車に本を持ち込んで、渋滞の時に読んでいる。区切りがつかないのに、前の車が動き出したりすると、もっとしっかり渋滞せんかィと思う。

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◆ 蹴りたい背中   ◆ 蛇にピアス        【読書86・87】 2.24


  ● こんなんで ええのか、芥川賞! 


 芥川賞は、『優れた文学性を持ち、かつ、芸術的な価値のある作品』に与えられるものだと思っていた。見るからにアホな高校生の日常の片隅をつつき出したような「蹴りたい背中」はちょっとかわった女子高校生の校内文集…日記帳かな…みたいなものだ。「蛇にピアス」は、2〜3ページを読んだところで、肉体的な無理をこらえなければならなかった。後日、女性の友人に、「麻酔もせずに、舌に穴を開けるんだって。ジンとした痺れるような痛み…程度のと書いているんだけれど、僕なんか気絶する」と言ったら、「女の子がオシャレするのに、痛いなんて言ってられないわ」と承った。
 文学的価値に芸術性を添えた作品とは、とても言えまい。結果から見て、不況が続く出版界が、話題を求めた選考というところが適当な落ち着き場所といえば、選者の諸氏に失礼だろうか。しかし、選考の辞を拝すると、積極的に評価し推薦する意見は乏しく、「…伸び行く力を感じる。…これもまた一種の純愛なのだろう。…蹴りたかった背中を思い出す読者も多いことだろう。…不可解な文章、幼さばかりが目立つ。…作者の文学は作者の成長とともに大きくなっていくだろう」などと、苦渋の推薦の足跡がうかがわれる。石原慎太郎のように、受賞の2作には全く触れない選評もあった。
 芥川賞を受賞した作家はなかなか活躍しないという傾向があるようだが、最近の芥川賞受賞作をあげろといわれると難しい。芥川賞の受賞作品に、魅力や面白味がないのだ。数年前の平野啓一郎「日蝕」は興味を持って読んだが、その前後の作品は読み切ったものも少ない。その点では、今回の受賞作はとにかく多くの人々が読まされたのだから、選考の意味は全うされたということか。
 近頃の小説には、場面の設定にも、展開の文章力にも、読むに耐える厚みがない。厚みとは、世の中や人間を見る眼力(こういうと今回の若い2人を狙い撃ちにしているようだが、作者として描こうとする世界をどう見つめるかをいうわけで、年齢の多寡には関係がない)と日本語の素養であろう。選者の一人は、「少4から不登校でカラオケボックスびたり、自傷癖・高校で同棲・パチンコ通い、家出・SEX、刺青」の作者を、『人生の元手がかかっている』と評しているが、さらに「スプリットタン、マッド、パンクなDesire、00G・4G・12G、浣腸・おもちゃ・スパンキング…」が元手をかけた人生とは思えない。
 根底に流れるべき、人生への信頼が希薄であることは、現代文学の責任ではないのかもしれない。戦後教育が、一貫して人生観を養うなどといったものに背を向けて行われてきたのだから、漢籍の素養とか古典の趣きなどとは無関係なところで、世の中と対峙する姿勢が出来上がったとしても不思議ではあるまい。
 とすれば、現在の文学の不毛は、戦後教育の荒廃の足跡なのだ。血肉の隅々まで蓄積された言葉が流れる珠玉の文学、一字一句をゆるがせにしない芥川龍之介の作品にも、いつも人の情けと暖かさを通して人間を見つめていた直木三十五の世界にも、これから先、もう私たちはめぐり合えないことになる。



【85】 王国への道     (遠藤 周作 著、新潮文庫)          5/27


 「アユタヤの暑夜には、魔物が潜む」…。 王位を簒奪しようとするオークヤ・カラホームの野望を打ち砕いて、孤高の皇女ヨタティープ王女と日本人町に一人生きる薄倖の娘ふきを守り、シャムに所領を拝して日本人が暮らしていける国をつくるために、オークヤ・セナピモック…山田長政は、この夜、日本人の軍に出動を命じた。
 「私と弟を救ってほしい」。王女の嘆願を受けて、摂政オークヤ・カラホームの屋敷に攻め入った長政は囲まれ、衝撃の言葉を耳にする。
 「貴下は、王女からこの私を倒せという頼みを受けたであろう。その王女のお言葉を信じたゆえ、貴下はこの屋敷に戻ってきたのであろう。日本人とはよくよく信じやすい者たちだな。だが、王女もまたこのアユタヤの暑夜の中で生きていくためには、人を罠にかけるお知恵をお持ちなのだ」。
 愕然とする長政に、部下の角兵衛の裏切りが追い討ちをかける。「貴下を裏切ったその手柄で、この男は今日から貴下に代って日本人兵の隊長に任じられる」と、摂政オークヤ・カラホームは冷たく笑う。
 味方の3分の2を失い、深い手傷を負いながら、死地を切り開き、日本人町へ逃れた長政は、精鋭の日本人兵と戦いに弱いシャムの兵を比べてみても、自分がこのまま敗れるとは考えられなかった。
 「俺は負けぬ、必ず盛り返す。ふき、酒をくれ」。ふきの無表情には嘘がないと思う。幸せ薄いゆえか、ほとんど感情を見せない彼女の顔は、あの摂政の偽りの微笑、ヨタティープ王女の偽りの涙にだまされた長政には、今は最も安心のできる顔に思えた。
 ふきはいつものように黙って杯に酒を注ぐ。… 今はひととき、何もかも忘れたい。ふきの乳房を手のひらの中に揉みながら、長政は杯を一気にあおった。
 おかしい、舌から…指先が痺れる。「ふき…俺は毒を…飲んだ」。ふきの口もとに、初めて…長政が見る初めての微笑が浮かんだ。「毒を…お前が」。


 この一編には、長政と同じ船で日本を出るペドロ岐部というキリシタン青年が登場し、長政が目指した日本人町という王国とともに、神の王国を目指す生き様を描いている。「沈黙」に示された個人とイエスとのかかわりから、この書は教会とか組織とかいった集団との問題に始点を広げていく、遠藤周作の精神史上の過渡期の作品と解説はいうが、私にはむしろ、アユタヤの暑気に秘められた権謀術数に翻弄され、か弱き女の涙を信じて欺かれる長政の男のもろさが、今の日本の国際社会での脆弱さに重なって哀れである。




【84】神武東征の謎


【83】古代史の真相


【80】日本改造計画    (小沢一郎、)


【82】Classic Golf Links
【81】The 500 world's greatest holes
【79】California golf
【78】Top 100courses you can play
【77】世界の名門ゴルフコース


【76】ぼくが読んだ面白い本・ダメな本  (立花 隆、文芸春秋社)


【75】王者のゴルフ


【74】女の人差し指   (向田邦子)


【73】アジアの雷鳴   ( 田口由紀子訳)


【72】太陽の王ラムセスD −アカシアの樹の下で−  (C.ジャック著)



【71】「告発! 検察の裏ガネ作り」(元大阪高検考案部長 三井 環著、光文社)
 −社会正義を守り、不正を糺すべき検察に誤りがあったとき、誰がそれを正すのか−
                                      (10.21)

 平成14年4月22日、各種マスコミに検察の裏金作りを暴露することを公表していた、元大阪高検公安部長 三井 環氏が逮捕された。逮捕状に記載された、氏の罪状の軽微であることとともに、検察告発の主張を何も言わさないままに、検察当局が当事者の三井氏を逮捕してしまったのは、「口封じ」以外の何者でもないと思った。
 逮捕以来、氏の動向と検察当局の対応を注意してみてきたのだが、保釈されて裁判を係争中の氏が、告発すべき内容と逮捕劇の一部始終を「告発!検察の裏ガネ作り」と題する本にまとめた。氏の裁判の行方を見守るとともに、この本の内容を検証してみよう。


三井氏の告発 −検察の裏金 調査活動費−

 三井 環氏は、この本の中で、実名を出して、検察庁の年間5億円の調査活動費(以下、調活費)のほとんどが、検察首脳の私的な飲食費に使われていたと告発した。自らの名前はもちろんであるが、調活費を私費に濫用したとする検察首脳も実名で挙げ、その金額も具体的に土肥孝治元検事総長は平成5〜10年度中に1億1590万9000円、逢坂貞夫元大阪高検検事長は平成7〜10年度中に4161万円、荒川洋二元大阪高検検事長は平成5〜9年度中に4589万8000円など、数字を挙げて追求している。昭和58年以降の累計は65億円にのぼり、法務・検察当局はこれを認めて国民に謝罪し、使い込んだ公金を返済せよとしている。


テレビ出演の朝、突然の逮捕
 その三井氏は、平成14年、大阪高検公安部長の現職のまま、大阪地検特捜部に逮捕される。氏は、そのころ多くのマスコミと接触し、検察の不正を告発しようと準備してきて、4月22日の逮捕当日の午後にテレビ朝日「ザ・スクープ」のインタビューを受けて収録をする手はずであり、後日には衆院法務委員会に出席して証言を行う予定が定められていた。その日の朝の逮捕であった。
 氏の逮捕理由は、@新しく購入したマンションに住んでいないのに住民票を移し、不動産登記に伴う登録免許税の軽減措置適用を受けて、登録免許税約48万円相当の納付を免れようとした、詐欺罪である。A逮捕後に、指定暴力団幹部から情報提供を頼まれ、その見返りに高級クラブでの接待や、デート嬢の世話を受けた(飲食24万円余とホテル代など8万円余、計32万円余)という収賄罪を加えて、再逮捕した。
 この逮捕理由について、ジャーナリストの立花 隆氏は、「これはおかしいと思った。大阪地検の公安部長を逮捕するには嫌疑が軽すぎる。しかも動いたのが、市井の軽微な犯罪を摘発する警察でなく、政治家や高官の犯罪などを摘発する地検特捜部で、形式犯罪でたかが47万円の税金逃れ(この金額では脱税にもならない)を押さえるとは考えられない(三井氏は、実際に住むためのマンションで、その形式犯罪も犯していないと主張)」。
 元共同通信記者の魚住 昭氏も「税金をちょっと安くしてもらおうとウソの転入届を出したという形式犯罪で、特捜部が身内の高検部長を逮捕するとは…。これほど恣意的な権力行使は過去にほとんど例がない。再逮捕容疑の32万円の接待というのは、官僚幹部を立件するには少なすぎる金額で、テレビ出演の朝の緊急逮捕は「口封じ」が狙いとしか思えない。」と書いている。


裏金作りの実態
 次に、「検察の裏ガネ作りは本当に行われてきたのか」という点だが、三井氏はこう書いている。少し長くなるが、問題の核心部分なので抜粋してみる。
『各地検に配分される調査活動費のすべてが裏ガネにまわり、そのほとんどが検事正の遊興飲食費に回されていたのだ。私は最初びっくりした。検察が裏でこんなこと(犯罪)をしていていいのかと思った。次席検事になって初めて裏ガネの実態を知った人は、誰でも懲と同じ旋問を持ったであろう。しかし当時はその簸問を誰に言うわけでもなく、組職に流され、次第に日常的な仕事として「裏帳簿」の決裁をするようになっていった。
 この裏ガネを使えるのは、検事総長をはじめ、最高検次長、各高検の検事長、各地検の検事正ら検察上層部に限られる。
 たとえば、某検事正の連日の飲食やゴルフを可能にしているのが、調活を流用した裏ガネなのだ。この裏ガネづくりに関与するのは、地検なら事務局長と公安事務課長ら、高検の場合は事務局次長(いない場合は事務局長)と公安事務課長らである。
 手口は、まず検事正の指示で事務局長が架空の調査名目を考える。そして、架空の情報提供者を何十人何百人とつくりあげ、その架空情報提供者に対して情報料として13万〜5万円を支払ったかたちにするのだ。(配布された予算に応じて情報提供者の人数を加減する)
 会計課は公安事務課の申請どおりの金額を支出する。会計課から現金を受け取った公安事務課が、偽造領収書を作成して精算する。情報提供者は秘密に行動するというつくられた建前から、公園や喫茶店などで情報提供料を渡したことにするため、領収書にコーヒーのシミをつけたりする工作も必要になる。
 むろんこれらは犯罪だ。虚偽公文書作成、同行便、横領、詐欺などの罪にあたる。ただ検察の犯罪を捜査する機関がどこにもないので、やりたい放題やっているわけだ。
 高知地検の調活予算は前述のように年間約400万円で、私の在任中の3年間、増減はなかった。これはそのまま検事正のこづかいといってもいいカネだ。それでも足らずに、事務局長が別の方法でも裏ガネを総出することもあった。いちばんよく使っていたのがカラ出張だ。部下を架空出張させて出張費を不正支出し、遊興飲食代に拭していたのだ。これが年間200万円1300万円にはなったと思う。むろん、これも犯罪だ。
 会計年度初めの4月上旬ころ、法務省から全国の地検、高検の調査活動費予算が示達される。庁の規模によって、たとえば中小地検で400万円から、東京地検では3000万円まで、一覧表にしたものが送付される。それがすべて1円残らず裏ガネに回るのだ。』と。


相次ぐ内部告発
 平成111月、「正義を求める検察組織の一員から」という調活問題の詳細を暴いた内部告発文書が大手新聞社、民主党の菅直人議員、国民会議の中村敦夫議員に送られた。内容は極めて正確で、すべてが真実であった。
 緊張した法務省と検察首脳は、「今後は架空名目を使って裏ガネをやった場合は、法務省として責任は持ちません」という通達を出す。語るに落ちるとはこのことだが、各地検、高検ではそれぞれ頭をしぼって、著名人を講演に呼んだり、検察OBを使ったりして、何とか消費することに励んだ。いずれも税金の無駄遣いである。
 ところが、検察首脳がこれだけ怯えていたにもかかわらず、この内部告発を記事にしたのは、わずかに「週刊現代」(11522日号)と「週刊宝石」(11527日号)だけだった。結局、裏ガネ問題を正面から報道した新聞は皆無に等しく、日本の大手新聞は検察を敵に回すような報道はできないとの感触が、検察内部に芽生え、その後の検察の暴走を許すことになる。新聞は本来、権力の腐敗をチェックすることがその役割ではなかったのか。その役割を放棄していったい何の意味を持つ新聞なのだろう。
 それから約3年、小泉内閣の森山真弓法相は、週刊誌の報道をもとにした野党議員の質問を受け、「検察の裏金は事実無根」と答弁するが、平成1457日に文芸春秋と新潮社に、元検察庁副検事であった高橋徳弘氏の実名入りの告発文書が届く。
『拝啓(略)突然ですが、私は平成8年まで、検察庁に副検事として勤務していた者です。つい最近、大阪高検の公安部長が逮捕される事件に関連して「調査活動費」の件が再度クローズアップされているようですが、私自身、検察庁勤務時代から数年にわたって「調査活動費」に係わっていた時代があります。
 今回の事件で、森山法相は、調査活動費について「かつてそういう話が出た時、調査して事実無根との結果が出ている」との見解を示しましたが、(略)「公金流用」が事実無根ではなかったことを証明しようと筆を執りました。
 
…(略)…。公安事務課から依頼された多数の領収書に「高橋正彦」の名前を書いていく。(略)私が担当していた部分は、領収書の偽造で、当時依頼された文書と領収証などを持っています。(略)当時、私が勤務していた検察庁をお調べいただければ真実が明るみに出ると思います。ご連絡預けば、更に詳細な話と証拠書類をご提供いたします。なお、検察庁に勤務していたことを証明するものも同封いたしました。  敬具』 というものである。


検察を糺すもの
 強大な権力を行使する検察に対して、マスコミや国会の腰が引けていることは誠に歯がゆく残念ではあるが、ジャーナリストの中にも真実に向かって一歩も引かないという硬骨漢もいるし、権力と癒着のない週刊誌などの存在もある。
 裁くものがない検察に対して、仙台市民オンブズマンが仙台高検を相手取って調活費の情報公開を求め、守秘義務を理由に応じないため、文書不開示の処分取り消しを求める行政訴訟を起こしている。解明は100%可能と、同オンブズマンは胸を張る。
 三井氏の公判の行方をしっかりと見つめていくとともに、検察の正義を糺す仙台市民オンブズマン(http://www.hitplaza.netspace.or.jp/doc/omb/)の活動に支援を送りたい。


読 後
 三井氏の裁判の過程で次第に明らかにされる事実と、次々に現れる告発者の発言をみると、検察の裏金作りはもはや動かせない事実と思われる。三井氏の逮捕で、検察は墓穴を掘ったというべきであろう。
 外務省の裏金プール(預かり)問題では、残っているプール金は国庫に返納する一方、判明した過去の流用分は関係した職員が弁済したし、また、カラ出張やカラ残業などで裏金を捻出したことが発覚した複数の地方自治体でも、全て関係者は処罰され返納を義務付けられている。
 正義の番人である検察は、今さら不正を認めることはできないというジレンマがあるのだろう。また、裏金作りが白日の下にさらされたときには一大疑獄事件に発展することだろうが、ここに至っては自らの非を認めてそれを糺し、真正面から取り組む姿を国民に見せて、その信頼を取り戻す努力をして欲しい。
 森山法相、原田検事総長をはじめ、検察の首脳は自分達の誤りを謝罪しなければならない。ことはこれまで裏金を使ってきたOBにまで及び、三井氏の逮捕の「違法性」や、裏金行使で告発された加納駿亮高知地検検事正らを、不正があったことを知りつつ嫌疑なしとした「犯人隠匿」で訴追されるかもしれないけれども、逃げることなく自らの手で真実を明かすことが、『秋霜烈日』に照らして恥じない道であろう。


 検察官が胸につけるバッジを「秋霜烈日」と呼ぶ。紅色の旭日に菊の白い花弁と金色の葉があしらってある。「秋霜烈日」とは,秋におりる霜と夏の厳しい日差しのことで,刑罰や志操の厳しさにたとえられる。「社会の正義を守り、不正を糺す」ことを使命とする検察官の拠りどころである。


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