【186】 民主党よ、天皇を政治の道具に使うな!       2009.12.14


 9月16日に民主党新政権が発足して、15日でちょうど3ヶ月が経った。新しい政権の施策については、少々の失政があっても慣れないことだから3ヶ月ぐらいは大目に見ていくことが必要だろうと思い、ヨロヨロ…ボロボロの民主党政権を「いずれ行き詰る」といった程度の先の見通しを示すだけで、個々の政策や言動に対しては何も言わずに来た。
 3ヶ月が経ったから言わせて貰う…というわけではないが、ちょうど3ヶ月目の今日、民主党は見過ごすことの出来ない過失を犯した。
 鳩山首相が天皇陛下と中国の習近平国家副主席との会見を30日ルールという慣例を無視し、特例措置として認めさせたこと。また、小沢民主党幹事長は「天皇陛下の韓国ご訪問は、韓国の皆さんが受け入れ、歓迎してくださるなら結構なことだ」という発言をしたこと。そして今日、習近平国家副主席との会見は特例ではないとして、「憲法に、天皇陛下の国事行為は国民の選んだ内閣の助言と承認で行われると書いてある」と発言したこと…である。


 憲法の第1章「天皇」には、天皇の国事行為について、次のように記されている。
 『第3条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその
     責任を負ふ。
  第4条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有し
     ない。
  第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
   1号 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
   2号 国会を召集すること。
   3号 衆議院を解散すること。
   4号 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
   5号 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の
     信任状を認証すること。
   6号 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
   7号 栄典を授与すること。
   8号 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
   9号 外国の大使及び公使を接受すること。
   10号 儀式を行ふこと。』
 これらから、今回の習近平国家副主席との会見を「内閣の助言と承認を必要とする国事行為」とすることはできない。習近平氏は、天皇陛下が接受すると定められている「外国の大使及び公使」ではないからである。
 よって、習近平氏との会見は、外国親善旅行や災害罹災地へのお見舞いなどと同じ、「象徴としての地位に基づく公的行為」と理解するべきである。ならば、事前の調整が必要であり、内閣や与党幹事長が宮内庁などの関係先と打ち合わすことなく決定してよいものではない。
 

 小沢幹事長は記者会見で、「天皇陛下の行為は、国民が選んだ内閣の助言と承認で行われるんだよ、すべて。それが日本国憲法の理念であり、本旨なんだ。だから、何とかという宮内庁の役人がどうだこうだ言ったそうだけれども、全く日本国憲法、民主主義というものを理解していない人間の発言としか思えない」(読売新聞)と言っているが、天皇の行為は全て内閣の助言と承認で行うということ自体が間違っている。
 憲法は、第3条にあるように、国事に関する天皇の行為については内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負う…といっているが、国事行為以外については内閣の助言や承認など全く認めておらず、内閣が天皇に関して何らかの権限を有しているとは記していないのである。


 今回の習近平氏との会見は、600人もの人員を引き連れて中国を訪問し、歓待された小沢一郎の、中国への返礼である。
 そもそも、国家元首、首相、大統領級の来訪以外は、よほどの必然がある以外、天皇陛下が接見されることはなかった。国家副主席の習近平氏が、30日ルールという天皇に関する慣例を破って接見することは、異例中の異例である。なぜ異例を押し通さねば成らなかったのか…を考えてみれば、鳩山、小沢のご都合がみえてくるであろう。
 羽毛田信吾宮内庁長官が述べた特例会見への経緯、「中国副主席との会見の申し出が1か月を切った段階(11月26日)で外務省から宮内庁に内々にあり、ルールに照らして(翌27日に)応じかねるとの回答をした。外務省も了承していたのだが、その後(12月7日に)官房長官から、ルールは理解するが日中関係の重要性にかんがみ、内閣としてぜひ会見をお願いするという話があった。
 私としては、1か月というのは事務的に作ったルールにすぎないとの考え方もあるが、陛下をお守りするため政府内で重視されてきたルールであり、国の大小や政治的に重要な国であるかどうかにかかわらず尊重してほしいと申し上げた。
 しかし再度、総理の指示ということで(12月10日に)話があり、大変、異例ではあるが、曲げて陛下に会見をお願いした」(読売新聞)を読んでも、鳩山・小沢サイドからの強い要請が見えてくるだろう。
 繰り返すが、今回の特例会見は、今まで行われてきた外国元首級の来訪者に対する接見という取り扱いから外れているし、特例を設けなくてはならない必然性もない。鳩山・小沢、民主党の、ごり押しで実現させた接見である。


 この羽毛田長官の「(今回の特例措置は、天皇陛下の)政治的中立性に懸念が生じる」という発言に対して、小沢一郎は、「内閣の一部局の一役人が内閣の方針、内閣の決定したことについて会見して、方針をどうだこうだと言うのは、日本国憲法の精神、理念を理解していない。民主主義を理解していないと同時に、もしどうしても反対なら、辞表を提出した後に言うべきだ」と述べてもいるが、ことは従来から批判されてきた一省庁や一部のものの権益を守るための官僚の画策ではなく、日本国民の象徴たる天皇の地位・存在、そしてご健康を考慮しての発言である。むしろ、党益や個人的立場から特例を実現させようとしたのは、鳩山・小沢の側である。天皇陛下を貶(おとし)めるような扱いをすることは、日本国と国民を貶めることである。
 民主党のいう『政治主導』とはこういうことなのか。私利私欲でなく、国のため、社会のためを思って発言することも、「一官僚が何を言うか。辞表を出してから言え」とは、驚くべき独裁主義で、それこそ民主主義を理解していない破壊者と言うべきだろう。

 
 また、小沢一郎の「憲法に、天皇陛下の国事行為は国民の選んだ内閣の助言と承認で行われると書いてある」という発言には、「だから、内閣が必要と認めたことを天皇は行え」というニュアンが見え隠れするのも気になるところだ。
 天皇陛下を政治の道具に利用することは、日本国民の象徴を恣意的な自分たちの思惑に沿って動かそうとすることである。天皇は日本国民の象徴なのだから、安らかに居ていただくことが、国民の心を安泰に保つ方策であり、日本の国の政治をするものがゆめ忘れてはならないことである。政治上犯してはならない禁忌に無神経に手を突っ込んで反省もない発言は、この秋の衆院選で300議席を獲得したことのおごりだろうか。
 今回の特例会見に必然はない。すべて、鳩山、小沢の都合から生じた特例である。政権発足から3ヶ月が過ぎた。民主党政権の迷走ぶり、頼りなさ、脇の甘さは、目を覆うばかりだが、加えて今回、日本国民の心を軽んずる行いを強行したことは看過できない。民主党は気持ちを引き締め直して、これからの政治にあたることが必要であると思われる。
 

 PS  今日15日、天皇陛下と習近平国家副主席の会見が報じられた。新聞に掲載された、握手をする写真を見ても、何かしら陛下がおいたわしくて、この会見を喜べない。
 本来、日中の将来のための会見のはずなのに、その目的とは裏腹に、やはり中国は中華思想の国であって無理難題を言う。中国で歓待を受けた小沢はその無理を聞かざるを得ないし、小沢の以降を鳩山は実験せざるを得ない…といった感想を抱いたのは、私だけだろうか。


  
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