● 面白かった「アラビアン・ナイト(千一夜物語)」  
      (12.31)
   − 物語り文化伝承の大切さ −        NHK海外ドラマ


 風邪を引いて寝込んでしまい、ここ数日はゴロゴロしていた。年賀状の作成も遅れてしまって、元旦に着かなかったらゴメンナサイ。
 NHKの海外ドラマ「アラビアン・ナイト」をビデオにとって、布団の中から見た。物語は、妃に裏切られたことから女性不信に陥ったシャーリヤル王が、一夜をともにした女性を翌朝には命を絶ってしまうため、聡明な大臣の娘シャラザードは自ら進んで王のしとねにおもむき、王を飽きさせない物語を毎夜語り継ぐ。
 ドラマはおなじみの「アリババと40人の盗賊」や「アラジンの魔法のランプ」などが登場し、テレビの画面も愉快な場面が次々に繰り広げられ、昨年放映された「クレオパトラ」よりも面白く見られた。
 さまざまな物語を聞いた王は、話の中に繰り広げられる人々の姿や教訓に心を動かされ、ついには人を信じる心を取り戻すという物語だが、このドラマを見終わっていま、物語り文化の大切さを感じている。
 昨今は、小中学校で国語の時間数が削らされたり、学習する漢字の数も減少する一方である。世の中の活字離れや、核家族化による口承伝承の断絶が懸念されているが、昔話や民話、戦争中や祖父母の若い頃の話は、勧善懲悪や世の中のルールを教え、子ども達の心を勇気付けたり優しさを養ったりしてきた。
 語り継がれてきたお話をたくさん聞き知っているということは、心の中に入れ物をたくさん持っているということではないだろうか。いろいろな場面に応じてその場にふさわしい袋を取り出すことができるし、さまざまな人のそのときの気持ちに合わせた中味を取り出すことができる。
 今年2001年を迎えた当初、物質文明の発達にどこか取り残された感のあった精神文化に目を向けようとして、21世紀は「心の時代」といわれた。いま、今年が終わろうとしているとき、人間生活の原点のひとつが物語り文化にあったことに、改めて気づかされたことも何かの啓示であったのだろうか。
 アラビアンナイトの時代から1000年ほどの年月が流れているが、…この物語は10世紀頃から13世紀頃の間に中核が整えられたとされている…、この間、積み重ねられた歳月の重さに比して、人々は決してより幸せになってきたとは言えまい。そういえば今年、世界の注目を集めたアフガニスタンもこの地であるが、イギリスの東洋学者でコーランの英訳者E・H・パーマー(〜1882)はアラブの人々の特性を、「勇敢で義侠心に厚く、保護を求める者をかばう。事の理非曲直を問わず同族のものを助け、命を賭けて守る」と書いているのは、今の中東事情を説明するに十分な記述である。
 今年も、多発テロに象徴されるように、世界には激動の歴史が刻まれていく。アメリカには悲しみや憎しみに沈み、中東紛争の行方も見ない中、ヨーロッバはユーロ切り替えが断行され、南米パキスタンでは着任早々の暫定大統領が辞任した。物語の中に描かれる人の心の不可解さではないけれども、人の幸せとはいかにも難しい。しかしそれでも、来るべき新しい年が、人々にとって幸せな年でありますようにと祈りつつ…。




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