【22】東京の中学校で、塾講師を招いて有料補習授業
     − 公教育の敗北宣言、学習塾の援助を請う −


 東京都杉並区立和田中学校で、大手進学塾「サピックス」の講師が数学を週6コマ、国語、英語は同3コマずつ、2年生の希望生徒を対象に、夜間の有料補習授業を行う計画が進められている。都教育委員会は「義務教育の機会均等の観点から疑義がある」として“待った”をかけているが、学校は「補習であり、問題ないはず」と言い、杉並区教委も「取り組みが実現できるよう支援したい」とコメントしている。


 公教育の誇りと責任はどこへ行ったのだろう。百歩譲って、現在の公教育の生徒指導は予備校・学習塾の足元にも及ばず、そのノウハウを教授願うことは(公教育のふがいなさに切歯扼腕しながら)致し方ないことかとは思うが、公立中学校が塾講師を招いて有料の補習授業を行い、どこが悪いと言っている感覚が理解できない。
 和田中学の校長・教頭は、次には「春夏冬の長期休暇に有料補習授業を企画」し、その次には「正規授業にも、塾講師によるクラスを作るので、希望者は授業料を払って授業をうけてよい」なんて言い出し、「成績が上がるのだから問題ない」と言うことだろう。
 教師が予備校や学習塾の授業テクニックを学ぶことは、指導実績に歴然とした差があると実証されている現在、(屈辱感にまみれながらも)必要なことと真摯に臨むべきだろうし、それが生徒に還元されるならば良しとしなければなるまい。
 しかし、学校は、あくまでも学習塾の存在を公認してはならず、学習塾が大手を振って存在するのは自らが不甲斐ないからであることを自認し、恥辱と思わなくてはならない。学校に誇りや責任感があるのならば、学校内の問題は塾の手を借りて解決してはならないのであって、補習授業は学校の力で行うべきである。
 補習授業の企画を練り、教材を作り、授業にあたる教師には、時間外勤務手当てを支払い、手厚くその労に報いるべきであろう。企画を練り、教材を作り、授業にあたってこそ、指導力は蓄積されるのであって、予備校や学習塾の授業テクニックを伝授してもらっているよりも実力になるのではないか。加えて、補習授業を行った結果、生徒の学力がどれだけ向上したかを数値化して検証していけば、学校現場に学習塾の競争原理を導入することにもなり、授業に対する考え方や姿勢が変わっていくことだろう。


 私はかねてより、「予算も人員も時間も、学習塾より潤沢に与えられている公教育が、学力を習得させるという知育教育の基本の部分ですら、学習塾の後塵を拝しているのはなぜなのだ」と言ってきた。「学力の習得に当たって、学校は子どもたちに、最高の結果を保証することこそ責務である」、平たく言えば、「学習塾に出来ることが学校に出来ないはずはない。出来ないのは甘えであって、学校は子どもたちに学力を習得させる具体的方法を確立し、結果を出すこと」を求めたい。
 学校は、塾講師を招いて有料補習授業を実施するといった、『学習塾に軒を貸す』ようなことをせずに、学習塾の授業を越える効果的な授業を自らの手で実行して結果を出すという、『母屋を乗っ取る』手段を講じるべきだろう。


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