プロローグ
「寒いなぁ」。「こんなに寒いのに、何でゴルフせなあかんのやろ」。12月のある日のコンペでの会話である。
冬場のゴルフはつらい。肌着に下着のベスト、トックリセーター、Vネックセーターと重ね着して、その上からウインドブレーカーを着たら、スムーズな体の動きはできない。それでも吹き付ける北風に、耳は千切れるほどに冷たく、指先はかじかんで微妙なパッティングのタッチなど望むべくもない。
「それなら、冬場はゴルフせずにいられるか?」。「無理やわ」。
冬場はゴルフをやめればよいだろうとゴルフをしない人は言うかもしれないが、ゴルファーとはそうはいかない生き物なのである。
「暖かいとこへ、行けばええんや」と奈津子。鈴鹿市でスナックを営む、ハンディ12である。「タイなんかどうかなぁ。ゴルファー天国やというわよ」。
「タイでも、5〜6日は要るぞ。店、休めるのか?」
「女の子たちがいるんだから、思い切ったら、ええのよ」。

ということで、タイへ来た。念のために言っておくが、昭ちゃんというお邪魔虫がついてきている。
昭ちゃんは菓子屋の二代目。奈津子にちょっと気があるようなので、何も言わずに2人で行ったら殺されるかと思って、「奈津子がタイへ行こかというとるんやが、お前も行くか」と声を掛けたところ、いつもは「家内に相談してから」とか言うくせに、このときばかりは「行く、行く」と二つ返事…。
1日目 マンダリン・バンコック
『バンコク5日間ツアー、41800円+1人部屋追加6000円』、往きは関空を宵に出て深夜にホテル着、帰りは早朝にホテルを出て昼過ぎに関空着、だからバンコクには3日間の滞在である。初日は「王宮」などの市内観光と買い物ツアーがついている。だからゴルフは、2・3日目の2ラウンドだ。
午後7時、気温摂氏2℃の関空をテイクオフ、6時間で27℃のバンコク空港へ着いた。タイへの入国手続き、荷物の受け取りなどに30分ほどかかり、待合室へ出てきたのは日本時間で午前1時30分…タイ時間では2時間の誤差があるから午後11時3

0分だ。
『阪急○○ツアー』と書いた看板を掲げている現地案内のご婦人を見つけて、バスに案内してもらい、ホテルへ向かった。
『マンダリン・バンコック』、ちょっと古いけれど、大きくて豪華なホテルだ。奈津子が1人部屋というのは解るが、昭ちゃんまで「一人部屋にして下さい」と女みたいなことを言う。何か、魂胆があるのだろうか。案内人さんから渡されたカードキーは812が奈津子、813が章くん、814が昭ちゃんだ。
それぞれに部屋へ荷物を置いたあと、章くんの部屋へ集まってコーヒーを入れる。タイ時刻に合わせた時計は、午前1時30分になろうとしている。明日は市内観光、午前8時30分にホテルの前のバスに乗る。「じゃぁ、7時30分に朝食に行こう」と言い合わせて解散。
シャワーへ入ろうと蛇口をひねったところ、湯がぬるい。水量が細い。奈津子の怒り狂っている顔が浮かぶ。
ジリリーンと章くんの部屋の電話が鳴った。奈津子の苦情かと思ったところ、「湯が出にくいし、ぬるいけど、みんなそうかなぁ」と昭ちゃんからの問い合わせ。「南国へ来とるんやから、水でもかぶって寝ろ」と言われて、切られてしまった。
第2日 市内観光
午前7時起床。顔を洗って朝食へ。奈津子はすでに化粧バッチリだ。「女は、1時間早く起きなきゃならないのよね」と朝は機嫌が悪く、絡み口調である

。
その奈津子に、昭ちゃんは「暑いなぁ。朝からムッとするなぁ」とうっとおしく「暑い」を連発するものだから、「ンなら、日本へ帰ったら。日本は冬やから、涼しいよ」と叱られてしまった。
マンダリンの朝食バフェ →
8時30分、ホテルの玄関前に停まっているバスに乗り込み、市内観光に出発。途中で80人乗りぐらいのボートに乗り換え、バンコク市内を流れるチャオプラヤ川を渡って、「ワット・アルン(暁の寺)」へ向かった。

小山のような大仏塔の側面には、小さな陶片が貼り付けられていて、朝の光にキラキラと輝いている。仏塔の途中まで登ることができるのだが、階段の傾斜がすごく急で、高所恐怖症の章くんには恐ろしい。ジェットコースター大好きギャル(おばはん?)の奈津子は高いところも平気で、全ての階段を制覇していた。
「何もかも、金ピカね」と大はしゃぎ…。『ちょっと剥いでいこう』と言い出すんじゃないだろうな。

また船に乗って対岸へ戻り、こんどは「王宮」の見物である。歴代のタイ国王が住まわれている王宮と王立寺院(ワット・プ

ラケオ)を拝観するのだが、現国王のラーマ9世はこの王宮には住んでおられないとのことである。
「これだけ人が来るところには、住んでおれないわね」とは、観光客であふれている金キラキンの王宮を見た、奈津子の感想である。
← 金ピカッ!

次のお寺には、むっちゃ大きい仏様が寝ッ転がっていた。
寺の名前が「涅槃寺(ワット・ポー)」というから、ただ寝ッ転がっているわけでなく、涅槃の境地にあられるわけだ。
涅槃は、入寂…すなわち仏様がお亡くなりになることで、寝転がっているのは、亡くなられる前のお姿かと思っていたところ、涅槃をしらべてみると入寂のほかに、あらゆる煩悩が消滅し、苦しみを離れた安らぎの境地とある。
やっぱり、寝ッ転がるのは極楽なのだ。
むっちゃ大きい仏様。足も大きい →
お昼になった。バスは市内のホテルのレストランに寄って、タイ料理&中華料理のような昼食を取った。
今回の旅ではさまざまなタイの料理に出会ったが、タイ料理は近隣の中国、ベトナム、マレーシアなど様々な国の料理が交じり合った、ホントに味わい深い料理であると思った。新鮮で豊富な食材もさることながら、最大の特長は香辛料にあるといえるだろう。特に4大調味料とされるナムプラー(魚醤)、プリック(唐辛子)、パクチ

ー(香草)、マナオ(ライム)は多くの料理に使われ、それぞれ辛さや香りを味わい深く演出している。他にもレモングラスやミントなどのハーブ、甘さの素となるココナツミルクなどがふんだんに使われていて、
最初はクセがあるなーと思ったけれど、国際野良猫の章くんは食べれば食べるほどヤミツキになった。
短い滞在であったので、1日が3食しかないことが恨めしく思えるほどであった。
午後からこのツアーは、お店まわりだ。タイシルクの店、宝石店、みやげ物店など…。このツアーの客が何かを買えば、売り上げの何%かが、旅行会社へ入るのだろうか。
「ツアーの契約店では、きっと値打ちなものはないわね」と言っていた奈津子だが、シルクの店に入ると「このスカーフ…、あのブラウス…、安いから」と買い出した。宝石店では10万円もする指輪を買いそうだったので、章くんと昭ちゃんは2人がかりで取り押さえた。
章くんも昭ちゃんも、ネッカチーフぐらいは買いたいところだが、奈津子の前では買いにくい。
3時過ぎ、ホテルへ戻って、ラウンジでスイカジュースを飲み休憩。タイのフルーツ類は美

味しい。燦々たる太陽の光が、くだものの甘さを醸成するのだろうか。
ホテルの近くにお寺(ワット・ファラボーン)があったので、夕食までの時間をブラブラと歩いて見物してきた。大きな道を渡ってすぐのところだ。

境内にはいろいろな花が咲いていて、緑の中のお堂に黄金の仏様が鎮座ましましていた。
ン 奈津子、タイへ来てちょっと痩せたか? →
ホテルを出たところの屋台で、また何か買っていた

夜はツアーの案内人さんにオプションツアー「タイ古典舞踊鑑賞」に連れて行ってもらった。踊りを見ながら夕食を食べるツアーだ。
古典舞踊鑑賞会で
出てきたタイ料理
暗かったせいか
味はイマイチ →
う〜ん、女子高の文化祭のよう。いや、男の人も出演していたみたいだから、女子高ということはないか。
タイの古典宮廷舞踊は、インドの大抒情詩ラーマーヤナをタイ用に編集した、ラーマ王子のタイ建国の物語である。それにしては城郭や宮殿などの舞台装置もほとんどなく、登場する人たちの衣装も簡単…。まぁ、1人1000バーツ(3000円)で夕食付きの観劇だからこんなものかな。
奈津子の希望で、ホテルへ戻る途中、マッサージ店へ寄った。「タイへ行ったら、ゴルフとマッサージ!」と言っていた奈津子だ。ホテルの近くのマッサージ店をチェックしておいたらしい。
明日のゴルフは、7時にホテルを出る予定…、起床は6時だ。「マッサージよりも、早く寝やんと、寝る時間がないぞ」と言う昭ちゃん、「タイへ来たら、ゴルフ場往復の車の中とマッサージ中が睡眠時間よ。夜は寝ないの」と、マッサージ・フリークの奈津子にまた叱られた。
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