進む二人は、新たな協力者を得る。宗教史学者にして爵位を持つ、イギリス人のティービングである。
 ティービング邸で暗号解読の末、彼らが辿り着いたのは、ダ・ヴィンチが英知の限りを尽くしてメッセージを描き込んだ<最後の晩餐>だった。そしてついに、幾世紀にも絵の中に秘され続けてきた驚愕の事実が、全貌を現わした! 』…と、ここまでは紹介サイトにも記載されている。


 この先は、これから映画を見ようとしている人は、読まないでいただきたい(笑)とお断りして、僕の解釈による映画の説明を進めよう。
 「 キリスト教的には、ゴルゴダの丘で磔刑に処せられたのち、7日後に復活したイエス・キリストは、マグダナのマリアなる娼婦と結婚し、子どもをなしたという伝説がある。この「ダビンチ・コード」はその伝説をもとに、聖地での迫害を逃れてフランスの片田舎に逃れたマリアが、そこで子どもを生み、ロリンス礼拝堂に葬られたという筋書きを組み立てる。
 その遺骸と子孫を守るために、シオン修道会、テンプル騎士団などが組織され、その総長がレオナルド・ダ・ビンチやアイザック・ニュートンであった。冒頭にルーブルで殺害されたソニエール館長は、現在の総長であり、その孫娘として育てられたソフィーこそが、キリストの血を受けた末裔であった。
 ソニエール館長を殺害した相手は、キリストの子孫の存在を許そうとしない、バチカン法王庁の中の秘密結社『オプス・デイ』の手のものであった。『聖杯』は、キリスト教ではゴルゴダの丘で磔刑に処せられたイエス・キリストの遺体から流れ出た血を受けた盃をいうが、この「ダビンチ・コード」ではマグダナのマリアの遺骸こそが聖杯であるとし、キリストの子孫を絶やそうとするものたちは、ソフィーの命とともにマリアの遺骸をも抹殺しようとして、ソフィーたちと秘密結社『オプス・デイ』との暗闘が繰り広げられていく。
 やがて、『オプス・デイ』は壊滅し、ソフィーたちはロリンス礼拝堂の地下でバラの花瓶が置かれた棺を発見する。
 事件を解決したラングドン教授はホテルへ戻るが、暗号に込められた一節に思い当たり、深夜のルーブルに向かう。ガラスのピラミッドの下には、マリアの石棺が安置されていた。」
 と、映画はここで終わる。
 このラストシーンを見た僕は、「ダビンチ・コード」の著者ダン・ブラウンは、「ルーブルの地下にあったのが、本当のマグダナのマリアの棺である」といっているのか…?と疑問に思った。「これは、本を読むしかない」と思って、県立図書館へ出かけたのである。


 しかし、図書館の「ダビンチ・コード」は、全巻貸し出し中。予約73人待ちという盛況振りであった。そこで、関連の本をと探したところ、「ダビンチ・コード」の『あとがき』を書いたという、作家にして翻訳家、博物学研究家にして神秘・幻想学の権威、まさに博覧強記の怪人…という紹介もあり、最近テレビでも時々見かける小太りのおじさん荒俣 宏の著書「レックス・ムンディ」なる本に巡り会った。
 どんな本かというと、『1996年5月、考古学者であり、著名なレイハンターである青山譲が、8年ぶりに日本に帰国した。「N43―シオンの使徒教団」と称する宗教団体に呼ばれたのだ。
 少年の姿をした教祖アスモデと聖母マスミの依頼で、青山はフランスのレンヌ・ル・シャトーなる神代の土地の遺物をふたたび発掘することになる。レンヌに向かった青山は、発掘をつづけている老医師、アンリ・ファタンと再会する。二人はふたたび「遺物」を発掘することに成功するが、「遺物」はフランス警察と、青山の宿敵の井村秀夫によって奪われてしまう。
 「遺物」の正体とは何か…。
 

 ローマ法王庁の記録に、1800年代の後半、フランス南端の片田舎にあるレンヌ・ル・シャトー教会に、法外な資金を使って教会を改築し、贅沢三昧の暮らしをする司教の話が残っている。33歳のハンサムで教養ある司教の名はベランジェ・ソニエール。1886年ごろ、4枚の羊皮紙を発見したソニエールは、カルカソンヌに旅立ち、そこを治める司教代理に会った。その旅のあと、彼は一躍大金持ちになる。
 その理由は、ソニエール自身黙して語らずに没したので、今もって解らない。一説には、キリスト教にかかわる重大な秘密を知った彼に、法王庁は莫大な金銭を与えて秘密を守ったのだとも言われているし、また、この地に埋められていた王侯貴族の財産を見つけたのだとも言われている(今はパリから飛行機・電車・バスと乗り継ぎ7時間ほどかけて訪れる南フランスの田舎だが、かつては西ゴート王国の都があったのだから…)。しかし、その真相が謎に包まれているところに、荒俣 宏氏の推理が駆け巡り、「レックス・ムンディ」のストーリーが展開される。


 物語の先を急ごう。 レンヌ・ル・シャトーに眠るという財宝、聖杯伝説、シバの女王…などの胸躍る秘話や、クレタ島・ナザレ・キプロス・メッカ…など北緯43度ラインの奇跡(「N43―シオンの使徒教団」の名前の由来)、ストーンヘッジ・カルナック・インカ帝国のサクサイワマンの城壁・コスタリカの石球・大和明日香の石舞台など巨大遺跡の謎解きをしながら、青山 譲はレンヌ・ル・シャトーの地下で、イエスキリストの遺骸を発見する。しかし、たどり着いたイエスの遺体は、恐るべき繁殖力と感染力を持つ未知のウイルスに侵されていた。
 ソニエールが財宝を掘り当てたという噂を聞いた人々は、手に々にシャベルやツルハシ、あるものはダイナマイトを持って、1900年初めからレンヌ・ル・シャトーへと群がった。そして100年…、世界の病院で 未知のウイルスによる奇病が見つかっている。 』


 今も、南仏の片田舎「レンヌ・ル・シャトー」へは、飛行機、鉄道、バスに乗り継いで、年間2万人の参拝者が訪れるという。訪れた人の紀行を読むと、終点のバスの停留所から登りの坂道を1時間30分ほど歩いたとあったから、できれば車で行くのがよいかも知れない。その人も、「ヒッチハイクでも何でも、とにかく車が欲しい。歩いていると、荷物を放って行こうか何度も思った」と書いている。
 ちなみに、「レックス・ムンディ」とは「世界の王」の意味である。


PS 「ダビンチ・コード」では、その聖杯…マグダナのマリアの遺骸は、ルーブルの地下に
  眠っていると描いていることも判って、トム・ハンクスが最後の場面でみせた行動の意味
  も解った。
  キリスト教について語れ…と言われたら、2時間は喋れるほどの材料が出来たぞ(笑)。



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