【物見遊山77】 早春の都路散策「京都 花灯路」         2005.3.12-13

京都 2005 花灯路
  ライトアップに浮かぶ「法観寺」の五重塔
   石畳と板塀・格子戸の町に聳える、いわゆる「八坂の塔」は
   聖徳太子の創建による日本最初の宝塔と伝えられる   →



    2003年の『京都、花灯路』はこちらから


 11時ごろに家を出て、草津の「あたか飯店」でお昼を食べたあと、「お茶でも飲もうか」と思って近江八幡の「たねや」へ向かった。近江八幡は折からの日牟礼神社の祭礼「左義長まつり」の真っ最中で、町の辻々に真っ赤な紙襷を飾った山車が出て、揃いの半被の人たちが掛け声をかけながら引いていく。半被の色は、桃色や水色で統一された集団がさまざまに趣向を凝らした山車を引いていたから、町々でそれぞれ決まっ日牟礼神社 左義長まつりているようだ。
 今をさかのぼること400年、安土・桃山時代から始まったといわれ、湖国に春の訪れを呼ぶ「左義長まつり」。天下の奇祭と呼ばれ、町の若衆が美しく女装し、赤紙のついた山車をかつぎ「チョウヤレ、マッセ、マッセ」と威勢のいい声を張り上げて町中を練り歩く。左義長に飾られる山車は、各町ごとにその年の干支をかたどり、海産物や穀物などで繊細かつ豪華に作り上げられる。

 風花の舞う寒い日だったけれど、町衆の熱気は盛ん…。日牟礼神社の参道には多くの出店も軒を並べて、たいへんな人出左義長まつりの神輿であった。
 明治5年創業和菓子処「たねや」も、いつもに増しての賑わいである。東京を始めとして全国各地に支店を増やして業績は好調。昨年、クラブハリエ日牟礼館を開館して洋菓子への進出を果たした。バームクーヘンが美味しいと評判である。
 銘菓「ふくみ天びん」をほおばりながら、コーヒーを飲む。外は、横殴りの春の雪だ。

途中トンネルは雪景色


 琵琶湖大橋を西岸へ渡り、途中トンネルを抜けて北から京都へ入る。トンネルから八瀬・大原のあたりも、小雪がぱらつく寒さであった。


← 雪化粧の「途中トンネル」


 午後6時、清水寺下のパーキングへ車を停め、清水坂を登る。両側の店から客が溢れ、参道は人の流れに身を任さねばならない混雑である。やがて、暮れなずむ音羽山を背景に早々とライトアップされた清水伽藍が現れた。風花の舞う都の寒気の中に、新装なった仁王門の朱色が鮮やかに浮かぶ。
 「本日は寒さが厳しいので、午後6時30分の予定を早めて、辻々に明かりを点す露地行灯今より開門いたします」と係員がふれている。清水寺も、話が解るじゃあないか。
 ご本尊十一面千手観音さまに参拝して、奥の院から音羽の滝へと参道を下る。ライトアップの光の中を、雪片がチラチラと零れ落ちた。
 清水から高台寺にいたる産寧坂(三年坂)・二年坂の一帯は、この寒さにもかかわらず大変な人出で、両側の店にも人が溢れている。
 高台寺の秀吉・ねねにご挨拶して、圓徳院へ向かった。圓徳院は高台寺の分院で、ねねの没後に木下家の菩提寺として開かれた寺である。この地でねねは、滅び行く豊臣の末路を、どのような思いで見つめていたのだろう。ライトアップに浮かぶ庭石は、歴史の闇の彼方を語ろうとはしない。
街角に置かれている 大生花
 圓徳院前の広場でコンサートが催されていて、たくさんの人だかりでができていたが、あまり時間もなく先を急ぐ。
  ねねの道の突き当たり、大雲院祇園閣の門前に、人の背丈をはるかに越える、大きな生け花が飾られていた。
 午後8時、道沿いの料理屋「京浜作」にあがり、遅い夕食を取った。豪華な器に少量の旬采が盛られている京料理だが、温かいお澄ましが冷えた体を温めてくれる。「桜蒸し」に添えられた桜の葉がトウが経っていて固そうだったので残すと、仲居さんに「この葉ッぱを食べなあきまへんのどすえ」と笑われた。
京浜作
京浜作 先付けとお刺身

 無類の魚好きを自称している章くんながら、焼き魚はいまいち好きではないが、この夜の銀ムツの照り焼きは皮際の脂も香ばしく焼き上げられていて、味わい深い夕食であった。
 しかし、「ライトアップは何時まで?」と聞くと、「9時半」と言う。ゆっくりしている時間はない。
 円山公園の中を流れる吉永の小川には、約1000本の青竹の灯籠が流され、ほのかな明かりを点しながら、せせらぎに揺らめいている。公園北西の一帯には、「現代いけばな展」と銘打って、京都いけばな協会に所属する20の流派がそれぞれの力作を展示していた。
 もう2週間もすれば、そのあでやかな姿にピンクの花を纏うであろう丸山の枝垂桜も、今宵は来るべき春に備えるかのような静かなたたずまいである。足元に、豪華な生け花が据えられていた。円山公園の枝垂れ桜と大生花
 時計を見ると、8時25分を回っている。北隣の知恩院へと急ぐ。


 きらびやかなライトを浴びて、どっしりとたたずむ国宝の知恩院三門は圧巻だ。カメラを構えてシャッターを押そうとした瞬間、バシュッという音(が聞こえたような気がした)とともに、訪れた者を幻想の世界に誘(いざな)っていた光が全て消えた。カメラの中には、夜の闇しか写っていない。時間切れ…。ふと周りを見渡すと、京都の夜に佇(たたず)む自分が居た。


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