【183】 2009 政権交代の夏 −民主党が政権を取るということの意味− 2009.08.24
     

 全ては麻生総裁の選出から始まった。アキバ系の軽薄短な支持者に派手な黄色い声援を送られたからと言って、国民に人気があると勘違いした自民党が、彼を選挙の顔にしようと総裁に担いだところから、全ての歯車が狂いだした。いや、彼を担がねばならなかったことが、すでに歯車が狂いだしていたことの証しであった。
 「解散は、私が決める」との決まり文句を繰り返しながら、最早や麻生太郎には解散へ踏み切る自信も勝算もなかった。選挙の顔としての役割を期待されて登場した2008年9月に「解散」を打っていたら、以前にも書いたように【参照 166】、彼は間違いなく史上最短内閣の総理大臣として歴史に名を残していたことだろう。
 その後も勝機を見出せぬままに、「解散」はずるずると先延ばしされることになり、その間に、公務員改革の後退による渡辺離党、「ホントは優勢民営化に賛成でなかった」発言、盟友の中川昭一の酩酊会見による辞任、郵政人事を巡る鳩山邦生の離反、さらに、自身の国会答弁程度の漢字が読めないという無学さなどが露呈され、内閣支持率は下落の一方をたどるばかりであった。
 そして、政権発足以来、「解散は、私が決める」とただ繰り返しながら、一度も反転攻勢の機会を掴むこともなく、任期満了に1ヶ月も残っていない8月、追い詰められての「雪隠詰め解散」となってしまった。


 私はこのサイトへ、2002年から「健全な国へ、政権交代を(2002.4.15、【39】)」とか「民主党と自由党の合併−政権交代の切り札となれるか−2003.7.28、【67】)」等々、「この国を掃除するには政権交代が必要」と書いてきた。
 そして、2007年、安倍(晋三)内閣の崩壊で、自民党政権の終焉…すなわち次の総選挙において政権交代が避けられないであろうことを指摘し、「…政権交代が現実の重みをもって迫っている今、次の内閣を率いるものは、自民党政権幕引き内閣と揶揄されようと、、内政・外交に不退転の決意と責任を持ってあたる内閣総理大臣を望むものである【139】」と書いた。
 安倍内閣の「戦後レジウムからの脱却」に同調するところがあったし、安倍のあと、小泉改革を引継ぎ、安倍の志を継承する誰かが、その後の総理大臣を務めることに、まだ期待するところがあったのである。
 (この項の趣旨から逸脱して余談になるが、小泉純一郎はあと5年は改革を続行するべきであったし、そうすれば今の時期の政権交代はなかったと思う。小泉首相の退任により、改革は不十分なまま中断し、中途半端なものに終わってしまった。格差社会や原理主義社会を招いたなどと、現在噴出している問題は小泉改革にその源があるかのようにいわれているが、とんでもない話で、改革が継続して推進されていれば、構造改革による失業や非正規雇用へのセーフティネットは整備され、公務員改革は前進し、地方分権は多くを委譲されて、改革は完成を見たはずである。
 ところが、安倍内閣はその政治的稚拙さからいたずらに時間を浪費し、福田内閣ではその反動的体質から改革は頓挫…むしろ逆行し、麻生内閣に至っては改革どころか迷走するだけであった。その後の3内閣が改革を推進しなかった結果、社会に閉塞感を蔓延させ、国民の不信を買い、政権交代を招いたというのが、今日までの政治的状況である。)
 したがって私は、安倍のあとを継ぐ自民党総裁選が麻生と福田で争われるのを見て、「この自民党に期待するものは、何もありません。心置きなく政権交代を…【141】」と書き、福田内閣のスタートには「この内閣の政治体質は旧時代の自民党であり、この政治状況を改めるにはやっぱり政権交代しかない
【142】」、さらに、2008年、福田総理辞任には「日本が再生するためには、自民党政権の終焉が条件なのである【161】」と書いてきた。


 繰り返しになるが、今日の日本を掃除するには、政権交代しかないのである。政官業の癒着と続出する不祥事、膨大な特殊法人への天下りなどの官僚の横暴、崩壊している年金などの無為・無策ぶり、それらに対応できない政治の無能さ、国民の間のあきらめと政治不信などを見ると、この状況を招いた自民党長期政権の責任は大きい。
 麻生首相や公明党の太田代表は、選挙の演説で「責任を果たすことができるのは自公政権だけ」と声高に言っているけれども、今まで自民党・公明党に任せてきた結果がこれなのだから、今さら麻生太郎や太田昭宏に、それを言う資格はない。これまで政権を預かってきたのにできなかったという、自覚すらないのだろうか。
 ここは、わが国の政治の歪みや社会の澱みを是正して、この国のかたちを正すために、政権の交代が歴史の必然なのである。

 「民主党のマニフェストは財源を示しえないバラ撒き政策だ」という指摘もあるが、財源はあるのかないのか、見つけて来れるのか来れないのか、民主党にやらせてみるべきだろう。自民党がやったならば、昨日までと変わらない。50年間できなかったのに、明日からはやりますと言ったところで、泥沼に首まで浸かってきている連中にできるわけがない。
 政権の座にない民主党に具体的な政権構想を描けといっても、官庁から資料は届かず、官僚から正確な数値や報告が出てこない現状では無理な部分も多い。鳩山代表が言うように、「政権を取ったら具体的な財源や青写真を示します」と言うのがむべないところだろう。


 8月30日、日本の憲政史上に新たな1ページが開かれる。


 ならばその日から、経済は活性化し、官僚は心を入れ替えて働き、この国の仕組みは一新されるのだろうか。残念ながら、その前日と何ら変わらない日々が繰り返されることだろう。政権交代とは、そういうものなのだ。劇的に変わったりたら、むしろ社会は混乱してしまう。
 政権が移譲されるということで、社会に新たな緊張感が生まれるのが重要なのである。政権担当能力のある2大政党が存在すれば、お互いは責任ある政策を打ち出して政治に当たろうとするであろうし、国民の信頼をつなぐことができなければ野党に転落するから懸命に政治を行おうとする。
 万年野党が言う批判は責任のない論議でしかないし、万年与党は下野する心配もないのだから好き放題を繰り返すことになる。どんな不祥事を起こしても政権は安泰だとタカをくくって、空き放題を繰り返し、政治を私物化する。長年の自民党政権がそうであったように…。
 その政治状況が是正されるのが、政権交代が実現する、平成21年8月30日なのである。


 ただ、民主党の政権運営に対しては、ある程度、温かい目で見ていく必要があると思われる。不祥事とか失政をお目こぼししろというのではなく、景気も二番底に向かう恐れが多分にあり、失業率も上がってきている現在、悠長なことは言っておられないことはよく解るのだが、官僚の抵抗や、新しい制度を整えていく過程、手続きの不慣れなどから、スピーディに進まない場合を想定しておくことが必要だと思うのである。もちろん民主党は、その状況がなぜ生じていて、どのように解決していくかを、国民に丁寧に説明していく義務を負っていることを忘れてはならない。


 そしてもうひとつ…、極めて大事な視点がある。民主党は旧社会党系議員や保守系議員が同居する『モザイク政党』であることだ。集団的自衛権の行使、インド洋での海自活動、核保持への議論、国家公務員総人件費の削減、郵政民営化の抜本的見直しなどに象徴されるイデオロギー面を、どのように現実的な政治活動に対応させていくか、しっかりと見定めていく必要がある。
 特に、教育問題に関心を払わざるを得ない私としては、小学校教諭から日教組を踏み台として民主党参議院会長に就いている輿石 東に注目したい。日教組の会合で、「私は日教組とともに戦っていく」「教育の政治的中立はありえない」と述べている輿石は、組織率ほぼ100%と言われる山梨県教組の委員長を務めたのち、旧社会党から国会議員となり、現在は日教組の政治団体である日本民主教育政治連盟(日政連)の会長でもある。
 参議院会長として、党内に隠然たる力を持つようになった輿石が、民主党政権の誕生の暁には文科相として入閣するようなことがあったら、日本の教育は、国旗掲揚・国歌斉唱の廃止、ゆとり教育の復活、組合専従の公認…などといった、日教組色に塗りつぶされていくのではないかと危惧している。
 全労連や連合などの労働団体を支持母体とする民主党が公務員改革や給与・総員の削減を本当に出来るのか…、輿石を初め横路・赤松など旧社会党出身議員が中枢に居て憲法や核保有・対北朝鮮などに関する正当な論議が可能なのか…。民主党が内在させるイデオロギー問題を克服し、国民から信頼される政治を実現する象徴として、まずは偏向したスタンスで教育をもてあそぶようなことをしないよう、しっかりと見守っていかねばならない。


 政権交代は、歴史の必然である。


 その歴史の教訓として、戦前、二大政党時代を実現しながら、足の引っ張りあいとスキャンダルにまみれて、国民の政治不信を招き、結果として5・15事件、2・26事件を引き起こして軍部の台頭を許した、民政党と政友会の抗争を忘れてはならない。民主党も自民党も、政党本来の国家観と政策をもって政治に当たることが肝要で、謀略や相手への誹謗中傷によって政権を奪取しようなどとしてはなるまい。
 そこで、民主党は政権を取ったらモザイクを一枚岩にするために、徹底した党内議論を繰り返し、揺るぎない政治姿勢を示して、政治の安定を図る必要があろう。民主党政権が、短日の間に国民にソッポを向かれ、崩壊の憂き目を見るならば、「またしてもか、民主党」という怒りは、民主党にとって致命的である。政界再編をも視野に入れて、安定した政党としての基盤を築き上げることが、日本の将来を拓くために、何よりも求められている民主党にとっての最重要課題である。


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