【寺子屋騒動2、昭和48年12月           寺子屋トップページへ


   三重県教育センター スタート − 生徒集め −        2005.12.15


 生徒用の180×90cmの長机10脚、折りたたみ椅子20脚を、章くん、取引のあったコクヨの三重支店に発注。卸価格だから半値ぐらいで入った。黒板は壁面いっぱいの大きいものを、奥山黒板店に注文して造ってもらった。
 教室の体裁も整って、いつからでも授業が始められるのだが、まだ生徒がいない。看板だけ掲げれば、明日から生徒は集まってくるというほど、世の中は甘いものではなかった。


 12月も押し迫った20日過ぎ、章くんは、五郎ちゃんち(喫茶フジ)でコーヒーを飲みながら、質屋の息子のケンジロウ(中学の同級生)、校長の息子のヤッチン(高校の同級生)と生徒募集の作戦を練った。「世の中、宣伝や。今夜からビラを貼って回るから、夜中に手伝ってくれ。ギャラはなし」。
 五郎ちゃんは松阪出身だから同級生ではないけれど、たまたま同じ年だったので、この作戦に加わることになった。
 すぐにワープロとコピー機で「三重県教育センター受講生募集、講座案内…、受講料…」と
一覧表にしたビラを作り、夜10時、集合。なぜ、そんなに夜遅くから始めたのかといえば、無許可で電柱にビラを巻くのだから、人通りの多いときにはまずいのである。
 ノリで貼り付けるなどといった、タチの悪いことはしない。B5版のビラを、人の目線の高さにセロテープで上・中・下をぐるりと巻いて、電柱に巻きつけてくるのである。これならば、取るときも、ビラを引っ張ればそのまま外れてきて、テープもきれいに取り去ることができる。
 セロテープを50巻ほど買ってきて、章くん・ケンジロウ・ヤッチン・五郎ちゃんの4人で市内のめぼしい地点の電柱に巻いて歩いた。
 12月の深夜だから寒かったはずだし、みんな、翌日には仕事があるのだが、「これだけセロテープを使ったら、セキスイの株価は上がるなぁ。明日、みんなで金を出し合って買いに行こうか」など ワイワイ言いながら、結構楽しく歩いた。6日間で予定の100枚を貼り歩いた。
 1円のアルバイト料を支払うわけでなく、冬の深夜にガヤガヤワイワイと笑いながらビラ貼りを手伝ってくれたこの同級生たちとは、もちろん今でも親しく付き合いさせてもらっている。今、ケンジロウはオヤジの質屋から脱出してコンピュータ会社の社長、ヤッチンはめでたく親父のあとを継いで中学の校長、五郎ちゃんは努力の甲斐あってレストランのオーナーに納まっているが、世の中の栄達に関係なく、金銭を度外視して、さまざまなことに力を貸し合い助け合う付き合いは、何にも替えがたい宝物である。人間関係の基本であり、章くんの人生の糧となっている。


 1月5日開講を控えて、12月29日の申し込み締め切りまでに、2名の小5と、3名の中学2年生が集まった。合計5名…、100枚のビラを巻き歩いて1週間、すぐに生徒が押し寄せると思っていたが、世の中、これだけで笑えるほど甘いものでもなかった。



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