【20】 「三重県教育振興ビジョン」       2007.01.15

  学校が 教育力を取り戻すために


 (このページは、教育モニターとして、三重県教育委員会の提言募集に応じて提出した、
  「三重県教育ビジョン」をテーマとする愚見です。)


プロローグ


 教育基本法の改訂を果たした安倍内閣は、「教育の改革」を2007年の最重要課題と位置づけています。経済が上向いて物質的豊かさを享受したとしても、イノベーションの推進によって人々の生活が効率化されたとしても、そこに生きる人々が脆弱であっては、この国の将来はありません。「教育改革」は、何ものにも先駆けて行わなければならない基本的な改革です。

 それでは、今の日本の、そして三重県の教育においてなさねばならない根源的な課題とは、何でしょうか。

「国家の品格」の著者として最近注目を浴びています藤原雅彦氏は「武士道」を挙げ、「卑怯な行いをするものは、理屈抜きで許すな」と言われています。

 人としての道を生きていくためには、人間としての誇りを持つことが不可欠であり、それを忘れたとき人は醜く卑しい姿をさらします。最近の日本では、醜いことを気にしない生き方がもてはやされ、卑しいことに気づかない生き方が主流となりつつあるようにさえ思われます。「お金で買えないものはない」などと誇らしげに言う人を成功者と讃え、教育の現場では「子どもと教師の人権は対等だ」などという過ちまでが堂々と主張されています。

 社会を糺し、子どもたちの精神を鍛えて、生きる力を持たせるための人間教育は根源的に重要なのでしょうが、問題があまりにも多岐に渡りますので、「社会の中で果たさなければならない学校の役割と責任」や「小中学生の親たち世代の現状と学校」…などについての提言は別の機会に譲ることとし、ここでは「教科の学力を向上させるために」について、愚見を申し上げたいと存じます。


学力向上こそ最大の課題


 昨年9月19日、私は「三重県教育課題モニター意見交換会(津会場9/16)を振り返って」と題した文書を貴教育委員会に差し上げ、その中に「予算も人員も時間も…、学習塾より潤沢に与えられている公教育が、学力を習得させるという知育教育の基本の部分ですら、学習塾の後塵を拝しているのはなぜでしょうか」と書きました。

 本日の提言は、まさにこの部分であり、「学力の習得に当たって、学校は子どもたちに、最高の結果を保証すること」、平たく言えば、「学習塾に出来ることが学校に出来ないはずはない。出来ないのは甘えであって、学校は子どもたちに学力を習得させる具体的方法を示し、数年間の間に結果を出すこと」を求めたいのです。

 ここでいう学力とは、生きる力などといった漠然としたものではなく、点数に現れる教科の習熟度です。「教育とは知育のみならず」「学校の教育を教科の点数だけで論じるな」…という意見ももっともと思いますが、「教科の学力」という学習の基本部分を習得させることにおいて学習塾に及ばない現状では、その言葉は言い訳・隠れ蓑に過ぎず、学校に対する世間の信頼を得られるものではないことを、まず自覚するべきです。「学力をつけるためには、塾へ行け」という言葉ほど、学校に対する侮辱はないと奮起するべきではないでしょうか。


教師の自主的な研究・研修機関「三重県教育研究会(仮称)」の結成


 では、子どもに学力をつけるためにはどうすればよいのか。

 教科の学力の向上を図る上で、指針(教育プログラム)を示すこと、教師の研究・研修と実践、地域社会・PTA・家庭の協力は欠かすことが出来ません。

 魅力ある授業を展開して児童生徒の学習意欲を高めることと同時に、生徒の授業や生活の態度をしっかりと指導していける教師の育成を図るために、私は、かねてより教師の自主的な研究・研修機関としての「三重県教育研究会(仮称)」を組織し、制度を定めるべきであると提案してきました。

 この組織は、基本的には教師の自主的な研究・研修機関であって、教育委員会などの行政がバックアップする形が望ましいと思います。なぜ自主組織を提案するかというと、適宜、有識者やPTAなどの参加を求めたり、予算を自主財源でまかなうなどの方法をとることが望ましいと思うからです。

 「三重県教育研究会」は、三重県下の全教師を会員の対象として、各教科の研究・研修を行なう部会、全体の計画・検証、学校・学級経営、生徒指導などを扱う部会、そして事務局を持ちます。


三重県独自の教育プログラムを


 そこではまず、三重県独自の教育プログラムを作成することです。文部科学省が提示する指導要領などは遵守する必要があるでしょうが、地方分権の推進による地方自治体の裁量権をもって、理念・目標を掲げ、条例・法案の整備、予算の確保、教師や関連職員の確保と配備などを、教育委員会がバックアップして行わなければなりません。

 現在、三重県には、「教育振興ビジョン」が策定され、種々の取り組みがなされています。しかし、先日お送りいただきました2006(平成18)年12月「第四次推進計画(素案)」と、手元の1999年3月刊「三重県教育振興ビジョン−21世紀を拓く三重の教育プログラム−」らに目を通しながら本稿を作成していますが、学校における教科指導について具体的な方策を示した内容はなく、また、掲げられた諸計画の結果を検証した報告は全く見られないことは、まことに残念なことです。

 安倍首相は政権のスタート時に「政治は結果責任」と言われましたが、結果を検証してこそ次の計画に反映されるのであり、責任を明らかにすることが出来るのです。それをないがしろにしては、行政に積み重ねがなくなり、緊張感もなくなります。


 教育プログラムの作成時には、どんな内容をどのように教えるかという基準マニュアルを示さなくてはなりません。

 何をどのように教えるのかを、現行のような学校現場任せにするのでなく、基本的にやらねばならないことを指導案形式にまとめて現場の教師に示し、言うなれば「毎時間の授業はこのように行なうこと」といった具体的なマニュアルを提示するべきです。

 授業内容は現場に任せるといえば、一見、現場の自主性を重んじる方策のようですが、現場には、示された教育内容をどのように教えるかをまとめあげる時間も能力もありません。例えば、小学校4年生の算数で、教科書にない小数点以下2桁の計算を教えようとする場合には、教材と具体的な授業方法を示した指導案を計画プログラムの立案者の側で示すべきです。

 
民間企業においては、当然、明確な目標が示されますが、同時に何をどのようにしてその目標を達成するかの原則的な方策(設備や手段)も示されます。担当部署やチームによって、さらに具体的な肉付けがなされて、達成のための取り組みが行なわれていくわけですが、教育プログラムにおいても、立案者から目標と原則的な方策を示し、各市町村や学校現場においてさらに具体的な工夫が加えられて、日々の授業が行われることが望ましい姿です。


三重県教育研究会の部会


 各教科の部会は、地域の教科の部会と連携して教科の研究・研修を行い、夏休みに3週間程度の、冬休みに5日間程度、各学年の教科内容についての研修講座を開催します。研修内容は、各年度にまたがる内容とし、5〜6年で1サイクルを履修する内容とするなど、受講者にとって有益で実効あるものでなければなりません。
 教科部会では、モデル指導案や、日々の授業で使用する教材教具の研究や作成を行い、現場の授業に供していきます。 指導案や教材教具を作成していくことによって、担当者(教師)らの専門知識や教育的な造詣は深められることでしょう。

 
各教科部会は、研究の集大成として、年に1回の研究発表を行い、研究紀要を刊行するものとします。

 
専門部会は、生徒指導学校経営上の研究を行なう部会を持ち、日々の問題点を解決していくための研究・研修を行なうとともに、問題に当たってはともすれば孤立する教師をバックアップし、連帯して取り組む体制作りを図っていきます。また、計画の立案や結果の検証、全体の調整、関係機関やPTA・家庭などとの連携なども、担当部会を設けて担当します。研究成果は、年1回、研究紀要にまとめて発表します。


県下の学力テストの実施


 結果を検証するために、学期に1回程度の全県統一学力テストの実施を図ってはどうでしょうか。文部省の学習指導要領や三重県教育プログラムに定められた内容が、きちんと教えられているかを見るためのテストであり、著しく低い点数を示した指導者は再教育を受ける必要があります。

 民間企業においては、目標達成への検証と評価は当たり前に行なわれていることであり、著しく達成度の低いものは解雇を含む再教育がなされることが当たり前であることを思えば、教育界における結果の検証と評価も当然なのでしょう。むしろ、今まで行なってこなかったことが、問題を引き起こす甘さにつながっているというべきではないでしょうか。
 
 
エピローグ


 「三重県教育振興ビジョン」という概念に対しては、数多くの提言が浮かびます。「学校・学級崩壊、いじめ、暴力」「無責任・自分勝手な親たちとそれに毅然と対応できない教師たち」「ゆとり学習の問題点」「市町村指定業者の怪」…などなど、思いつくままに列記しただけでも数行に及び、これらについての対応策の提言となれば、さらに何十ページかを要することになります。
 その中から、今日は敢えて「学力の向上」というテーマを選んで、提言としてまとめてみました。「学力の向上」こそが、学校教育に化せられた最大の責任であると考えられるし、その向上を果たしてこそ、学校に対する社会の信頼が回復すると思うからです。
 
「学力の向上」についても、授業時間数の確保、小学校の教科担任制の推進、小学校1・2年生の生活科の見直しと理科・社会科の実質的復活、ゆとり学習の問題点、児童生徒の学習意欲を向上させるための取り組み、国語の古典漢学の素養・省略される理科の実験と社会の見学調査…など、取り上げたい問題はまだまだ多くありますが、長くなりすぎますので、また別の機会に譲ることといたします。


 (添付資料 … その1 2ページ、 その2 2ページ、 計 別紙4ページ
    その1 「小学校1・2年生の生活科」と「総合学習」の問題点
    その2 三重県教育課題モニター意見交換会(津会場9/16)を振り返って
   を、添付しました。                  【添付資料 略】)


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