その8
タイ・ゴルフ紀行
 その1


第5日目 つづき 高級クラブ「ペガサス」、タイ料理「シーフード・ハウス」


 シャワーを浴びて、午後6時45分、待ち合わせのアソーク・プラザの前へ行く。約束の時間よりも15分も早いのだから、今度は自分の方が早いだろうと、章くん、横断歩道を渡っていくと、向こうから手を振っているのは天野さんだ。
「じゃぁ、行きましょうか。9時に、わたしの会社のアイちゃんという子が来ます。タイ料理の店は地元のその子にお任せというのが、最良かと思います。それまで、飲み屋へご案内します」高級クラブ ペガサス
と先に立つ天野さんの後について、20分ほど歩いたところに、この世とは思えない豪華絢爛なるパラダイスはあった。
 会員制クラブ「ペガサス」。天野さんは仕事上必要だろうということで、このクラブの会員になったが、今まで他人に会員カードを貸してやることは多いけれど、自分では年に2度ほどしか足を運ばないと言っていた。
 ドアのところに2名の美人がいて、5・6段の階段を上っていくと、うやうやしく礼をしてドアを開いてくれる。中は、古代ローマ帝国皇帝の居間かといった趣きのつくり。金色と黒の柱、分厚い真紅のカーテン。絨毯に靴は沈み、ソファーはもちろん革張りで深々と身を包む。
 まずは黒服くんが席へ案内してくれて、飲み物や指名の女の子を聞く。飲み物は天野さんの水割りと翔くんのコーラ。「フルーツはどうだ」というので、「OK、持って来い」というこのあたりは、日本のクラブと同じだ。「適当に女の子をそろえて欲しい」と言うと、しばらくして7・8人のホステスを連れてきた。いずれもスリムで足はスラリと長く、グラビヤから抜け出てきたかと見まごうばかりの美女ぞろいである。このあたりが、近頃の日本とダンチなところだ。
 いきなり、この中から横に座る一人を選べという。そんなぁ! 照れるじゃあないか。誰を選んでも、他の子に悪いし…と妙に気を使う章くんであったが、天野さんが赤いドレスのグラマラスな女の子を指名したのを見て、一番後ろにいた内気そうな細身の白い服の子を選んだ。
 名前はソイちゃんという。「日本語は少し、英語も少し,タイ語はペ〜ラペラです」と日本語でご挨拶。このクラブは、日本の企業も接待によく使うとか。この子たちにとって、日本語の習得は仕事の要請なのだ。
 カタコト英語と日本語で、結構意志は通じ合う。ソイちゃんは、バンコク生まれの22才。お父さん、お母さん、お姉さん、妹さんとの5人家族。タイでは、娘3人いれば家は安泰というほど、女の子は親孝行でよく働く。
「ソイちゃんのお父さんお母さんは幸せだね」
と言うと、
「3才年上のお姉さんが一番のがんばり屋。妹は9才離れているので、まだ学生です」
と言っていた。
 天野さんについた赤いドレスの子も、場の雰囲気を和ませ、懸命に客をもてなそうとする。今の日本のクラブなどは、客がホステスを遊ばせてやらなきゃならない。ホステス同士が、「あしたの旦那の弁当のおかず、帰りに買うてかなアカンねん」といったような、内輪の話をしている。タイが男性にとって天国だというのは、まだこうした女性の細やかさや心遣いが、作り物でなく生きていることによるのだろう。もう、日本の女性になくなってしまったものを見い出して、心が安らぐのかもしれない。
 コミニュケーションにも慣れてきて、話がようやく核心(?)に入ろうとした頃、天野さんのケイタイに電話が入った。タイ料理を案内してくれる、アイちゃんからだ。
「ご苦労さん、ご苦労さん」などと言っているから、今まで仕事をさせていたのじゃないか。いくらタイの女性が働き者だといっても、働かせすぎだよ天野さん…などとかなりタメ口を利く仲になったことも嬉しいが、これも2人のホステスさんのおかげである。
 「もう出てきますので、そろそろ私たちも出ましょう」と言うので、勘定をしてもらった。2人で3590バーツ、約10000円。タイの男たちは、毎晩こんなに安く、こんな別嬪を相手に飲んでるのか。怒るぞー!


 待ち合わせは、先ほどのアソーク・プラザの前。先ほど来た道を、20分ほどをかけて、ブラブラと戻る。アイちゃんはもう先に来て待っていてくれた。さすがは天野さんの会社の子である。
 アイちゃんお勧めの店は「シーフード・ハウス」という、魚介類を具材とするタイ料理の店。名前、そのままだって…。食材館で材料を選ぶ アイちゃん
 「何がよろしいですか?」とメニューを見せられたが、タイ語のメニューでさっぱりわからない。「アイちゃんに任せるよ」と言ったところ、アイちゃん、やおら立ち上がり、「スタンダップ」と天野さんと翔くんに席を立たせ、表に出ろと言う。
 『他の店に行くのかな』と戸惑う章くんたちを急き立てて、アイちゃんは玄関前に建っているガラス張りの別館へ入っていった。その館内は、まるで魚やさんだ。水槽には様々な魚が泳ぎ、氷の敷き詰められたカウンターには大小のロブスターやシュリンプ、蟹などが並んでいる。目線の上にはいろいろな料理の見本が、写真にして掲示してあり、このエビでこの料理を作ってくれ…などと注文するのだ。
 蟹、エビ、牡蠣などの料理を頼み、これでひと安心。席に戻って飲み物を飲みながら、料理ができてくるのを待つ。
 と、木を刳(く)り抜いた楽器をコロコロと奏でるタイ音楽の演奏が始まった。しばらく聞いているうちに料理が運ばれてきて、食事が始まった。たいへんな量である。プー・オプ・ウンセンという甲羅付きの蟹を春雨と一緒に土鍋で煮たものは、大きな蟹が3杯も入っていて土鍋もすごく大きい。これ一品でもお腹が一杯になりそうだが、香りつきのネギやショウガと椎茸などの野菜を一緒に煮込み、醤油やオイスターソースで味付けしたこの料理、春雨に味が滲みて美味しい。大好物の牡蠣をパクつく 天野さんの会社のアイちゃん
 アイちゃんは、牡蠣が大好物だと言う。「もうひとつ頼んでもいいですか」と屈託なく言い、その生牡蠣に魚を醗酵させて作る魚醤油をたっぷりと振りかけている。さらにその上に香草の葉を丹念にちぎって乗せて食べるのだ。章くんにも食べろと言うのだが、恐怖のタイの生ものである。ひとつ食べたところで、お腹の奥がピーッと鳴った。
 中央にしつらえられた舞台に電球が灯り、場内がざわつく。タイ・ダンスのショーが始まるのだ。タンタンタンと刻まれる軽快なリズムに乗って、赤と白の衣装の女の子と青と白の衣装の男の子が楽しそうに踊る。次は民族衣装をまとった女の人が二人、手をくねらせる特有のポーズレストランでのかわいいタイ舞踊で踊る。
 するとアイちゃん、手をくねらせ、演奏に合わせてダンスのポーズを繰り広げ出した。手の指も甲の方へ信じられないぐらい反り返っている。
「エッ、アイちゃん、タイ・ダンス、できるの」
と聞くと、
「タイの女の子は学校で習うから、みんな踊れるのだ」
と言いつなから、手の振りを続けている。
 5曲ほどのダンスも終わり、お腹も一杯になったが、料理はまだ半分以上も残っている。「どうしよう」と困ったのだが、アイちゃん、「パックに詰めてもらって、わたし、家に持って帰る」とグッドアイデアを言う。
 しっかり食べて、この店の勘定は4590バーツ。ラーメン1杯20バーツのタイの食べ物店で、4500バーツは「何、食べたンや?」と人に聞かれる値段だが、日本ならば13000円ほどで妥当な値段だ。
「縁がありましたら、またお会いしましょう」
と淡々と言う天野さんに、
「本当にお世話になりました」
とお礼を述べて、章くん、もう自由自在に乗りこなせるようになったBTSに乗ってホテルへ帰った。


 荷物を旅行カバンに詰めて、忘れ物はないか、もう一度部屋を点検する。明朝は6時にホテルを出発。9時10分、バンコク空港を飛び立つ関西空港行きJL728便で帰国する。
 夜の8時には、津市の飲み屋で、天使の都の物語を話していることだろう。完







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