【26】南アルプススーパー林道 下見! (10.2)


 関東以北の各地に深い爪あとを残した台風21号が去って、秋晴れの空が戻った。かねてから訪ねてみようと思っていた「南アルプス・スーパー林道」へ走ってみた。
 名古屋で早い昼食をかねて打ち合わせを1件済ませ、12時前に中央自動車道に乗った。伊那インターで下りて361号線を東へ。一昨年の春、ひしめくような桜を見に来た高遠城址を右に折れて152号線を南下すると、10分ほどで『道の駅』があった。リンゴを1個買ってほおばりながら情報を聞くと、「南アルプススーパー林道へ登るバスは、午後2時05分が最終だ」と言う。時計を見ると、すでに2時10分。本日の入山は諦めるしかない。
 それでも、行けるところまで行ってみようと思い、152号をさ南アルプス林道より鋸岳を望むらに南下。5分ほど走って戸台口で左に折れ、林道に入る。
 ほどなく広い駐車場がある「仙流荘前バス停」。20台ほどの車が置いてある。自家用車で来た人はここへ車を置いて、長谷村営のマイクロバスに乗り込むのだ。最終バスに間に合わなかった僕は、とにかく行けるところまで行ってみるしかない。
 だんだんと道は対向できない狭さになってきて、ところどころに設けられた待避所で対向車の有無を確認しながら車を進める。南アルプスを縦貫するこの林道は、建設当時から自然破壊が懸念され激しい反対運動が繰り返されてきたという。深い山を切り開いて自動車が通る道をつけたわけで、左側はオーバーハングの山肌がのしかかり、右側は深い谷だ。
 しかも河川改修工事が行われていて、ダンプカーがひっきりなしで通る。いけるところまでという僕のドライブは20分ほどであったが、その間に10台以上のダンプに行き交った。まぁこの運転手さんたちも心得たもので、各待避所で必ず車が来るかを確認しながら走っているし、運悪く曲がりっ鼻で出くわしたりすると慣れないこちらの事情を慮(おもんぱか)ってくれてかバックしてくれる。戸第大橋に架かる通行止めのゲート
 南アに深い谷を刻む三峯川の支流に架かる「戸台大橋」のたもとに、管理人のおじさんの小屋があって、ゲートが閉められている。一般車はここまでだ。「おじさん、開けてよ」といつもの調子で頼んでみたのだが、「私の一存では…」と笑うだけ。「昨日の台風で水量が多く、水が濁ってしまった」と言う渓谷をのぞくと、はるか下のほうを濁流が音を立てて下っていく。赤い橋が万緑に映えて印象的であった。
 しばらくあたりを歩いてみると、山あいから甲斐駒ケ岳が見えた。西日をいっぱいに受けて輝く山頂付近は、見事なばかりに紅葉している。本日は下見ということで、1〜2週間うちに、また来なくてはならなくなった。


 帰途、リンゴを買おうと152号線を更に南へ下り、松川に向かう。分抗峠で一山を越えるが、そのあたりは先ほどの林道と変わらない道幅の狭さだ。上って下るまで、対向車も2台すれ違っただけ。松川で、リンゴを4個買ってきた。




【28】
南アルプス・スーパー林道 絶景 仙水峠! (10.11)


 午前3時に目が覚めた。昨夜の天気予報は、全国的に晴れマーク。ええいっ…とリュックに荷物を詰め込んで、3時20分には津ICから高速道路に乗り、「南アルプス」を目指す。伊勢自動車道−東名阪を走り、先日開通した名古屋高速小牧線から東名−中央道へと、信州へ行くのも全て高速道路で繋がれてずいぶん便利になった。
 多治見では町の灯かりが闇の底に広がっていたけれど、中津川にかかる頃には東の空が白み始めた。あたりがぼんやりと朝もやに霞む中を恵那山トンネルに入ったのだが、向こう側に抜けると山の稜線がくっきりと見えて、夜が明けていた。山肌を縫って走るスーパー林道
 伊那インターからR152を経て、午前7時、マイカーの乗り入れが禁止されているこの林道の唯一の交通機関である長谷村営バスの停留所「仙流荘前」に着いた。バス停前に大きな無料の駐車場があって、バスに乗る人はここへ車を置いていく。すでに20台ほどの車が止まっていた。早朝から走ってきた人たちと、すでに山に入っている人たちが駐めていった車だ。
 時間表を見ると、始発のバスは8時20分。まだ1時間ほどある。先週に来て時間表を貰っていったのに、時間を間違えて早くに着いてしまった。早朝到着の車から何人かの人が降りてきて、歯を磨いたり顔を洗ったりしている。僕は、家から持ってきたバームクーヘンを食べて、ペットボトルの紅茶を飲んだ。
 8時前、乗車券の発売が始まり、往復2600円の切符を買って、停留所に並ぶ。前から2人目だったので、運転手さんのすぐ後ろの席に座り、それなりに右側に広がるパノラマを堪能することができた。座席が満席になると、それ以上は乗せない。お客さんの数に合わせてバスが用意される。道幅が狭いから大型バスは運行できない。28人乗りのマイクロバスが、この朝は4台出発した。客山の斜面にカモシカの子どもがいた。の7割は大きなリュックを背負った登山者で、途中や終点の停留所から、スーパー林道の左右に点在する、2600〜3100mの山々へ登る。3割が、僕のような小さなリュックを持った日帰りトレッカーである。
 バスは、険しい山肌を削って建設された林道を、うなり声を上げて登っていく。左は急峻な木々の茂る山が迫り、右側は数10m下を渓谷が流れている。
 林道の下のほうの紅葉はまだ少し早いようであったが、登るにつれて赤や黄の色を増す。「こんな天気の良い日は、一年のうちにも何日もないよ」とガイドも兼ねている運転手さんが言っていた。朝日にカツラの葉の黄色が鮮やかに輝く。
 いくつ目かの曲がり角を曲がると、鋸岳(のこぎりだけ、2685m)の荒々しい山頂が目に飛び込んできた。その奥に蒼天に頭を突き出して聳えているのが、甲斐駒ケ岳(2967m)である。
 途中、環境庁の許可が下りずに舗装できなかったという砂利道を走って、バスはふもとから約50分で終点の「北沢峠」に着いた。編笠山・鋸岳・駒ケ岳・栗沢山などへは、この峠から登山道が開かれている。山梨県側のスーパー林道の始点「広河原」
 僕は、ここからさらにバスに乗り継いで、山梨県側のスーパー林道の始発点である「広河原」まで行ってみることにした。その途中にある日本第2位の高峰「北岳」を見てみたいと思ったことと、まず広河原まで行ってまた引き返してから、ここ「北沢峠」の付近を歩いてみるのが、バスの時刻が効率的だったからだ。
 「北沢峠」から「広河原」までは、芦安村営バスに乗る。所要時間は片道25分、料金は往復で1100円である。10人ほどの乗客を乗せて、下りの砂利道を、ええのかというぐらいのスピードでバスは走り下りる。道のすぐ右は数10mの谷である。
 ほどなく「広河原」の停留所。この辺は標高もかなり高いのだろう、あたりは赤や黄色に染まって秋たけなわである。
日本第2位の高峰「北岳」(3129m) 広河原から歩いてほんの2〜3分ほど戻ると、北岳(3192m)の威容が望まれる。2・3日前に山頂に雪が降ったとのことで、快晴の空に白い頂が、朝の陽に映えてキラキラと輝いていた。ここ広河原から山頂までは、6時間30分の登山とか。
 日本中に3000mを越える高山は23山あるが、そのうち長野県には15山、ここ南アルプスにはこの北岳をはじめ7山がある。上高地・乗鞍スカイライン・立山・白山スーパー林道など、車で行けるからか、中央アルプスや北アルプスのほうが馴染みが深く知名度が高いようだが、ここ南アルプスも登山家やハイカーには垂涎の名山が並んでいる。入山の足が村営バスだけというのが一般客の足を止めて、山の自然が守られているのだ。
 10時30分、広河原を発って、北沢峠まで引き返す。北沢峠は南アルプス連峰の各峰へ登る基点だが、バス停は原生林の中にあって周囲は何も見渡せない。ここからふもとへ引き返す最終のバスが15時55分だから、およそ5時間ある。
 バスの乗車券を買うときに貰ったガイドブックを見ると、この北沢峠(2032m)から1時間15分のところに仙水峠(2264m)があり、「眺望が素晴らしい」と記されている。駒ヶ岳や仙丈岳へ登るとなると片道4〜5時間はかかる。
 標高差もここ北沢峠とは230mほどとあるし、片道1時間少々…。仙水峠へ行って弁当を食べ(途中のコンビニで助六寿司を買ってきた)、1〜2時間散策して戻ると最終バスにちょうどいいかなという計算で歩き始めた。山小屋で聞くと「片道1時間30分ぐらい。1本道ですから判り易いです」と言う。パンフレットには1時間15分と書いてあったけど少し増えたなと思いつつ、教えてもらった標識を左に曲がり、スーパー林道から山道に入る。
 僕と一緒のバスから降りた人たちが15人ほどいた。一部は仙丈岳の方に行くのだろうか,右に曲がって行った。僕の目指す仙水峠は駒ケ岳の登山道の途中にある。10人ほどの人が一緒に歩き出した。単独行で数日は山に入るのだろうか、大きなリュックを背負った人。やはり大きな荷物を男たちが担ぎ、女の子はやや小ぶりのリュックを背負った数グループ。そして、おしゃれなトレッキング姿のおじさんおばさんたちは、みんな慣れたいでたちで、帽子も長袖シャツも登山靴も堂に入っている。おしゃべりだけでも十分熊除けになると思ったが、リュックに鈴をぶら下げたりしていた。
仙水峠への山道 出発してしばらくの間、僕はみんなの前をさっそうと歩いていたのだが、10分ほどすると単独行の兄ちゃんに抜かれ、15分ほどすると数グループの兄ちゃん姉ちゃんに抜かれ、20分後にはおじさんおばさんたちの鈴の音も先に消えていって、ひとり取り残されてしまった。日ごろの不摂生が反省される。
 200m進んでは休み、100m登っては水を飲む。途中、垂らされたロープを手繰って。5〜6mの岩場をよじ登る箇所があった。右手の渓流は、ここで滝となって清冽なしぶきを散らせ流れ落ちる。足を滑らせたり、ロープを放したら、無事では済まんなぁ…と覚悟を決めてロープにしがみつき、よじ登った。上へついて一息ついていると、後ろからおばあさん・お母さん・2人の小学生の女の子の家族連れがやってきた。「この岩場、登れるか」と見ていると、ひょいひょいと登って、休憩している僕に「こんにちは」と声を掛けて行ってしまった。
 家族連れにも置き去りにされたことを発奮材料にして登っていくと、途中で降りてくる夫婦連れに行き違った。「ここで半分ほどでしょうかねぇ」と乱れる息遣いを気づかれないように、渇いた喉から声を振り絞ってゆっくりとした口調で聞いてみた。「いえいえ、4分の1ぐらいですよ」といわれてガックリ! 後ろからきた奥さんが「峠は素晴らしい眺めですよ」と励ましてくれて、引き返すのを踏みとどまった。
 途中の山小屋「仙水小屋」が見えてきた。仙水峠への登山道の途中から小仙丈岳を望むここでほぼ半分の行程である。出発から1時間近くかかっている。
 後半、道はいよいよ険しく、しかも大きな石が重なり合っている足場の悪い登りになった。踏み跡もないので、道順を示すために、岩に赤い矢印が描かれていたり、潅木に赤い布やテープが巻かれたりしている。
 100mごとにリュックを外して腰を降ろし、ペットボトルを取り出して水を飲む。「これからはゴルフも、カートに乗らずに歩くぞ。」とこのときだけの反省をする。
 樹林帯が切れて岩場に出た。後ろを振り向くと絶景! 木々が色づいて山肌を一面に黄色く染め、その向こうに小仙丈岳(2885m)が聳えている。↑岩だらけの登山道 この岩の上を渡って登っていく
 この絶景ポイントに腰を下ろして弁当を食べている若い夫婦連れに、「あと、どんなものです?」と聞いてみると、「15分ほどですよ」という答えだ。『ということは、僕の足で30分ぐらいか』と自分に言い聞かせて、一歩一歩、岩から岩へ慎重に歩を運ぶ。
 と、突然、岩場が切れて平坦な道となり、視界が大きく広がった。仙水峠へ到着したのである。右は栗沢山へ、左は駒津峰を経て尾根伝いに駒ケ岳へと記した案内板が立っていた。
  峠の分岐点に立つと、眼前には甲斐駒ケ岳の威容が迫り、眼下には甲府盆地が広がっていて、そのかなたに関東山地の峰々が望まれる。ここまで、公称1時間15分、実踏2時間の山道を、何度も引き返そうかと思いつつ這うようにして登ってきた苦労に対して、報いるに十分な大パノラマである。人は、結果のかすかな喜びに、それまでの大きな苦しみを忘れることのできる特性を持っている。はるか100qを一望する絶景に、先ほどまでのしんどさはどこかへ飛んでしまった。目の前に迫る 甲斐駒ケ岳の山頂
 この景色を確保できる岩場を選んで腰を降ろし、「助六」をほおばる。480円のコンビニの海苔巻きと稲荷が、実に美味い。小ペットボトルの紅茶をたらふく飲んで大満足! 
 峠から駒ケ岳の山頂は、山肌を染める木々の一枝一枝がはっきりと見えるほど近くにある。→
 でも、左に延びる登山道をたどり、駒津峰から稜線を歩いて山頂までは3時間30分と書かれている。僕ならば5時間はかかるだろう。
 標高2264mの風を思いっきり吸い込み、一望千里の景色を目の奥に収めて、午後2時、もと来た山道を引き返した。最終バスの時刻まで約2時間。下りだから余裕がある帰路なのだが、ひざが笑う。途中で小学生の女の子2人とそのお母さん・おばあさんの家族連れに抜かれた。


 3日後の14日はゴルフ、鈴鹿CC西コース。アップダウンもほとんどないコースなのに、僕は相変わらず少しの距離もカートに乗って、歩こうとしない。



【27】アジアンレストラン 納屋橋「ななや」     (10.5)


 納屋橋のあたりをぶらぶらしてみようと、夕方から出かけた。名古屋というと栄や錦あたりに出かけることが多いが、納屋橋界隈はもっと庶民的なたたずまいである。
 そういえば、2年ほど前、先輩に案内していただいた「得仙」は、この界隈でアンコウ鍋を食べさせて人気の店である。深海魚のアンコウを甘味のだし汁で煮て、アン肝をすりつぶして味付けしたタレをつける。そのだし汁とタレが秘伝で、予約して10年待ちとか15年待ちとかいう人気振りであると聞いた。女将さんの鼻息も荒く、座敷に座って早速ビールを空けて、「お代わり」と頼んだ知人が、「あまり飲まれますとアンコウの味がわかりませんので、お控えください」と叱られて、「俺はビールを飲みにきとるんや」と抵抗していたのを思い出す。
 納屋橋の西詰めに新しいビルが建っていて、『アジアンレストラン ななや』はこのビルの1〜3階にある。各階で装いの違う内装が施されていて、リーズナブルな割りに味の良いアジアンメニューとともに、人気のある一因となっている。
 「空いてる?」と聞くと、土曜日のせいか「30分ほどお待ちいただいております」という。「空いたらケイタイ鳴らして」と番号を伝えておいて、さらに界隈を歩いてみた。
 堀川もキレイになったとみえて、屋形船の舫い場があり、夏の夕涼みにここから船を繰り出すのだろうが、今夜は2〜3艘の船が係留されている。川沿いに歩いてみたら、昔ながらの一杯飲み屋やファッションヘルスの店が軒を並べていた。気の置けない、下町感覚のたたずまいである。20分ほどでケイタイが鳴った。
 オマールえびのトムヤンクン、スペアリブと春巻きサラダ、キムチ石焼チャーハンを頼んだ。いずれも良い味を出している。近頃、辛味を舌が覚えてしまったようだ。




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