その1      


第3日 1月29日


 「プルーモンスター」再戦の朝が明けた。まだ薄暗い6時00分起床、今日はゴルフまみれの1日だ。朝食ビュッフェでしっかり腹ごしらえをし、コーヒーも飲んで、章くんは7時45分のスタートに備える。ドラル。リゾートの中庭
 今日も、ブルーモンスターに挑戦だ。昨日はコースが解らなかったから少々手こずったけれど、1度回ってある今日は大丈夫…。この難コースに70台とは言わないが、80の前半は固いところだろう。
 7時。朝食のあと部屋へ戻り、今日このホテルを引き払うので、昨夜まとめた荷物を車へ移す。荷物といっても、旅行ケースひとつだけど…。
 7時30分、フロントへ「部屋は空にしたからね。ゴルフが終わったらチェックアウトするよ」と告げておいて、マスター室へ行くと、今日の同伴競技者を紹介してくれた。
 南米ベネズエラから来たというビスガロンドとエンリケという、30前後の若者2人だ。多分この名まえで合っていると思う。聞き取りにくかったが、聞きなおす必要もないだろうと思い、スコアカードにカタカナでこう書いて、ビスガロンド…エンリケ…と呼んだら、それそれに返事していたから、大きな間違いはないと思う。彼らも 章くんのことを「アクゥイラ?(=アキラと言っているつもりなのだろう)」とか言っていた。
 ベルズエラの人はインディオかその混血で、みんな色黒かと思っていのだが、この二人は全くの白人である。何をしているのかは聞かなかったが、ゴルフはムチャクチャ下手だ。ミスして、自分でゲタゲタと笑っている、気楽な2人である。
 この2人に付き合って、今日はレギュラーティから。「昨日のバックティからのインプットが役に立たないじゃないか」と言わねばならないところだが、章くん、何となくホッとしている。


 1番504Yパー5、朝一のティショットは今日もトップ。セカンドは慎重に4アイアンで打ってフェアウエイ。昨夜立てた作戦の通り、慎重にフェアウエイキープだ。しかし、レギュラーティから打っているのに、サードショットで距離が200Y近く残っている。3アイアンで打ったグリーンを狙ったショットは、右に吹けてラフにもぐった。足首が隠れる草むらから叩き出して、グリーンの端に乗せ、4オン2パットのボギー。
 昨日のダボに比べればましだけれど、ドライバーの当りはイマイチだし、前途多難を思わせるスタートだ。
 同伴のビスガロンドとエンリケはと見ると、随所に豪快なショットを見せていたけれど、豪快すぎて2人ともコースに居なかったように思う。グリーンに来ると横の林の中から現れて、パットをしていた。「いくつ?」と聞くと、ビスガロンドは「えーっと、多分19だと思う」。エンリケは「ワカリマシェ〜ン」。2人とも、スコアをつける習慣はないようである。これぞ、ゴルフだ!「どうすればいいんだ」と相談するビスとエンリケ
 2番346Yパー4、短いこのホールでも、セカンドが170Yほど残った。5番アイアンで左のバンカーへ入れ、3オン2パットのボギー。ドライバーを当てるだけで、振り切っていない。もっと思い切って距離を出していこうと、もう昨夜の作戦を修正した。
 3番382Yバー4、右も左も池の、このホールのティショットは難しい。ここで作戦を変更したのが運の尽きというべきか。飛ばすにはハイドロー…、右から軽く戻してくるイメージでぶっ叩いた章くんのドライバーショットは、そのまま右へ飛んでいって、戻ってこない。池までは行かなかったみたいだけれど、右の木の下でガサガサッと音を立てている。
 ビスガロンドとエンリケが、ガハハハーッと笑う。こいつらに笑われたら、もう終わりだ。そのビスガロンド、章くんのボールが転がった木の上を軽々と越え、遥か右の池へドッボーンと放り込んで、ガッハハハーッと笑う。エンリケは左の池のすぐそこへ、ドボッと入れた。こいつも大笑いしている。
ブルーモンスター4番
↑3番パー4

 章くん、右の林でボールを捜していると、ビスガロンドが探しに来てくれた。『他人のボールを探している余裕はないだろう』と言わしてもらわねばならないところだけれど、底抜けに人の良さそうな彼は、草むらに顔を突っ込んで探している。「あったぞー」と見つけてくれたボールを打ち出すのに、章くんは2打を要した。
 池の縁にドロップして打ったビスガロンドは、また池に入れた。それでも「確実に前進している」とか言って、上機嫌だ。
 章くん、5打でグリーンオン。2mを1パットで入れて、ダボだ。
 エンリケなんか、どこをどう通ってグリーンへたどり着いたのかも不明だけれど、グリーン上でもいくつパットしたかも分からない。ホントに狙っているのかと疑うようなパットで、3mぐらいから打って10mぐらいオーバーする。それでも、いつかはカップインするもので、コロンと入れてガッハハハーッと笑う。
ブルーモンスター9番
↑ 9番 バー3 ティグラウンド



 章くん、『ラテンの奴らは、みんないい奴だ』と、南米大好きになってしまった。この2人とゴルフをしていると、スコアなんて小さなことを言っているのは、ゴルフの本質を知らないもののたわごとだということに気づく。ゴルフは、思いっきり打って、そのあとガッハハハーッと笑うスポーツなのだ。
ブルーモンスター17番
↑ 17番 パー4

 4番382Y…。ビスガロンドが何打目かで、フェアウエイバンカーに入れた。様子を見に来たエンリケが、グリーンの方向に立っていたので、「危ないから退いてろ」とか言っている。「解った」とエンリケが右横へ退くと、ビスガロンドは手にしたアイアンをフルショット…、朦々たる砂煙が上がった。
 ボールは…ッ? 砂煙が晴れた後のバンカーに、微動だにしないボールが残っている。エンリケはガッハハハーッと大笑い。『まぁ、バンカーショットは砂を打てって言うからなぁ。でも、砂だけ打ってもなぁ、ポールも飛ばさなきゃ』と、章くんは思う。
 気を取り直したビスガロンドは、再度アイアンを一閃…。ちょっとシャンク気味の当りで、ボールは右横で見ていたエンリケの前を飛んで右のラフに転がった。エンリケが、苦笑いのビスガロンドに向かって、「お前のショットは、前で見ているほうが安全だ。横は危ない」などと言って、ガッハハハーッと笑う。
ブルーモンスター18番
↑ 18番パー5 グリーン


 このあともさまざまに奇妙な出来事があったのだが、詳細は、いつか発売予定の「世界ゴルフ紀行、フロリダ編」をお読みいただくことにして、先を急ぐことにしよう。
 同伴競技者に恵まれて、章くん、この日は6701Yパー72を44・43の87。シングルやから(…レギュラーティだし…)90は叩かん(スタート前は、2日目だから80前半と言ってたけど)…なんて言ってると、ビスガロンドとエンリケに「アキ〜ラ、スコアのことを言うなんて、小さい…小さい…」と言われそう。2人のスコアは、当然、不明…。


 ブルーモンスター挑戦を終えて、ホテルのスナックに飛び込み、ホットドッグ&コーラで腹を満たして、時計を見ると、テラスから9番グリーンを望む午後1時。今朝、7時45分という早朝のスタートを取ったのは、2ラウンドを計画していたためだ。スタート室へ「1人で回るんだけど、これからスタートできるかい」と押しかけると、「どこのコースへ行く?」。
 ブルーモンスターの次は、近年グレッグ・ノーマンの改修によってブルーよりも難しくなったといわれている「ホワイトコース」を回るしかない。ブルーを征服したわけではないけれど、とにかく難しいと聞くと挑戦本能が働いてしまう。
 「ホワイトへ行く」と告げると、「ン、ちょっと前が居るから、一人で行くと詰まってしまう」と言われ、スコアカードを見比べて、次に難しい「ゴールドコースはどうだい…?」と聞くと、「ここは無人状態だ」と理想的な返事が返ってきた。ゴールドコース レイアウト
 ベネズエラの2人はどうしたのか…って? もちろん「午後も、もう1ラウンド行くけど、どうだい」と誘ったのだけれど、「午後はマイアミ・ビーチでスイミングに決まっとるやろ。ここまで来て、アキ〜ラは泳がんのか」と言われ、あわや海へ連れて行かれるところであった。


「ゴールドコース」は、6602ヤードながらコースレートは73.3。近年、レイ・フロイドが改修して戦略性が増したとある


 1番406Yパー4、2オン2パットのパーが来た。ここから俄然当りがよくなって、2番517Yのパー5もパー。 (415Y)・(440Y)・(433Y)・(414Y)番のパー4をボギー・ボギー・パー・ボギーと通過。
 7番199Yパー3で引っ掛けて池へ入れた。3オン2パットのダボ。どこかで、ビスガロンドとエンリケの「ガハハハハーッ」という笑い声が聞こえたような気がした。8番417Yは4のパー、9番196Yのパー3を1パットのパー。このハーフは粘りまくって、5オーバーと踏み留まっている。


 コース図を見ると、このコースも18ホールのうち16ホールに池が絡んでいる。狭いフェアウエゴールドコース 11番 パー5イと多数のバンカーも遠慮なく配されていて、結構タフだ!
 手強いコースだとわかったとたん、10番387Yパー4でいきなりティショットを池へ入れてダボ…。コース図なんて、見なければ良かった。
 しかし、11番579Yで持ち直してパー5をバーディ! 12番153Yパー3はパー、13番350Yパー4をボギー、14番422Yパー4がパー、15番173Yパー3ボギー、16番517Yパー5パー、17番187Yパー3ボギー。パーとボギーが交互にきて、たどり着いた18番397Yパー4は名物の浮島グリーンだ。 
 今日の36ホール目、ちょっとへばってきているが、ドラルリゾート最後のホールのティショットである。池だけ入れてはいけないと集中して放ったドライバーショットは、十分な手応えで、フェアウエイの右サイドに転がった。
 残り160Y。浮島のアイランドグリーンまで、7番では少し短くて、6番では止まるかどうか解らない。章くん、迷いに迷った。このショットに、悔いを残したくない。うしろに人影はないから、じっくりと考えればよい。
18番グリーン
バンフより

 池の中に浮いているグリーンなのだから、ショートをしては話にならない。章くんの7番アイアンは通常150〜155Yを打つ。残りはグリーン中央まで160Yなのだから、155Yを打てばグリーンに届く計算だが手前は池だ、キャリーボールで155Yを打たねば届かない。145Yキャリーして、10Y転がるから、合計155Yという距離では、池の餌食だ。155Yを上から落として、トンと止まる7番が打てるのか。
 7番と6番を2本持って、クラブにも聞きながら考えていた章くんは、結局6番を持った。届かなければ、話にならない…からである。
 ダフリでもトッブしてもいけない。右でも左でもいけない。いや、ここはインパクトに集中して、ただ芯で打つのみである。タイミングを計って一閃した6番アイアンから放たれた白球は、高い弾道を描いてピンに向かって一直線…。
 「行けぇー」。章くんの声に押されたボールは、見事にグリーンを捕らえ、ピンの向こうに落ちた。ン…「とっ、止まれぇー」。今度はストップをかける章くんの絶叫も空しく、ボールは1バウンドでグリーンをオーバーして、向こう側へ消えた。
 「くっそう、あと1つバウンドしたら、バゴールドコース 18番 パー3ックスピンでピンに寄ったのに…(?)」。タイガーウッズのようなことを言いながら、章くん、グリーンに上がって、ボールが越えたと思われる地点からピンに近づかない最寄りの場所にボールをドロップする。このボールを、パターでアプローチ…。20cmに寄せて、このホール4オン1パットのボギーであった。


 トータル…「80」。惜しい〜っ、あと1ストロークで70台じゃないか…と思いつつ、スコアカードをよく見ると、このゴールドコースは、アウト35、イン35の「パー70」であった。6602Yでパー70…、手強いはずである。


 レストランでコーラを飲んだ。夕闇の迫るコースを眺めながら、『ドラルにもやられたか』とゴルフができることの幸せを思う。『あと何年、クラブを担いで世界を巡ることができるのだろうか』とも思う。心して、今のひと時を生き、目の前の一打を打たねばならない。
 すぐにホテルドラル・リゾートの清算をするから、ここは現金で支払う。「チップ インクルーズ」とか言って、10ドル札をポンと置く。ドラルのコーラがいくらだったのか解らない。追いかけてこなかったところを見ると、10ドルよりも安かったということだろう
 ホテルフロントへまわって、チェックアウト…。部屋はすでに引き払ってあるから簡単だ。「マイ ゴルフ オール フィニッシュ。チェック プリーズ」とか怪しげなことを言い、2泊2日3ラウンド分の清算をして、ドラルリゾートを後にした。


 今夜の宿は、マイアミ空港の真北に位置する「コンフォート・イン」。予約していったわけではないのだが、日本を発つ前にネットでマイアミのホテルを探していたときに見つけて、ここもいいかなと思っていたホテルだ。
 マイアミ市内で何をして遊ぼうという目的もないし、泳ぐつもりもないから、市内やビーチに宿を取る必要はない。ここならば、ゴルフ場をはじめ、どこに出かけるにも道路の便利はいいし、空港地域内に建っているのだから、帰る時も好都合だ。
 「一人だけど、空いてる?」と入っていくと、「OK」。1泊148ドル、この時期のマイアミだから仕方がないか。ちなみに4月から12月のオフシーズンは85ドルだというから、半額ほどだ。


 ホテルの隣にBennigan's & Victoria Station「Bennigan's & Victoria Station」というアメリカ料理店があった。お目当てはストーン・クラブという、カリブ海産の蟹。大きさによって値段が違うということだが、ここまで来て金に糸目をつけるような章くんではない。「大きいのくれ。ビッグ、ビッグ…」とか言って注文した蟹は、とにかく大きかった。下の皿よりも遥かに大きい。ガイドブックに、「2人で1つ頼んで、サイドオーダーを頼むと丁度いい」とあったのは、このことか。
 腕の一本一本から肉を掻き出し、たっぷりの時間をかけて、大きな蟹を平らげてきた。皿を下げに来たウエイターは、「日本人というのは、なんと見事に蟹を食べる民族か」と、驚嘆したことだろう。
 スープとコーラとデザートとコーヒーをつけて、87ドル。日本の料理店のように「特大ですからぁ、3万円」なんてことはないが、アメリカだということを考えれば、87ドルも目ッ茶高いだろうか。
 「ウイズ チップ」などと、またまた怪しい英語とともに、章くん、日本を出るときに換金していった真新しい100ドル紙幣を置いてきた。レジのおじさん、章くんがドアを出るやいなや、すかさずその紙幣を電灯の光に透かして確かめていた。



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