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【134】 2007参議院選  自民党歴史的大敗 与党過半数割れ  2007.07.29


 第21回参院選は29日投開票が行われ、自民党は獲得議席が30台後半にとどまる歴史的な惨敗を喫した。参議院で自民・公明の与党は過半数(122)を割って与野党が逆転、安倍首相は引き続き政権を担う考えを表明したが、厳しい政権運営を迫られる。
 一方、民主党は32の改選議席を60議席以上と大幅に増やし、初めて参院第1党に躍進、参院議長ポストとともに参議院の運営で主導権を握ることとなった。


 30日 午前5時確定 自民 公明 社民 共産 民主
  当選者数 ()内は比例    37(14)   9(7)   2(2)   3(3)   60(20) 
公示前の議席数 64 12 32


 岡山では、片山虎之助参院幹事長が民主党の新人姫井由美子氏に敗北。「参院のドン」と呼ばれる青木幹雄参院議員会長もお膝元の島根で、前職の景山俊太郎氏が国民新党の新人亀井亜紀子氏に苦杯をなめる結果となった。
 わが国の政治情勢と選挙民の動向に、大きなうねりが生じていることの現れであろう。島根・鳥取といった揺るがぬ自民党の地盤が揺らぎ、四国の4県では全て現職がひっくり返されている。1人区の勝敗を表にしてみると、下のようになる。

1人区の数 自民党 民主・野党
2001年 参院選 27 25
2004年 参院選 27 14 13
2007年 参院選 29 23

 地方において自民党の地盤が音を立てて崩れていることが見えてくる。
 もともと、自民党には地方組織というようなものはない。2000年の三重県参議院補選の最中に、私は「自民党三重県連は腐っている」と言って当時の幹事長と大喧嘩…。「自民党は自分党だ」などと公言して組織的な選挙戦を無視し、参院選も自分の市議選のための手段としか考えていない事務所責任者の自民党市議を、「寄生虫か、ダニか」と面罵して大もめ…。結果、惜敗して、幹事長と寄生虫の責任を追及するも、あとの祭りであった。それ以後、自民党は変わっていない。


 土建屋を初めとして、郵便局、医師会など、その利益を守ることを前提に、彼らを手足として選挙を戦ってきた自民党には、候補者個人とつながる人や組織はあるとしても、自民党本部や県連が声をかければ、電話をかけ、ビラを配り、ポスターを貼って、集票マシンとなる、人や組織はない。労働組合や連合の上に乗る民主党との、決定的な違いである。
 それがわかっているのに、組織を整備しようとする動きはないし、そんな人もいなかった。県連会長を初め幹部連中にも、そんな意識も…危機感もない。だから、「この組織は腐っている」と言ったわけだ。
 組織を整備することなく小泉構造改革へ突入していった自民党は、医療制度改革で医師会の支持を失い、郵政民営化で特定郵便局長会の支援を失い、公共事業削減で土建屋は動かず、地方の不況で商工業者の…、長年の農政失敗で農家の…票を失い続けてきたのである。
 こう見てくれば、政治に対する信頼と自らの組織力を失い続けてきた自民党は、敗れるべくして敗れたと言わねばならない。
 

 自民党の大敗は、今日の現実である。政治も国民もこれを受け止めて、ここからまた新たな出発をしなければならないのだが、安倍首相はいち早く続投を明言している。
 選挙戦の中盤から、自民党の幹部たちは「首相の責任は問わない」と口をそろえていたのを見ても、敗北は覚悟の上であったのだろう。これほどの大敗とは思っていなかったけれど…。しかし、安倍首相に代わる首相候補がいない現状なのだから、すでに古賀元幹事長が「辞任は本人の判断」とコメントしたように、引き摺り下ろそうとする動きは大勢にはならない。
 どうしても辞めなければならない新しい材料(選挙責任者の引責自殺のような…。ンなことはないか…)が出てきた場合を別として、党内各派に格段の配慮をしながら続投ということになる。内閣改造は避けられないところで、派閥均衡挙党一致内閣の色が濃くなるのは仕方がない。
 

 これからの安倍内閣の課題は、政治改革を目に見える形で進めることである。国民の支持を得やすい公務員改革を主軸として、自治労などの支持母体との関係でジレンマのある民主党との対決を、国民に判り易い形で示しながらしっかりと進めていくことだ。
 教育基本法の改正、国民投票法案、イラク・在日米軍支援特措法、少年法改正…などなど、戦後レジュウムからの脱却を掲げる安倍首相は、どこかに忘れかけていた日本的ナショナリズムの回帰を漂わせて、今までの内閣が企図しながら手がけることのできなかったそれなりの成果を、次々と挙げてきている。
 ここで、安倍改革を頓挫させることは惜しい。『改革を止めてはいけない』と叫びながら、安倍首相は選挙戦を戦っていた。手がけている仕事を、やり遂げたいという強い思いを持っていたのだろう。それにしては、閣僚の失言やカネの問題の処理など、脇が甘かったけれど…。
 政局に大きな動きがなければあと2年、次回の衆議院選まで、改革の推進を見守りたい。公務員改革は、本当にあるべき姿で実現するのか…。またまた、政治資金規正法改正のときのような、「5万円以下は領収書は要らない」といった程度のあいまいなものであったら、自民党そのものの屋台骨が揺らぐことになるだろうし、「あのときに辞めさせておけばよかった」と臍を噛む国民の記憶に、安倍晋三は堕ちた政界サラブレットと記憶され、父親の…祖父の名声に泥を塗ることになる。
 これからの2年間、改革の実現に向かって、強い意志を持ち、鬼神の働きをする姿を見せねばならない。その過程で国民の支持を回復し、2年後の衆議院選に自民党の勝利を得ることが、最大の政治課題といえるだろう。


 民主党は…、途中から合流した小沢氏のイニシアティブで獲得した大勝利に、党内事情は複雑である。
 それと…、小沢代表の体調が気になるところだが、今日は「おめでとう」とだけ言っておこう。その展望と課題は、また近日…。





【133】 参議院選スタート 保革逆転必至          2007.07.14


 第21回参院選が12日に告示された。与野党どちらが、参院全議席(定数242)の過半数122を制するだろうか。
 非改選(定数121)の勢力は、自民、公明両党などの与党系が58、民主、共産、社民、国民新各党などの野党系が63。改選数121のうち、過半数確保に必要な議席数は、与党系が64、野党系が59。公明党が目標としている議席13を確保できた場合でも自民党は前回2004年の49議席を上回る51議席を獲得しなければならない。


 以前、まだ国会開催中、この選挙で参議院における与野党逆転は必至だと書いた【参照】。それは社会保険庁や政治とカネに対する国民の怒りの表われであることは確かだけれども、時代の要請でもあると思うからである。


 現在の日本には社会保険庁の問題に象徴されるように、自民党長期政権の塵や芥が溜まりに溜まっていて、これをキレイにするには政権交代が必要なのだ。長い年月をかけて、目に見えないところに沈殿した澱(おり)のようなものは、人間が英知を傾けて法律を作り、制度を変えたとしても、知恵や手段では取り除けるものでなく、政権交代という視点の転換なくしては掃除ができないものだからである。
 自民党長期政権の弊害は、何といっても政官財の癒着を生み、談合・金権・腐敗構造の社会を形成してしまっていることだろう。ひとつの勢力が長く権力の座にいると、避けられない弊害なのかもしれないが、それにしても日本の政界・官界・産業界に根を張った利権・特権構造は見逃すことはできない。


 政界における「政治とカネ」の問題にしても、自民党の改革案は、今にしてもやはり民意からかけ離れて生ぬるく、民主党はより緊張感を持ったものを提示している。今は反対党としての厳しさを提案しているのであって、政権党になれば権力に驕ることになるのだとしても、そのときは政権をスベルことになるのだから、政権交代の重要性は理解されよう。


 社会保険庁に代表される官界の傲慢・無責任・無能ぶりは、やはり単独政党の長期政権が生んだ弊害である。失われた10年を経てもなお上昇できない経済…、昨年12月には「+成長が59ヶ月続いていて、1964年の東京オリンピックの翌年から始まって57ヶ月続いたいざなぎ景気を超えた」と政府は発表しているが、真っ赤な嘘である。
 この間、国民の実質所得は確実に低下しているし、ゼロ金利政策を続けて本来家計に入るべき膨大な収入が、政府(国債)と金融機関に吸い上げられている。もし今、金利が3%あれば、日本の個人金融資産は1500兆円だから45兆円の増加が見込まれよう。税金・経費を引いても30兆円の収入が家計から失われているのである。なぜ、日本の国民は暴動を起こさないのだろうか?
 ゼロ金利政策で、日本は大きな国益を損ねていることも指摘しておかなくてはなるまい。利益を内部保有にまわす傾向が強い日本の会社は、株主への配当を優先する外国の会社に比べて株式配当は低く、このため企業の時価総額が安くなる。割安感の強い日本の会社の株式が、安い金利で円を調達した外国の投資家・ファンドに買われているのである。一説には、株価の押し上げに貢献しているという見方もあるが、日本の公開株式の28%を外資に買われ、技術力や製品完成度の高い企業が、敵対的TOBの脅威にさらされている。
 国家が企業を経営している中国などが、5月から解禁された三角合併などの手法も使って、日本の企業の買収にかかったとき、防衛の手段はあるのだろうか。例えば、日本最大の三菱UFJの上場時価総額は14兆4千億円、中国銀行は18兆8千億円(1兆2千億元)、中国工商銀行に至っては26兆9千億円(1兆8千億元)もあって、日本の銀行をいくつでも買収できてしまう。
 日本経済が世界で評価されていないことの現れである「円安」…などなど、財務省、金融庁(内閣府)・通産省、そして日本銀行と、日本が得意であったはずの経済関係省庁にもその無能振りが目につく。
 さらに、ここ30年間、何一つとして解決できた案件のない外務省、薬害エイズ・医師不足・年金と問題が噴出している厚労省、学力低下を招いて為す術のない文科省…と、こう並べてみると、官僚の無作為・無責任・無能さは疑うべくもない。官僚をここまで堕落させたのは、政治の責任であり、なかんづく自民党一党独裁が生んだ弊害である


 参議院選は、政権交代を決定する選挙ではない。保革逆転が必死となった今も、安倍首相の退陣論が浮上しないのは、年金問題は安倍首相の任期中に生じた問題ではないということと、敗北が必死であることが却って責任論を沈静化させているのである。これだけ杜撰な年金処理を見せられては、誰がやっても敗北は避けられないということだ。先の国会で安倍首相が見せた強行採決の連発は、逆転を見越して「今通さなければ、選挙後には通らない」との決意の表われであったのだろう。
 小沢民主党代表の、「負ければ政界を引退する」という発言(本人はマスコミ先行の言葉だといっているが)も、余裕の表われである。ただ、民主党においても、結党以来の鳩山・菅に、古い自民党を代表する小沢が加わった体制は、すでに役割を終えている。
 この意味で、参議院での与野党逆転は、政界再編への模索を誘発することだろう。衆議院で可決して回ってきた法案が、ことごとく渋滞し廃案になってはたまらない。政権を死守しなければならない安倍自民党は、自分たちよりもまだ右寄りだという評判の民主党前原グループに手を入れるか。民主党としても、今のままの極右から極左までの寄り合い所帯では、政権担当は覚束ない。一度は通らねばならない、解党的整理の道である。
 この参院選で自民党が大敗して、参院の運営が二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなったら、政界大再編の形を整えた上で、衆議院の解散である。いよいよ政権を手にすることができるというときに、民主党は存在するのか? そこまでの可能性を内在させながら、あと2週間…、7月29日に保革逆転の参議院が実現する。




【131】 豚肉入り牛肉コロッケで またまた大騒動         2007.06.26
     − 変わっていない 業界体質と監督官庁の無責任ぶり −


 北海道苫小牧市の食肉加工販売会社「ミートホープ」(田中 稔社長)が豚肉などが混入したミンチを使って冷凍の牛肉コロッケを製造していたという食肉偽装問題で、新聞・テレビが大騒動である。
 ことは、コロッケ偽装だけに終わらずに、ハンバーグなどひき肉を使った食品全体に広がり、混ぜ合わせたのも豚肉だけでなく鶏肉やウサギの肉も入れていたとか、油身の白っぽさを赤身の肉に偽装するのに牛の血を加えていたなどの事実が次々と発覚してきた。混ぜ合わすための画期的な機械を作ったとして、北海道庁の推薦を受けた農水省は「攪拌(かくはん)機付きひき肉製造器の考案」などの業績を称えるとして、「創意工夫賞」を贈っている。田中社長は大いに勇気付けられて、攪拌に拍車がかかったことだろう。
 ミートホープ社は返品された冷凍コロッケを安く買い取り、賞味期限を改ざんして転売していた疑いなども発覚して、事件は監督官庁の北海道庁や農水省の責任を問う声も出始め、朝・昼・夜、どこのチャネルを回しても「食の安全」などとキャスターが叫んでいる。


 思い起こすのは、2001年、雪印食品が輸入肉を国産と偽って申請した偽装事件である。次いで日本食品、そして日本ハムの子会社の日本フーズでも同様の偽装が発覚…、雪印食品は売り上げの大幅減少などから会社解散に追い込まれた。
 牛肉以外でも全農チキンフーズが輸入鶏肉を鹿児島産の若鶏として納入するように指示。さらに食肉卸大手スターゼンが白豚に黒豚のラベルを張るなどの不正が相次ぎ、国民の食への信頼を薄れさせたとともに、大手メーカーだから安心という神話を一気に崩したのである。
 雪印食品の不正を告発した西宮冷蔵が倒産に追い込まれたことにも、この国の正義を守れない社会のしくみに深い失望感を味わった【参照@】のだが、こうした大きな犠牲を払いながらあれから6年、日本の食を取り巻く環境はなんらの改善もなされていないことを思い知らされ、改めて愕然としている。


 雪印の事件を受けて、当時、私は「偽装表示なんて朝飯前で、食品業界は何でもありだ」と書いた【参照A】。コシヒカリでないのにコシヒカリのラベルと明記されていたり、栽培農家が表示されていながら実際にはそんな農家が存在しなかったり、輸入牛肉が黒毛和牛として売られるのが、それほど珍しいことではない世界であった。
 大きな社会問題となって、その反省の上に業界の取り組みも社会の仕組みも改められたはずなのに、また全く同じ誤りを繰り返しているのである。しかも、昨今には、アメリカ産牛肉のBSEや遺伝子組み換え作物、中国野菜の農薬残留など、問題が国際的になってきて、より深く注意を注ぎながらの対応が求められるようになっている。それを、国内の食肉の大もとで6年前と全く同じ問題を起こし、大騒ぎしているとは、何という取り組みの甘さだろうか。
 業界の体質も劣悪に過ぎるというものであるが、監督官庁や農水省に責任の自覚がないのも困ったものである。偽装表示の食品の流通防止や外国産の食品の安全については、都道府県の生活環境課や保健所、そしてもちろん農水省がその責任を負わねばならない。赤城農水相の会見を聞いていても、マスコミの報道を見ていても、基本的にあるべき行政の管理責任が喪失しているのではないかという危惧を抱いた。
 

 この問題の再発を防止し、日本の食の安全を守るには、6年前と全く同じ主張を繰り返さなければならないが、やはり監督官庁の監視を強化し、責任を厳しく問うことだろう。
 松岡前農水大臣の自殺という激震に見舞われた農水省だが、ここは国民の食の安全を守る責任があるのだということをしっかりと自覚して、抜本的な取り組みをするべきである。監督管理機関を置いて業者の指導啓蒙を推進し、流通している食品の検査を常時行うことである。
 もうひとつ、責任を取らない公官庁・官僚・公務員の体質を一掃し、社保庁のボーナス返上を契機として、信賞必罰の就業体制を確立することも、公務員改革の主要な眼目である。




【130】 出口の見えない年金問題             2007.06.20
      − 参議院選挙での保革逆転必至、ここで民主党は… −


 安倍内閣の支持率が、大きく下落している。中日新聞(6/3)では支持する35・8%、支持しない48・7%。読売(6/8)は支持する32・9%、支持しないは53・7%で、産経(6/5)は支持する32・3%、支持しない50%近で、いずれも昨年9月の内閣発足以来、最低となった。
 内閣支持率が政権評価の全てではないが、戦後レジュウム(体制)の脱却を掲げて、小泉前首相の路線を踏襲しながら、憲法改正・公務員改革・教育改革を大きな柱として新しく美しい日本を築こうと船出した安部政権のスタートは、保守本流の切り札として期待感も大きく、内閣支持率は63%、不支持率は18%(朝日、2006.09.27)。発足時の支持率としては小泉内閣の78%には及ばないものの、最近では橋本内閣の61%を上回る、戦後歴代3位の高水準であった。
 安倍内閣は発足から8ヶ月、圧倒的な衆議院与党の議席数にも支えられて、教育基本法の改定、国民投票法案、公務員改革法案、防衛省昇格など、戦後日本の積年の課題でありながら歴代の内閣が手をつけられなかった問題についての法案を次々と成立させ、また、中国・韓国を初め中東各国の歴訪を果たすなど、それなりの仕事をしてきている。
 しかし、ここに来て一気に燃え上がった「年金記録紛失問題」は、国民をないがしろにしてきた社会保険庁と、それを管理する政府・与党の責任を厳しく問うものになり、阿部内閣の支持率を冒頭の数字に押し下げている。


 長妻 昭衆議院議員(民主党)が初めて年金記録の紛失の問題を取り上げたのは、昨年の6月…、まだ小泉政権時であった。当時の官邸では「たいへん深刻な問題」とひそかに対応を協議していたのだが、9月に政権が交代して話はうやむやとなっていたところ、『5000万件の年金記録が紛失』という衝撃的な数字が新聞紙面を踊り、内閣支持率の急降下で政府与党は国民の怒りの大きさを思い知らされることとなった。「支持率は上下するもの」などといった戯言(ざれごと)をかましている数字ではなくなっていた。
 危機感を抱いた官邸は、早急に対応策を厚労省と社保庁に求めるが、提出されたものは何十年も前の領収書を提出しろというような「新対応策パッケージ」(社保庁5/25発表)と変わらないもので、まだ能天気に「照会の申出を勧奨する」などと書かれていた。「こんなものでは国民は納得しない」と政治主導を決意した官邸は、「認定のための第三者委員会」を信頼を失った厚労省に担当させることを避け、総務省内に組織することを決めたのである。


 だが、この第三者委員会は、保険金納付の認定を厚労省や社保庁から切り離して行うというだけのもので、納付者は何らかの納付を証明するものを示さなくてはならないのだから、何十年も前の領収書などあるわけがないものをどう認定するかという根本的な問題は解決されない。
 どこまでも参院選をにらんだ時間稼ぎであり、選挙後は証明できないものは認定は難しいということを、厚労省や社保庁でない(政府が選んだ)第三者に言わせるだけのことである。『証明できないものは認定できない』のである。第三者機関に委ねても、その結論しか出ないということで、結果にお墨付きを与える手続きとしたいという意図である。
 同時に、厚労省や社保庁を年金問題の矢面から外し、国民の批判をかわす狙いもあるのだろう。社保庁を解体して、年金機構に組織換えするというのも同様の狙いである。現在、噴出している問題にケジメをつけるところに新しい組織の姿が見えてくるのであって、問題を解決できないままに新しい組織を作ったとしても、責任追及を絶つための手段だとしか見られまい。


 これでは、国民の納得を得ることはできない。納付の証明のないケースにどう対応するかは難問である。何の証明もない申告をその通りに認めれば不正受給を招くし、証明を求めれば救済にならない。それでも、納付記録の紛失という、国民の年金を預かるものとしてあってはならないミスを犯したことへの対応策を講じるのが、管理者としての責務である。
 国民の納得を得る結論はただひとつ、全ての人が得をする給付を実現することだ。政府与党が国民の信頼をつなぎとめようとするのならば…、あるいは民主党が政権を奪取して本気で国政を担う覚悟があるのならば…、『国民全てに最低月額65000円。プラス、判明している上乗せ分を全額支払っていく年金制度にする』ぐらいの提案をすることだ。現在の年金基金に加えて、構造改革を実施すれば、財源を確保するのはそれほど難しいことではない。


 7月の参議員選挙で、保革逆転が実現するのは確実だろう。


 ホント、この国の政治は国民をなめきっている。社保庁問題に象徴されるような、長い自民党政権は政治や社会の仕組みのあちらこちらに、埃(ほこり)や澱(おり)のようなものを沈殿させてきている。これらは摘発や改革といった人の手で行う処理ではどうしようもなく、政権交代という理念や姿勢の大きな転換が必要なのだと思う。
 しかし、絶好の材料が転がり込んできて、政権交代の芽が出てきた民主党の足腰はどうだろうか。先日の党首討論を見ていても、年金問題に腰が引け 松岡農水相の葬儀に逃げたい安倍首相に対して、小沢代表はするどく切り込み追い詰め…、久々の圧勝かと思って見ていけれど、相変わらずの歯切れの悪さ…。
 国がはたらいた振り込め詐欺に対して、「社保庁の改組・時効の撤廃」などという、何の具体的な解決にもならず、被害者のほとんどは救済されない政府案を示され、さらに「申請があったものは全て支給しろと言うのですか?」という安倍首相の一言に、「国民の立場に立った改革をと申し上げているのでありまして…」なんて情緒的なことを言うのが精一杯…。
 せめて「今回の事態を招いた当事者として、受給者に不利をもたらさない方法を具体的に示すべきでしょう」ぐらいの詰をしてほしい。そして、案を示せと言われれば『 国民全てに最低月額65000円。プラス、上乗せ分を支払う』と提言すれば、民主党の政権獲得は確実なのだが、そこまでの構想も腹もないというところか。
 加えて、「年金記録紛失問題」は民主党の長妻議員のコツコツとした取材と追求によって明るみに出たわけであるが、巷間伝えられるように、内部告発でしか判りえない記録の紛失という不祥事は、社保庁解体を図る安倍政権に揺さぶりをかけようとする内部組織…ありていに言えば自治労職員からの情報であったとすれば、社保庁という組織は外殻も中身も腐っていると言わねばならない。
 「45分働けば15分の休み」とか「1日のCPのキー操作は5000回まで」などといったサボることだけを目的とした労使協定を結び、ぬるま湯の組織が解体されるとなると自らの恥をも告白して揺さぶりをかける自治労こそは、諸悪の根源と言っても過言ではない。そんな組織を支持母体としている民主党が、真の国民政党に脱皮できるかどうか、自浄努力が問われているところである。


 政局は、参議院の保革逆転を契機として政界再編成が行われ、衆議院解散へと進めば、ひとつの形が見えてくるのだろう。安倍首相の言う「戦後レジュウムからの脱却」は、汚濁にまみれた政治(官僚)体制を国民の手に取り返し民主化することによって、ひとつの完成を見るのだろうから…。




 しっかし…、当面の年金問題のケジメはどうするんだ! 

 
 当時の厚生大臣、社会保険庁長官、年金局長、担当課長と職員全員の、ここ20年間のボーナスと退職金を返上してもらいましょう。
 刑事告訴もしましょう。でも、75日で時効ですから…って 門前払いかなぁ(苦笑)。日本の司法は 行政とグルですからねぇ。
 ここにも、脱却しなければならない、戦後レジュウムがありました。





【129】 松岡利勝農水大臣 自殺 −安倍首相の責任と参院選− 2007.05.28


 28日正午すぎ、新装成った赤坂の衆議院議員宿舎の1102号室で、松岡利勝農水相が首をつって自殺を図り、午後2時、搬送先の慶応病院で死亡が確認された。
 安倍内閣の発足に際して、私は以前、このサイトの【118】に松岡氏の入閣に、「この男、危ない」と書いた( http://www.ztv.ne.jp/kyoiku/Nippon/118abestart.htm )。 故人についてそれを蒸し返すつもりもないが、昨今の事務所費問題、監督すべき緑資源機構からの献金…など、やっぱりと思っていたところ、今日の午後1時30分、NHKが番組を中断して伝えた「自殺」には、さすがに驚ろいた。
 そんなやわな男だとは思ってもいなかったのだが、強面(こわもて)な男ほど打たれ弱いということか。自ら命を縮めるぐらいならば、「辞表」を書く勇気をなぜ持てなかったのか…。
 その意味で、安倍首相は責任を問われることだろう。松岡氏に彼なりの論理で説明させ(あるいは謝罪であったかもしれないが)、進退を選択させれば、この結果は招かなかったのではないか。内閣の面子ばかりを重んじて、かたくなにボストを守らせるばかりでなく、辞任という選択を与えてやらなかったことの責任は問われるところである。
 松岡氏が農水大臣のポストに留まることは、大きな無理があり、激しい批判にさらされなければならないことであった。今の巨大与党ならば、批判を覚悟すれば、松岡氏を残留させることも、問題を解決する道筋を示さないままに社会保険庁を改組する法案を可決成立させることと同様、思うままに操ることができてしまう。
 こんな政治の現状を前にしての松岡氏の自殺が、安倍内閣に与える打撃は大きい。国民も、先の郵政選挙で、自民公明に300を越える議席を与えたことの危うさに、ようやく気がつくのではないだろうか。
 憲法改正、防衛省への昇格、教育基本法の改定と教育三法の成立…など、安倍政権の仕事はそれなりの事跡を残しているのだけれど、圧倒的な議席数にタカをくくって、批判に丁寧に対応せず、正面突破を敢行してきた結果がこれである。百万人でも我行かん…と、批判を一手に引き受けて進むには、松岡氏の精神は繊細すぎたのであろう。安倍首相は、その点を読み間違えた。国民の触覚は、安部政権の国会運営のひずみが招いた惨劇と捕らえることだろう。
 これからの政権運営は慎重にならざるを得ないだろうし、参議院選への影響は必至である。自民公明の与党に議席を与えすぎることの危うさを、国民は警戒するだろうから…。


 しかし、この自民党を、民主党は追い詰めることができるかどうか…、私ははなはだ頼りないと見ている。松岡氏の自殺によって国民の中に掘り起こされた強権与党への警戒感と、国が詐欺を働いていると言える年金問題が明らかになってきている今日、これらの点を明確な争点に挙げて戦えば、民主党は参院選に確実に勝利することができるだろう。
 が、今の民主党に、これらの問題を争点として国民に訴えていく力があるかどうか…? 繰り返すけれど、私は民主党にはそれだけの論理力がない…、自民党に矛先をかわされて論点をぼかされ、焦点の定まらない選挙をまた繰り返すのだろうと思う。
 民主党を中心とする野党勢力に参議院での過半数がほぼ確実と言えるほどの材料があり、参議院を拠点として民主党政治を国民にアピールする絶好の機会が訪れているというのに、自公の衆議院議席の多さに為す術もなく牛耳られている姿を見ていると、この政党に期待することが無理なのではないかと思えてくるのである。
 この国のために、政権交代は必要なプロセスである。この国が抱える問題の根底部分は、政権交代で洗い直さなければ正常にならないと、私はかねてから主張している【参照】。政官業の癒着・利権体質や公務員改革、機密費・裏金…、そして今回のような政権のおごりは、政治を停滞させ、政治不信を生み出す。
 だから、民主党にはがんばってほしいのだ。政治の歪みや澱みを是正してこの国のかたちを正すために、健全な野党が育って政権交代を何度か経験し、政界再編を行っていくことが必要だろう。政治は利権・癒着を断ち切り、経済は甘えの構造を変革し、国民は自らの責任において日々を生きて、将来に拓けた日本を築き上げていきたいと思う。


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