【18】 9/16 三重県教育モニター委員会報告            2006.0919


 9月16日、三重県津庁舎において「子どもの安全について」をテーマとしての会議がもたれた。教育委員会からは鎌田敏明副教育長以下8名が出席、学校安全安心特命監の土肥稔冶氏から、教育委員会や学校の取り組みについて説明を受け、討議に入った。
 以下に、その総括と私見をまとめ、知事・教育長、教育委員会事務局に提出したので、その写しをここに記す。


平成18年 9月19日

三重県知事  野 呂 昭 彦 様
三重県教育長 安 田 敏 春 様
三重県教育委員会  事務局 御中
                              三重県教育モニター委員
                                     飯田 章


      三重県教育課題モニター意見交換会(津会場9/16)を振り返って


 9月16日(土)、教育課題モニター意見交換会(津会場)、お疲れ様でした。ご出席の皆様には、当日はたいへんお世話をいただきましてありがとうございました。当日出されました意見を振り返り、私の補足意見を加えて総括し、取りまとめました。


 ご説明をいただきました「子どもたちの安全のために」採られて居ります、県教育委員会の諸対策は、「子どもたちへの安全教育」「学校の安全確保」への配慮とともに、たいへんしっかりとした取り組みがなされていて、高く評価されると思われます。子どもたちの通学に対しても、地域の協力体制を作り上げてきたことが、よく理解される内容でありました。
 ただ、当日出されたモニターの方々のご意見を見ますと、安全を確保・事故を防止するための制度に対する異論はなかったものの、頻発する少年少女の犯罪や乱れる生活などに対して、子どもたちの正義感や倫理観を養成する教育に対する要望と、問題が起こったときの学校・教師の対応や処理に対する指摘がありました。子どもたちの事故や犯罪を予防する教育が行なわれているかどうかや、事故や事件が起こったときに適切な処理が行なわれているかどうかなどについて、納得は得られていない結果を示していたと思います。


 私は、当日、「子どもたちの安全」を脅かす根源的な理由として、公教育の教育力の低下を挙げました。
 子どもたちは、正義とはどういうものか…倫理とは何を言うのか…を知らないかのように、学級破壊・校内暴力・深夜徘徊・援助交際・いじめ・差別を繰り返し、生きるということの意味を教えられたことがないのではないかと思われるような、親や友人を殺害するという事件を繰り返しています。
 学校・教師の指導力の低下を、私は、「世は学習塾全盛で、学力をつけたければ塾へ行けと言う時代です。しかし、予算も人員も時間も…、学習塾より潤沢に与えられている公教育が、学力を習得させるという知育教育の基本の部分ですら、学習塾の後塵を拝しているのはなぜでしょうか」と、判りやすい学力習得という事例をもって指摘しました。
 学校教育の指導力は、なぜ低下しているのか。その答えは、制度の甘さ…欠陥にあります。一口に言ってしまうのは乱暴きわまりますが、結果責任を明らかにする体制を整えなければ、公教育が実力を回復し、社会の信頼を得ることはできません。
 その意味から、私は失礼を承知の上で、「子どもの安全が確保される結果が出なければ、特命監をはじめとする担当者の責任は避けられない」と申し上げました。ひとえに、結果がどうであってもその責任を問わないという行政(公務員)の意識を改めて、目標・目的を達成しなくては生き残れない民間の厳しさをもちながら、業務に当たっていただきたいと願ったからであります。

  
 教師が実力(指導力と人間力)をつけるためには、研究・研修を重ね、実践を繰り返すしかありません。そのための組織を整えることも、教育行政(教育委員会)の重要な責任の一つでしょう。
 席上申し上げましたように、三重県には教師の研究組織としての「三重県教育研究会(仮称)」といった組織がないことにも、三重県の教育現場に意欲が欠如し、行政に緊張感がないことが表れています。教育力の回復のためにも、教育・行政・民間が一体となった研究研修組織「三重県教育研究会(仮称)」の整備が求められます。
 夏休みの子どもたちについてという話題が出たとき、私は「教師は夏休みの40日間という絶好の期間があるのだから、毎年、日々の教育課題について計画的なカリキュラムを設けて研修すべきである」と申し上げました。教師は新規採用の日から後は、学校内・市町村・県・文部省などの指定の研修は時々行なうことはあるとしても、カリキュラムを組み、研修成果を検定されるような研修を受けることはありません。いわば、教師の学力は大学卒業時に停止していて、以後は、教育力をアップするようなアカデミックなカリキュラムは用意されていない。教師は、勉強不足です。テキスト ボックス:
 過日、ある市の社会科研究会の先生方と面談する機会があったのですが、右の写真の住居を皆さんが弥生文化期の住居であるというのです。
 これは、5500年前〜4000年前の縄文時代の日本最大級の集落跡である、青森市の三内丸山遺跡内の住居ですから、縄文期の住居です。以前は、縄文時代の般的な家は、直径が3〜4mの円形に地面が掘り窪められ、数本の主柱と棟持柱に垂木がわたされ、草木などで屋根が葺かれるという構造であるとされてきました。しかし、近年、三内丸山遺跡などが発見・発掘されるにしたがって、縄文期の人々の生活はとても進んだものであったことが判ってきました。住居も、木を組み合わせて草木で覆った程度のものでなく、右上の写真のように屋根の妻も切られた美しい形を持ったものだったことが知られています。
 たまたま居合わせた皆さんが知らなかっただけのことなのでしょうが、皆さんは小学校の教諭であり、しかも社会科を専攻している先生なのです。このことは、いかに教師が、新しい情報から遠くにいるかということを物語っています。社会を専攻している教師が、最新の社会科をカリキュラムとする社会科の研修を受けていれば、当然の知識として持っている程度の知識なのですから。
 教師に対する、研究・研修の必要性が、いかに喫緊の課題であるかということが、ご理解いただけるでしょうか、
 もちろん、研究・研修の内容は、教科に関することだけでなく、授業技術や生徒・父兄の指導方法、学級・学校経営のノウハウなどを含むことは言うまでもありません。組み上げられた研修プログラムを受講していくとともに、現場の教師が自分たちの問題を持ち寄り、それを解決していく中で自らを教育のプロとして鍛え上げていくという、そんな制度や機関がぜひとも必要でしょう。
 地方分権法において、教育の裁量権も大幅に地方自治体に移譲されていますから、三重県独自の教育プログラムや指導要領を組み上げて、『教育先進県、三重』を実現して欲しいと思います。首長と教育行政にかかわる人が決断すれば、愛知県犬山市に実例があるように、実現することはそれほど難しいことではありません。
 そして、「三重県教育研究会」というような研究機関を整えて、それらの構想を実践への軌道に乗せ、教育の現場に内在するあらゆる問題を、教師が一人でかかえるのでなく、多くの教育界の英知に加えて、行政や、家庭や、社会の力をも集めて解決していこうとする体制を完成させることこそ、三重県の教育に課せられている課題であろうと思います。
 以上、「安全教育」への取り組みに際して、根源的な問題としての教育力の向上・充実についての提案を申し上げます。


追記


 関連して、「子どもの安全」に冠する愚見を追記いたします。
 (1) 先生に暴力を振るったり、親を殺すといった、子どもたちの心の中に広がる闇の深
    さを思いますと、子どもたちに正義や命の大切さを説くこととともに、人間として生
    きるということはどういうことかなどを折りに触れて語りかけていくことの大切さが
    改めて思われます。
     子どもたちの持つ善なる心霊に点火していくためには、教師自身が豊かな人間性を
    養わねばなりません。教師は、歴史・哲学・倫理・古典・漢学を必修として、子ども
    たちに語りかける言葉の深さを磨くべきでしょう。
 (2) 子ども(特に小学生)の暴力が増えているとの統計があります。ひとえに、優しい
    だけの人権教育の中で育てられてきた彼らは、権利の二律背反性…権利を行使するに
    は義務が付き纏い、義務を果たさないものはペナルティを受けることを、正しく教え
    なければなりません。規律を犯す子どもは、大人をなめているのです。誤った教育が
    作り出した、犠牲者であると言わねばなりません。
 (3) 三重県条例に、「児童(何歳以下であったかは定かではないのですが)は、午後10
    時以降、保護者の同伴なくして外出してはならない」という一項があったように思い
    ます。
     深夜徘徊をする子どもたちは、条例違反ですから、警察は補導しなければなりませ
    ん。子どもたちにとって、もともと警察は恐いものだったはずですが、誤れる人権意
    識を持つ彼らは、それを盾にして警察や大人の言うことを聞こうとしません。
     深夜に徘徊する子どもたちは、条例違反で補導しなければならない…すなわち、夜
    に外出するとおまわりさんに捕まることを知らしめなければなりません。ゲームセン
    ター、コンビニなどの注意や通報、学習塾の終了時間などについても自粛・協力を求
    めることが必要です。
                                       以上


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